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新春をことほぐ「河豚」の旨み 厳しい冬に耐えた孟宗竹に舌鼓

懐石小室

新年あけましておめでとうございます。気ぜわしい師走を乗り切り、おせちやおとそでホッと一息、新たな気持ちになる1月は、新春を祝う天然物の河豚(フグ)をご賞味いただきたいですね。そのほかにも、暖かな春にそなえて甘みをたくわえた筍(タケノコ)と、パンチのある風味の老舗の鮒寿司もご用意しています。

◆味がきれいな天然物のトラフグ

高級魚のひとつであるトラフグ。天然物は海を自由に動き回って新鮮なエサを食べているので、身につく味が全く違います。
天然物は養殖と比べようもないほど味がきれいなのが特徴です。別物だとさえ思いますね。

河豚といえば山口・下関を思い浮かべる方が多いでしょう。

江戸時代には「武士が食べ物のごときに当たって死ぬなんて身持ちの悪いやつだ」と言われ、毒のある河豚を食べるのは御法度とされていました。

いつ誰が足を引っ張るか分からない江戸の町。お家お取りつぶしなんて目に遭わないように、なかなか開放的な食文化は根づかなかったのでしょう。

下関には、伊藤博文が清国使節と条約を締結した割烹旅館「春帆楼」があり、ここは一番最初に河豚の免許を受けました。そんな背景もあって30~40年前は、天然のトラフグの競りが立つところは下関の南風泊(はえどまり)市場ぐらいでした。

河豚の値段を決める一大集約地。築地の方が近い港で揚がったのに「値がいいから」とわざわざ南風泊まで運んでいくこともあったんです。

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◆篠島や佐島、瀬戸内海・豊後水道も

いまトラフグは、渥美半島の先の愛知・篠島もおいしいし、神奈川・佐島あたり、瀬戸内海・豊後水道のものも大変美味です。鯛のおいしいところは、河豚のいいものも多いんですね。

身を味わいたいときは、大きくて固太りしていることが大事ですね。白子や真子が大きすぎず、尾ひれがきれいなのがいい。雄と雌で身の優劣を感じることはありませんが、雌は白子を味わえるのがお得です。

水槽にいすぎるとどうしても味が落ちるので、獲れてから時間が経っていないものがおいしいです。年中おいしい河豚ですが、やはり鍋に使いたい需要が高い11~2月が一番出回ります。

薄造りの「てっさ」で味わって頂くには、身の締まっている冬の河豚が一番。歯ごたえがあり、じゅわっと旨みを感じるのは良い天然物である証拠です。

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◆寝かせて旨みを引き出す

うちでは鍋はあまりやりませんが、てっさのほか、焼き霜でお出ししたり、しゃぶしゃぶにしたり。唐揚げを楽しんでいただくこともあります。

河豚はほかの魚と違って、生け締めしたその日には使えません。小ぶりの河豚でも一晩は寝かせます。寝かせることでアミノ酸が出てきて、旨みがしっかり出てくるんです。
2kgぐらいあって身に力のあるものは、二晩ほど寝かせないと味が出てきませんね。

「薄造り」といいますが、魚の個体にあわせて「食べたときにどんな厚さでひいたらおいしいか」を想像しながらひくと、自然と薄造りになります。

「このくらいの厚さで」と想像する感覚が大切で、これは鯛や平目、赤身の魚を刺し身にするときでも同じです。和食が「切るだけが料理」という感覚はそんなところから生まれているのでしょうね。

◆皮ならではの食感と味わい

河豚にはトゲがあって食べられない「表皮」と、その下にあって食べられる「真皮」「とおとうみ」「身皮」があります。

「とおとうみ」という呼び方は、「三河(みかわ)」の国の隣に「遠江(とおとうみ)」があったことからきています。河豚の「身皮の隣」と、「三河の隣」をかけているわけですね。

鯛などの魚には皮との間に油の層があって包丁でむけやすいのですが、河豚にはこれがありません。ぴたっとくっつけて包丁を動かし、身と皮を外します。

しっかりぬめりをとり、外側のトゲはまな板にくっつけて外し、どの皮も湯引いて使います。グミのようなゼラチンの強い食感が表皮。内側にいくにつれ、だんだんと歯切れがよくなっていきます。

お造りに添えたり、白子やあん肝とあえたり。それぞれの味わいを薬味を変えて楽しんでいただきたいですね。


◆新春の甘くて香ばしい筍

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新春にぜひ召し上がっていただきたいのが、九州の筍・孟宗竹(モウソウチク)です。

筍を最初にいただくのは鹿児島。春一番が吹くまでは、鹿児島の筍が香ばしくて甘くて、ただただおいしいんです。

年末から出てきますが、11~12月はまだえぐみが強い。霜がしっかり降りた年明け頃からやわらかくなってきます。この頃のサイズは大きくても10センチほど。下ゆでしてから様々な料理に使います。

天ぷらにするとほくほくして、トウモロコシのような甘い香りが漂います。付け焼きもいいですね。炭で焼いて土佐醬油を塗って召し上がって頂く。みなさんホッとした顔をされますね。

筍と梅干し、昆布でつくった昔ながらのお椀「筍羹(しゅんかん)」も、新春らしい味わいです。

◆昔から食した冬芽の筍

孟宗竹の名前の由来は、孟宗という子だそうですね。雪の降る晩、病に伏している母に「何が食べたい?」と聞いたところ、病床の母は「筍が食べたいねえ」と言ったんです。

孟宗は雪をかき分け、土をかきわけ、冬芽の筍を探してくる。それを食べたお母さんは大変喜んだ、というお話です。

「こんなに早く筍を食べるの?」とおっしゃる方もいらっしゃいますが、名前の由来になっている通り、真冬から筍は土の中にいて、昔から食べていたんですよ。

雪の中で寒さに耐え、春を意識する新春の頃になると、だんだん甘くなってくる。隙あらばすくすく大きくなってやろう、という様子を感じますね。


◆伝統製法でつくる「鮒寿司」

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この時期にパンチのある一品として楽しんでいただきたいのが、滋賀・近江に古来から伝わる鮒寿司(なれずし)です。

琵琶湖産のニゴロ鮒を塩漬けにして、近江米で漬け込む発酵食品ですが、400年の歴史を誇る「総本家喜多品老舗」さんのものをお出ししています。

乳酸菌たっぷり、クセになる味わいです。「百匁百貫千日(ひゃくめひゃっかんせんにち)」と呼ばれる伝統的な製法でつくられています。

木桶で1000日漬けて、3年熟成という気の遠くなる作業。漬けもの石を乗せられるような力持ちでないとつくれませんので、18代目や息子さんも本当に筋骨隆々です。

◆万能薬としても食べられていた

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昔から近江では「熱が出たら鮒寿司」「風邪を引いたら鮒寿司」「お腹が痛くなったら鮒寿司」……と、万能薬としてありがたがられていたようです。

しかし独特の匂いは好き嫌いが分かれますね。彦根藩から「万能薬としておいしく食べてほしい」と送ったところ、相手から状が届いて「なぜ貴殿はこのようなものを送りつけるのか。そのいかんによっては、ただごとならぬことであるぞ」とお怒りになったという話もあったりします。

匂いを和らげた粕漬けの商品もありますが、好きな人からすると「おいしい鮒寿司に粕をつけるなんて」という意見もあるようです。

「どんなに匂いのきついチーズでも平気」というシェフでも苦手な方はいます(笑)。手間暇かかった貴重なものなので、お好きな方だけ、くせになる特別な味を召し上がって頂ければと思います。

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