懐石小室
鮎・星鰈・蓴菜・ハモ。多彩な顔ぶれを味わう6月
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鮎・星鰈・蓴菜・ハモ。多彩な顔ぶれを味わう6月

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◆瓜のような爽やかな香り、川魚の女王・鮎

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川魚の女王ともいわれる鮎。6月はまさに鮎の季節です。そのほか、星鰈や、梅雨時においしくなる蓴菜、初物を味わうレンコンなど、多彩な顔ぶれが楽しめます。この時期ならではの食材を味わっていただきたいですね。夏のお楽しみである「ハモ」も出回ってまいりますが、ハモのお話は7月にたっぷりお伝えしたいと思います。

◆苔をはむようになった若鮎

この時期になると、若鮎は苔をはむようになります。そんな鮎のいる清流を高いところから見下ろしてみると、魚の側面に光が反射してキラキラきれいなんです。鮎はこの季節の4番バッターといってもいいですね。

日本全国で獲れる鮎ですが、中国では「魚へんに占う」はナマズをさすそうです。日本では占いをするときに鮎を使ったそうで、鮎をさすようになったといわれています。

昔、冷蔵がない頃は脂が多い魚は酸化が早く、敬遠されがちでした。鮎はすごく脂がのっている魚ではないがゆえに、日本人の生活に深く関わりのある川魚です。いろり端で焼いたのを、引っかけていぶしながら、年越し用に鮎の焼き干しをつくる家庭もありました。冬の大事なたんぱく源として、煮魚にしたり、お雑煮の出汁にしたり。

ヤマメやイワナよりもとりやすい。川の大きな岩の近くに両手で重い石を投げ入れると、「バーン」という水面の衝撃に驚くのか、岩陰に隠れていた鮎がぷかーっと浮いてくることがありました。網ですくって、子どもでもとれる魚でした。

鮎の食し方は、なんといっても塩焼きですね。昔なら流木を集めて河原で焼いて食べた魚です。とはいえ3,4本も食べると味に飽きてきますが、そういう人が「辛い葉っぱを間に食べるとさっぱりするな」なんて言って、「蓼」とあわせて鮎を食べるようになったんじゃないですかね。

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◆魯山人も愛した味

北大路魯山人も好物だったという鮎は、京都の桂川や鞍馬のあたりの鮎を汽車に乗せて、ふたりがかりでジャバジャバとひしゃくで水をかけつつ、10時間かけて運んでいたそうです。

何とか弱らないように運んできた鮎を、当時は珍しかった車を走らせて赤坂へ。わき水の生簀に放ちますが、どうしたことか、その鮎を串焼きにしても口をつけてみても「内臓がない」。

「あれほど内臓をとるなと言っただろう」と主人は怒るけれど、板前は「何もしておりません、そのまま焼きました」と。どうやらエサも食べずにおくと1、2日で鮎の内臓はなくなってしまって空洞になるそうですね。

◆友釣りの解禁後

鮎は春以降にどんどん大きく育っていきます。それまでプランクトンなども食べていた鮎は、5月に入ると苔しか食べなくなり、そうすると「集団のエサ場」を大事にする習性を逆手にとって「友釣り」で釣ることができるようになるわけです。

友釣りが解禁されるのは6月以降。よそから来た鮎がくると、エサ場をとられてしまう。戦わないといけないので、近くによっていくと、逆さ針がついているんです。後から来た鮎に絡みついて刺さるので、それで釣り上げます。

8月でまた鮎は一回り大きくなりますが、9月は「落ち鮎」「さび鮎」ともいいます。9月頭ぐらいからは、体の色が濃くなってきます。メスが子を産んだあと、オスが子をかけますが、ふらふらになって、子どもでも捕まえられるぐらいです。やはり味わいは落ちてしまいます。

◆ふわっと立ち上る瓜のような香り

「香魚」と呼ばれる理由は、送られてきた発泡スチロールを開けた瞬間に感じます。「苔を食べたんだな」と分かるような、スイカや瓜のような香りがふわっと立ち上ります。

内臓を外してしまうと鮎の面白さは激減してしまいます。やっぱり一番の食べ方は塩焼きだなと。網で獲った鮎は砂をかんでいることがあるので、用心しないといけない。友釣りに出てくる鮎は砂を吐いているので、わたごと頂くことができます。

砂をのみこむ理由は、雨が降ってきたときに流れに飲み込まれないように体を重くするようです。砂や小さな砂利を胃に入れて、流れの弱いところに身を潜めて、水が引くまで待つ。そこで網を打つと獲れてしまうんですが、そういう鮎は塩焼き以外で頂くのがいいですね。

◆川ごとに違う鮎の味わい

春先に放流される稚魚は養殖が主流ですね。解禁月を迎える頃になると、天然に近づいた味になります。小室では四万十川や高津川、豊かな自然が残っている清流の鮎を使います。

実はその川ごとに鮎の「味」が違うんです。

川の水を飲んでも「全く違う!」というほど差が出ないかもしれませんが、鮎がそこの川で育ったコケを食べて育ったものがうちに来ると、味の違いがしっかり分かる。この川の鮎はコクがあるとか。食べ比べして味わってもらいます。

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◆星鰈(ホシガレイ)

夏に旬を迎える魚はどんどん身質がよくなっていきます。
鰯を例にあげると、梅雨時から9,10月ぐらいまで身質のコンディションがいいんですね。冬から春は、太っていても養分がとられてしまうし、4月に「太っているからいいね」と買ってみても、身の方の弾力性がよくない。おろすと鮮度はいいけど水っぽい。

このくらいの時期から、身が飴色になって、透明感はあるけれどつやっとしている。よく肥えていて、身が充実しているのを「身質がいい魚」と呼ぶわけなんですけど、瀬戸内の星鰈も5月ぐらいからだんだんよくなっていきます。

いい魚というのは内臓を見ると、肝が太っているんですね。脂がのっていると肝がぱんぱん。はち切れるぐらい大きいんですよ。
星鰈につぐおいしさである真子鰈(マコガレイ)も、今年は早く状態がよくなっていますね。

◆コロコロしている魚を狙う

太っている魚っていうのは、頭から身に入るところが、少し盛り上がっているんです。頭蓋骨はなかなか大きくなりませんが、身は数日で大きくなるからでしょうか、尾っぽの付け根の肉もずっと分厚い。

太っている鱸(スズキ)やコロコロしている鯛なんて、「泳ぎにくそうだな」と思ってしまうぐらい。それが意外とコロコロしている魚って機敏なんですよ。これが魚でいうと「おいしい魚」でありまして、そんな魚を狙って買います。

◆身質が詰まってくる6月

星鰈を扱い始めたのは、開店した頃より。当時は知らないお客様もいらっしゃいました。「干す」ではなく、ぽつぽつとある模様が「星」のように見えるから、名前の通りスターフィッシュなんですね。

北の方には星鰈の近似種の松皮鰈(マツカワガレイ)があります。
宮城から南、九州にまでいるのが星鰈。日本海側のはあまり聞きませんね。

6月ぐらいから身質が詰まってきます。市場を見渡すと、白身魚でいえば東は星鰈、西は茂魚(アコウ)ですね。地方によってアズキハタとも呼ばれます。

今では幻と冠のつくほど貴重な星鰈。日本橋に魚河岸があった頃から高価でしたが、東京にもいい星鰈が入るようになってから、毎日40~50枚は市場に入ってきて、名だたる料亭に行き渡る量がいたそうです。
味や身質がとても良いので人気があり、お造りにもお寿司にも使いやすい大きさは1~2kgぐらいのものですね。1.5~2kgぐらいのものが身質もよく、成熟度があっていいですね。

◆最高級、薄造りでもこりっとした身

星鰈の何がいいかというと、身が硬質に仕上がる、鰈の中では最高級なんですね。次に味がいいのは真子鰈ですが、程よい弾力がある食感です。

星鰈は厚みを持たせてさ包丁すると、かみづらいほど。
薄造りにするのが適当で、身がこりっとします。

さっぱりした味わいが好きな人の多かった昔は、星鰈も洗いで出されていたそうです。今は食の好みが変わってきて、冷たいお酒も空調もある。そんな今では、ちょっと洗いでは出したくないですね。

薄造りにすると見た目も透明感があってきれいで、梅肉醬油なんかで召し上がって頂くといいですね。

夏は鰈の旬にあたります。星鰈、真子鰈のほかにも、メイタガレイなんか小味がきいていていいですね。600gほどと小ぶりですが、身質が詰まっていておいしいです。

ただ、いろんな鰈が旬のなかでも、味の強さは星鰈がダントツです。
お造りにしてもお椀にしてもおいしい、骨からしっかり出汁が出てアラ汁にもできます。味が強いのにきれいで、何をしてもおいしい。

真子鰈もおいしいんですが、強さのベクトルは星鰈の勝ちでしょう。圧倒的なおいしさがあります。

◆洗ってもおろしていても「いいな~」

星鰈は「海のダイヤモンド」とも呼ばれるそうですね。
その通り、良い星鰈って水洗いしていても「いいな~」、おろしても「いいな~」ってうなっちゃうんです。うちで扱うハモと並ぶくらいですね。

一方の平目(ヒラメ)は「寒平目」とも呼ぶように11~2月がおいしい。夏に使うとしたら小ぶりなものを使いますが、わざわざ夏に平目を出す料理屋は、余程の時化か本当に自信があるのか気のない料理屋か、どちらかですね。

◆三田でとれる天然の蓴菜(じゅんさい)

魯山人が絶賛した京都・深泥池(みどろがいけ・みぞろがいけ)の蓴菜。昔はいい蓴菜がとれていたようですが、造成されて池の水質が悪くなってしまった。

そのあと兵庫や広島、京都の近隣で関西の蓴菜が採られるようになりました。その後、秋田では休耕田を転用して「蓴菜池」にしようという動きが起きて、一大ブレークしたわけなんです。

でも田んぼの水は浅くて水が温まりやすいからから、ちょっと色が変わりやすいと感じます。

兵庫・三田の蓴菜は天然です。見た目が深い色でして、「あなたちょっと、さっきまで池にいたでしょ?」ってな色をしているんです。
緑が濃い蓴菜を見れば、池のイメージが広がるような。

この三田の蓴菜の沼には、実際に蓴菜を採りにいったことがあります。ブリキのテープ四角い舟の裏っかわにガムテープでバッテンがついていて。「これ穴あいてるんじゃないの」って船で採りましたね。
「転覆したって腰から下ぐらいだから」って笑われて。

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◆「もうかる」縁起物でもあった

過去に300~500ぐらい池があった頃は、ちまちま採るんじゃなくて、船にのったお父さんが鎌でどんどん刈っていって、それがふわーっと水面に浮いて、水辺にいるお母さんが集めていくかたちでした。

だから蓴菜は縁起物と申しまして、「藻を刈る」が転じて「もうかる(儲かる)」。古事記や万葉集にも登場し、「沼の縄(ぬなわ)」とも呼ばれていたそうです。

◆しとしと梅雨時に大きくなる被膜

水深1mぐらいのところに生える蓴菜は、梅雨時期になるとぷるぷるしたまわりの被膜が大きくなるんですね。

なぜあんな被膜をつけたのか、「小魚に食べられないように」なんて言う人もいますが、ほかの水草にはつかないわけです。神様しか知らない不思議です。

この被膜の部分は水面から20cmほどのところ。
梅雨ぐらいのしとしとした雨ならちょうどいいんですが、近年のゲリラ豪雨のようなひどい雨が降ってしまうと、水の振動が大きすぎてこの被膜が落ちてしまう。

山葵醬油で頂くのもおいしいけれど、鰹と昆布にうすくちとお酢をおとした出汁と、ちゅるっと召し上がって頂くのがおいしいのではないでしょうか。

◆栄螺(サザエ)はオレンジ色の吸盤

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夏は栄螺もおいしいですね。東京近郊だと千葉・下田や小笠原諸島、佐島あたりで獲れるんです。サイズが大きくなると大味になるものも多いですが、栄螺は大きなサイズになっても美味しいのが特徴です。鮑も同じで大きいサイズも美味しく、巻貝の特徴と言っても良いかもしれません。

「栄螺は貝殻の角がある方がおいしいんですか?」と聞かれることもありますが、ないからってまずいわけではない。でも、潮流が激しいところの栄螺は流されにくいように自然と角が出てくるようですね。

ただ、この潮が速いところにいればいいわけじゃない。まっただ中ではなく、その潮流を俯瞰でみられるぐらいの賢さがある栄螺はいいですね。

潮の速いところにはプランクトンが集まりやすい。鯛だって、あまり瀬が強いところで獲れたものは、骨折しすぎてこぶができるんです。

経験則を得て「これまで潮にぶつかっていく生き方は間違いだった」という器量があると、鯛なりに「こっちの潮目だな」「ここでやり過ごそう」と研究するようですね。そうすると瀬の強いところでありつつ太ることができるし、ぎょろぎょろした目ではなくなります。

栄螺の選び方に関しては、吸盤のところがオレンジ色できれいな方がおいしいですね。身質が良い。大きさにかかわらず、色は判断材料になります。

◆江戸の人が大好きな「初物」

なんといっても江戸の人は初物が大好きです。

蓮根(レンコン)は8月ぐらいには相場が落ち着いて1kg2千円ほどになるのですが、スタートは1万円ほど。修行していた頃は、先が見通せる縁起物とはいえ、まだそれほど澱粉ものっていないし「1万円もする代物なの?」と不思議に思っていました。

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しかしやっぱり「初物」の喜びは代えがたいものがあります。「きょう初荷ですよ」「初もんですよ」とお伝えすると、喜ぶお客さまの多いこと。

とくにこの時期の蓮根は、細い蓮がシャリシャリとした味わいがするんですね。

マグロはやり過ぎの感も否めませんが、初物には通常相場の5倍ぐらいをつけてあげるのが、粋筋な値のつけ方ではないでしょうか。

小室でも、山をあちこち歩いてようやく採れた松茸の初物は、K当り100万円位で引き取ります。

蓮根のシャリシャリした食感を生かせるように、サッと火を通して頂くのがいいですね。この時期ならではの歯触りを楽しんでいただきたいです。

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編集・水野梓



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