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秋の実りの王様・香り高き「松茸」と「紅葉鯛」で食欲の秋を満喫する10月

懐石小室

秋といえばやっぱり香り高き「松茸」。焼き松茸はもちろん、土瓶蒸しや松茸ごはんのほか、鮮度のいい松茸だからこそできる「生」の味わいも楽しんでいただきたいですね。あわせて10月は、春の次に再び旬を迎える「紅葉鯛」を味わって、食欲の秋を満喫していただければと思います。

◆収量の減った天然のきのこたち

実は松茸は、初夏にもわずかながら食べることができます。ある時期の冷え込みを秋になったと勘違いして出てくるもので、「早松(さまつ)」と呼ばれます。
熊本・天草の方から採れていって北上していき、北海道の早松がとれ始めたというのが7月ぐらい。暑くなってくるといったんなりを潜めます。

8月下旬ぐらい、今度は北海道からまた戻ってきます。岩手や信州、間をおいて丹波や、さらにおいて広島・山口……。このあたりが関東に出荷される松茸の順番でしょうか。

やはり味わいは丹波のものが一番。しかしなにぶん収量が少ないので、年々、召し上がっていただける可能性が減っていく一方です。

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岩手や信州は、たくさん採れるというわけではありませんが、一定程度の収量があります。そこに照準を合わせて「松茸をどうぞ」とお声がけすることが多いですね。

松茸は山の中の気温が18~20度ぐらいになってくると良く出てくるようです。「菌」というのは脆弱なもので、ちょっとした気温や湿度の変化で丈夫な育ちができませんし、育ったものさえ立ち腐りしてしまったりもするんです。

開けた道を整備したり、24時間営業のお店が煌々と照明をたいていたり……そんな環境の変化の影響を受けやすいのが茸(きのこ)や苔(こけ)といった菌類ですね。

松茸は人気があるので、多い少ないを言いがちですが、これは天然のきのこ全体に言えることです。シメジ類や、ラッパのような形の野生のきのこ「香茸(こうたけ)」も減ってしまいました。この香茸は、香茸にしかない香りがあって、天然の真鴨なんかと一緒に炊き込みごはんをすると、独特の旨さがあります。


◆鮮度のいい松茸を「生」で

一般的に松茸は、焼きや土瓶蒸し、松茸ごはん・天ぷらがメジャーな食べ方でしょうか。

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しかし採ってから2~3日の鮮度がいいものだと「生」で食べられることもあります。といってもそんなにたくさんいただくものではありませんが、ふたくち、みくちと召し上がっていただくと、まさに「山を感じる」とでもいうのでしょうか。松茸のエッセンスを焼くよりも感じていただけると思います。

小室では、趣向を変えた一皿として、干子(ほしこ。ナマコの卵巣を干したもの)とともに、合間でお出ししています。

焼くと繊維が立って感じられますが、火が入る前はそれがほろほろしています。口の中でほどけ、ほかにない食感で、なんとも言いがたいですね。
何もつけずに召し上がって「森林浴」をしていただき、干子をかじって「潮騒」を感じていただければ、これは最高の八寸だと思います。


◆焼き松茸もレア気味でいただく

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焼き松茸は、不思議なことに「炭」とガス火ではおいしさが全く違うんですね。しっかりと火をおこして、そこで焼いてあげると、しみじみ「おいしいなぁ」と思いますね。

料理人によっては「昆布だしや酒に浸して」なんて人もいらっしゃいますが、一切必要ないと思いますね。洗った松茸をさっと切り裂いて、焼くためにさっと水で濡らしたものを火にかけて。強火でさっと焼き目がついたらひっくり返して。裏表焼き目がついたら召し上がっていただく。

生でも食べられるものなので、中はレア気味です。焼いている時もうっとりするような香りが立っていて、炭にのせるとお客さんは「いい香り~」なんておっしゃいますね。また、お客さんが「甘い」ともおっしゃいます。上質な松茸は甘くて、旨味が強いからなんですね。

土瓶蒸しはクエと一緒に。鱧(はも)とも言われますが、それよりおいしい魚が何かないかな、と探して、トラフグも何年かやっていましたが、もっとおいしいなと思って最近はクエを使う機会が多いですね。

土瓶の蓋を開けた瞬間に松茸の香りがふわっと漂って、「あ~日本だ~」と感じます。土瓶蒸しの蓋は、秋の日本の扉を開けるのと同じようなものですね。

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そして松茸ごはんは、うちでは「松茸三段活用」と呼んでいます。まず、ごはんを炊くときに松茸を混ぜ込み、炊きあがったあとに「追い松茸」をします。蒸らした後に、「生松茸」をちょっと乗せてお出しします。

最初の松茸だけでも十分おいしいんですが、「目の前で松茸が加わる」という「ごちそう感」を、とても楽しんでいただいています。

そのほか霜降り和牛を巻いた「肉巻き松茸」もお出ししています。たれをつけた肉で松茸を巻いて焼いたもの、一口すき焼きです。

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◆包丁を入れて「繊維」を感じる

昔は、山仕事をする人にとっては「すき焼き」というのは松茸がたくさん入っているもので、逆に肉は少なめだったそうです。今では逆に肉が多くて松茸が少なく、松茸の方がごちそうになっていますね。

山仕事をする人が減ってしまって、木材も外国産を使うことが増えてきた。山の虫の被害を止めることもできず、薪にするための山裾の枯れ木や倒木を集める人もいなくなってしまいました。

松茸を採る人によると、風向きによっては「ふわっ」と良いにおいが漂ってきて、「松茸が近くにあるな」と分かるそうです。

いい松茸は、包丁を入れた時に、ぴんと張った「糸」のような繊維を感じます。包丁の刃でちょっとさわって衝撃を与えただけで、ぶちぶちぶちっと引きちぎられる触感があります。
細やかな緊張感が走って、強い繊維があったんだなと分かりますね。

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これが丹波のものになると、その繊維の細さが全く違います。石突きをとっている感覚は、ほかの産地が太めのパスタだったとしたら、極細のそうめんとでもいいましょうか。それがぴんとはじける感覚です。

今となってはないものねだりになってしまいましたが、21年やってきて、最初の10年ほどは丹波産の松茸だけで商売ができていました。最近はそういうわけにはいかなくなって、極端にとれなくなりましたね。

◆「高嶺の花」の松茸を味わう

松茸の鮮度のよさの見分け方ですが、これはもう見慣れてくると、虫が入っているかどうかが分かります。言葉で言い表せないのですが、見た感じ「生気がない」ものが虫が入っている確率が高いですね。かさの部分もイガイガしています。

鮮度がよくて虫も入っていないものは、はりやツヤがあって「元気」を感じます。

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9月のお彼岸過ぎぐらいからおいしくなってきて、1kg7~15万円ぐらいでしょうか。これは、豊洲市場にどれぐらい届いているかによって全く変わりまして、日によっては法外な値段になることもあります。

やはり産地によって風味や味わいが全く変わってきます。その山や土の様子、湿度や栄養が現れてくるので、バランスがとれているものがおいしく感じますね。

高嶺の花でもある松茸ですが、シーズンに1度ぐらいは「本物の松茸」を味わう機会を持っていただければなと。食べたことのない人は、自然のものがあるうちに召し上がっていただきたいと思っています。

◆ウロコが赤く紅葉した「紅葉鯛」

小エビをしっかり食べて、ウロコの紅い色が仕上がってくる秋の鯛を「紅葉鯛(もみじだい)」といいます。

鯛には年2回、そんなシーズンがありますが、「桜鯛」とも呼ばれる春は、浅瀬に入ってきて獲りやすいシーズンでもあります。味としては秋の紅葉鯛ではないでしょうか。

冬を前に、エサを豊富に食べて活発に動いているので、身が詰まってくる。水っぽくなくて、いい身周りになるんですね。

どんな魚でも身が充実するときがあります。たとえば鰯は2月の節分に柊に頭をくっつけて魔除けします。嫌なにおいで鬼や魔を祓うという考え方ですね。一方で味は水っぽかったりします。梅雨時から9~10月ごろが一番おいしいんです。

◆鯛を火傷させないように…

淡路島周辺、神奈川の佐島周辺の鯛はすごくいいですね。鯛がいいところは海の環境がすごくいいので人気が高くなって、蛸(たこ)も甘鯛も栄螺(さざえ)も値が高くなりがちです。高く売れるから漁師も丁寧に扱います。

松茸もなんでもそうですが、最終的に鮮度を落とさないとか品質を保たせて届けようという人は「思い」が違います。だから届いたものも全然違うんですね。

また、捕り方も重要です。一気に網にかかって一方的にまとめて引っ張られたら、全身が痛いし傷つきます。

けれど一匹が釣られたときは、水中で暴れるだけ。網のものと釣りのものは全然違って、手当てのいいものほど値が張ります。

人の手で魚に触るっていうことは、「火傷」なんですね。うまい漁師さんは魚にふれずに口の針だけを外して、魚は尾っぽから生け簀にダイブするそうです。そういうことを一事が万事、気をつけてやってくれているのが良い漁師です。
浜で誰が釣ったかどうかまで分かって「あの人の魚は身がいい」という評判がつくと、どんどん人気が出ます。

◆生でも煮ても焼いても揚げてもよし

鯛は「削ぎ造り」でお出しすることが多いですが、鱧(はも)と同様に、生でよし、煮てよし焼いてよし、揚げてよし……いろいろですけれど、「鯛せんべい」なんていうのも悪くないですね。

薄く切った鯛の身を、片栗粉でまぶして、上からすりこぎでトントンと叩くと身が薄くなります。粉が足りなくなったらまたまぶしてトントン。イカをプレス機でつぶして焼くのと同じ要領ですね。
それでもおいしいし、潮汁でも鯛ごはんでもおいしい。枚挙にいとまがないのが鯛のおいしさですね。

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編集・水野梓

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