見出し画像

12月 - さばきたての天然の鴨 一年の締めくくりにふさわしい芳醇な味わい

懐石小室

鳥肉にもいろいろありますけれども、冬に備えて身を太らせた上質な鴨は、まさに一年の締めくくりにふさわしい食材ではないでしょうか。

これは天然物すべてに言えることでもありますが、天然ものの本鴨は、食べるべきものをしっかり食べて実を太らせています。

特に田園地帯でおいしい米をついばんで大きくなった上質な鴨は、生臭みを感じるようなところが一切なく、米の旨みや香ばしさも感じます。

それがゆえに、味の切れがよく、脂もきれいで、きわめて鮮烈なうまみを内包しています。全てを使い切って召し上がって頂こう、と考えになる食材です。

◆手当てのいいもの「ただただおいしい」

江戸時代の将軍家には、鶴を使った雑煮があったともいわれますが、大型の鳥でちょっと肉質が硬かったんじゃないかな、と想像します。

鴨は、硬い部分が少なく、身は芳醇。鴨肉が苦手という方もいらっしゃいますが、ぜひさばたきたての質のいいものを味わってみていただきたい。

画像1

冷蔵庫のない時代は、淡水系の漁師が川で獲った鴨を、魚屋の軒先につるして売っていたりしたんです。
その頃は、目が潤んできたようになると「熟成が進んだ」なんて言われて食べ頃だとされていましたが、独特の匂いがある。どうしても勢い、苦手な方が出てきてしまいます。猪や熊、鹿なんかのジビエも同様ですね。

しかし今は冷蔵設備や真空パックといった現代機器が当たり前にそろうようになりました。山の猟師も質のいいものを渡すべく、処理に気を遣うようになって、もう20年以上経ちます。

昔の印象とは大きく変わり、手当てのいいものは「ただただおいしい」と感じますね。

◆焼くのも煮るのも…年の瀬を感じる鴨

とにかく鴨は煮てよし、焼いてよし。

おすすめなのは、軽く塩を振り、皮目の脂身を最初に炙り、身の方をミディアムレアぐらいで強火でさっさと焼き上げたもの。熱々をはふはふ、がぶっと召し上がっていただく。まさにこの時期ならではの冬の美味ですね。

二つ目には、それを「たれ焼き」に。味醂と醬油とお酒に軽く漬けたものを、炭で焼いて山椒をぱらりとまぶします。

日本酒でも、そして「赤ワイン」でも。ただただ「う~んうまい」と唸るほかない味わいです。

画像2

30~40年ぐらい前、昭和の時代ですと、骨ごと首の肉を7度ほどひいてミンチにしていました。
それに、もも肉の部位を混ぜながらお団子にして頂くと、口内で骨がこつこつと当たるのが「野趣があっていいね」と感じられる美味でした。

いまは「異物」と誤解されることもあって、骨を一緒にひくことはなくなりましたが、お好みの方にとっては、あの味も忘れがたきものでしょう。

骨を入れずに作ったものは、鴨のすり身、お味噌や卵を入れて、丸くすくいとって、出汁で炊いていきます。
残った骨は香ばしく焼き、鰹と昆布出汁の中に沈めて、ことこといい鴨のお出汁をつくります。そこにお酒、味醂、醬油を入れたところにたたき寄せを入れていくんですね。

季節のきのこや金時人参を入れ、さらにかき立ての「そばがき」を入れ、九条葱をそえて……。最後にはゆず・山椒を添えて召し上がっていただきますと、年の瀬をいかんなく感じる鍋物となると思います。

◆赤ワインでつまむ鴨の肝松風

鴨も野鳥でございますので、砂肝などの内臓部分も、獲ってからしばらく置いておくと臭みが気になることもあります。上手に内臓処理がされていると、砂肝は塩でもたれでも大変おいしい食感です。

肝は「肝松風」でいかがでしょうか。すり鉢で切った肝を、鳥の挽き肉とあわせ、味噌・胡桃を入れて、焼き上げた前菜の一品です。

お酒も合いますが、赤ワインなんかでつまんでいただくと、非常に凝縮した味わいを感じられます。

◆新潟の鴨「暮れの最大の目玉」

小室では長年、新潟で獲れた鴨をお出ししています。

画像3

新潟で一番の料亭と私が考えている秀石菴の弟弟子・小林くんから紹介してもらって使うようになりましたが、それまでの鴨とは全く違って、目の覚めるような味わいでした。「これは暮れの最大の目玉になるな」と感じましたね。

一度、鴨猟の様子を見せてもらいました。猟は夕暮れ時から夜半にかけて。稲刈りを終えた田んぼに、飼っている鴨を10羽ほど入れたケージを置き、その周りに籾殻付きのお米をまいておきます。

仲間の鴨がクワクワと鳴いていて、おいしい米があるところ。安心して野鳥の鴨が降りてくるようですね。

鴨たちの警戒心が薄れたところで、稲わらでカモフラージュした場所で息を殺して待っていた迷彩服の猟師さんが、わっと網を飛ばします。分厚い手袋で、首や脚をがっちり捕まえて、袋に入れます。獲っているときは大変な騒ぎなんだそうですね。


◆天然のきのことも相性ばっちり

猟師さんは毛をむしって、内臓から何から酸化していないきれいな姿で送ってくれます。身が赤くて「ただただうまそう」というお肉です。

身の色は、くすんでいない鮮やかな赤がおいしいですね。鮮度が大事なので、すぐさばきます。鉄分やミネラルも十分と聞きます。

画像4

もし獲った鴨がやせていたら、無農薬の米や菜っ葉を食べさせて肥育してくれます。いい塩梅にして出荷してくれるので、いつも申し分のない鴨が届きます。

時々、「天然ものなのによくここまで太れたな」という鴨もいます。でも魚でも鴨でもそうなんですが、よく太っている天然物は味わいが豊かでクセがないんです。

天然のきのことも相性ばっちり。天然のなめこや網茸、原木椎茸なんかでお鍋をしたら、もう冬の野山の味が全て詰まったものになりますね。

◆雄の「青首」よりも「茶首」の方が…

野鴨は「青首」と言われ、雄のことを指しがちですが、実は「茶首」である雌の方が意外とおいしい……ということは知られていないんです。

画像5

天然の生き物の大概にいえることですが、雌の方が筋肉がやわらかく、肉質がしなやかなことが多い。皮下脂肪を蓄えやすいという差もあります。

味を比べると僅差ですが、雌に軍配が上がりますね。「今日は青首ってあるの?」と聞くよりも、「本鴨の雌はあるの?」と聞く方が、「やるね」という感じかもしれません。

また、真鴨だけがフィーチャーされがちですが、尾長鴨や小鴨も味わいに差はなく、天然であれば非常においしい。

◆縁起物のそばがきと合わせて

小室では真鴨といっしょに、新そばの時期は縁起物でもある「そばがき」と合わせてお出ししています。

画像6

なぜ「そばがき」が縁起物なのか。蒔絵職人が大晦日に、そば粉を水で練ったものを使って部屋の隅という隅をきれいにしていたそうなんですね。

そば粉にくっついて、金がどんどん集まる。つまり富を集める。これが縁起物としての「そばがき」です。

12月のお取り寄せでは、天然鴨の出汁がきいたお鍋に、上質なそば粉で「そばがき」が作れるセットをお出ししています。

鴨の出汁は「うまい」としか言いようがないほど。お客さんはうっとりした顔をして、「いい年が越せる」と言ってくださいます。そして、翌年のよい縁起を願いながらそばがきを味わってほしいですね。

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?
気軽にクリエイターの支援と、記事のオススメができます!