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11月、蟹の王様ズワイガニ、最高級の雄・松葉蟹と雌・セイコガニを味わう

蟹の王様といえばズワイガニ。蟹の頭(かしら)だからズワイガニと呼ばれるともいわれます。ぜひ冬の風物詩を思う存分、味わっていただきたいですね。

◆新鮮なまま水揚げされる

小室ではもう20年も、兵庫県の香住の蟹屋さんに選んで送ってもらっています。このズワイガニは、とれる漁場によって呼び方が変わるんです。

京都から島根沖で獲れる、最高級のズワイガニの雄を「松葉蟹」といいます。雌は「セイコガニ(セコガニ)」と呼ばれています。

ほかにも、京都でとれる「間人蟹(たいざがに)」や、越前蟹、加能蟹など、さまざまなブランド蟹がありますが、やっぱり昔からのブランド蟹は、味わいもしっかりしていて、グレード分けもきっちりしています。

ズワイガニは水深300メートルもの深海に生息しています。エサが豊富な漁場でとれた松葉蟹は、身がしっかり入って充実しているんですね。

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漁場が港に近いので、蟹が新鮮なまま水揚げされます。何よりもセンスのいい船首がいる船は、いい漁場を選んでとってきてくれます。船によっても仕事が「粗い」「粗くない」というものがあります。

香住港の蟹屋さんは、そんな船を見分けて、蟹を選んでくれます。いまでは市場でも質の高い蟹がそろうようになったとはいえ、20年ほど前には、活き蟹って出てこなかったんですね。15年ほど前から、雄の活き蟹が入ってくるようになりました。

◆松葉蟹は生きたまま、セイコガニは茹でて

雄と雌は、大きさが全く違います。雄の松葉蟹と比べると、雌のセイコガニは半分くらいの大きさです。

雄は焼き蟹を中心としてお出しします。だから蟹が生きて届くことが大事です。

一方で、雌のセイコガニは湯がいたものを届けてもらいます。市場の雌蟹は茹でが強く感じますね。おつきあいしている蟹屋さんはしっとりと仕上げてくれます。

蟹をたくさん扱っている鍋で茹で上げるので、その茹で汁がすでに出汁になっていて、風味がいい。たまに市場で頼んだ蟹に、小室で火を入れることがありますが、出汁のお湯がないので、蒸すことが多いですね。

◆松葉蟹は炭火で焼いて

生きたまま届いた雄の松葉蟹。鍋やしゃぶしゃぶ、いろいろな食し方があるわけですけど、身ずまいの良い蟹の足は、焼き蟹が定番ですね。

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炭火で、軽く焼き目がつくぐらいに焼くと、香ばしさが漂います

お出しするときには、殻が開くように、松葉の状態に包丁をスッと入れます。すると、身がふっと出てきます。たまりませんね。

身入りのいい蟹は、水っぽくなくて、自然とぱくぱく食べてしまいます。
完全に火を通しているのにしっとりしていて、ふくよかな味わいを、まずはそのまま一口みていただいて、二口目でお塩。そのあとに、スダチをきゅっと絞って召し上がっていただけたらと思います。

雄蟹の蟹味噌は、生のうちに外して、炭で焼いた甲羅に戻して、じわっと焼きます。香ばしくなったところで器に出して召し上がっていただく。

さらなる楽しみ方があります。はさみのつま先だけを炭で焼いてから鍋に入れ、お酒をそそいで、蟹出汁ができたところを、まだ味噌が残っているような甲羅に入れて、「甲羅酒」として味わっていただくんですね。

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◆雄とは違う値打ちの内子・外子

セイコガニのおいしさは、内子と外子ですね。雄とは違う値打ちがあります。軽く塩をして、アクが切れるように一晩おく。すると塩辛ができます。

身の方は、雄よりも少ないものの、すりこぎを使って出すと「みゅん」と出てきます。甲羅の部分は、半分に割って、はさみでちょきちょきっと切って、身を出します。

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セイコガニごはんでも、茶碗蒸しでも頂けます。金沢だとおでんにも蟹が入っていますね。

毛蟹やワタリガニにはない、ズワイガニならではの味わいは、やはりお客様の中にもお好きな人が多いですね。

蟹ごはんは、雄でも雌でもおいしいですね。蟹の出汁で炊いて、椎茸や蓮根を合わせてもおいしいです。おいしい食材は、何をしてもおいしくなっちゃいます。

雄は量感があるので、がつんとした食べ応えがあります。雌は内子と外子の存在感がポイントになりますね。

◆難しい「おいしい松葉蟹」見極め方

おいしい松葉蟹の見極め方は難しいですね。ズワイガニの甲羅に付いている、黒い丸はカニビルの卵ですが、輸入もののロシアやアラスカの蟹にはついていないといいます。

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あの卵がついているということは、脱皮してから時間が経っていることは想像できます。ある程度の身入りがあるのでは?と想像できますが、だからといって必ずしも充実しているとも限らないんですよね。

ただし、雄も雌も、生きているうちに包丁を入れたり、火を入れたりしないと、身の触感がなくなってしまうという点には注意が必要です。そういう意味では鮮度の良さが重要ですね。

大きくてまずいということはありませんが、小室では松葉蟹は1.1~1.3kgぐらいのものを選んでもらっています。

雌のセイコガニはもっと小さくて、500gもあったらレア中のレアものですね。その一杯で8000円から1万円ぐらいの値がつくでしょう。うちでは7~8年ものの、300gいくかどうかというセイコガニを使っています。

◆過去には山陰地方の「おやつ代わり」

セイコガニは、過去には「子どものおやつ代わりだった」というほど、よく獲れていたそうです。山陰地方で育った方は、同じようなことをおっしゃる方がいます。

身が雄より少ないので缶詰にもできず、交通の便が悪くて街には出せず、はけにくかった。だから地元で消費していたんでしょうね。

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今は「おやつ」なんて言えない値段になってきました。昨年は値上がりして1600~1700円。希少価値も上がってきています。

◆年内のもの、味わって

蟹は漁場というよりも、鮮度や身入りの良さで味わいに違いが出ます。

漁の解禁は11月6日。松葉蟹はその前は獲ることができません。山形や新潟なんかでは早く解禁していたり、漁期を設けないところもあると聞きます。

持続可能な漁を思うと、漁期を設けて、未来の蟹のことも考えながらいただきたいですね。

松葉蟹は2月ぐらいまでいただくことができますが、雌は年内にしか獲れないこともあり、小室では「蟹は年内のもの」と考えています。

◆「冬には食べたい」需要の高まり

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やっぱりきちんと扱われた松葉蟹やセイコガニは、冬の味ならではの感動的な味わいがあります。年々、需要が上がってきて、価格も高止まりしています。それだけ「冬には蟹を食べたい」という思いがあるということでしょう。

近年ことさら思うのは、「おなかがいっぱいになる」ことも大事ですが、うちでは「感動する味わい」を追い求めたいと思っています。

そのほかの冬の味覚では、「くもこ」とも言うタラの白子がおいしくなってきます。先付けとして、海老芋と一緒に揚げてあんかけでお出ししたり。または、ホッキ貝を細引きにして、椎茸と軽くオイルを混ぜて、醬油を落としてオーブンで強火でさっと焼くとめっぽううまいんです。

12月には「鴨」が出てきます。冬眠前にエサを捕食しようとするジビエが、脂がのっておいしくなってくる時期です。ぜひこちらも味わって下さい。

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