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昔話

「ねえ、あそこの道路から見える丸っこいやつ今度解体されちゃうらしいよ」

もう久しく会っていない地元にいる幼馴染からこんな連絡が来たのはたぶん3、4年前くらい。
相変わらず変な所に気が付く、快活だけどどこか昔から不思議な奴である。

「あそこの道路から見える丸っこいやつ」というのは僕の地元に長く住んでいれば誰もが1度は見た事がある、国道沿いのガスの貯蔵タンクの事だ。

国内でももう珍しくなってしまった大きな球体に足が生えたタイプのもので、維持の為の部品調達が困難になった事や施設の老朽化等で取り壊しが決まったとの事だ。
これも、県内に残る最後の1つだったらしい。

「マジで?無くなんの?」

「そう!悲しい、、!昔一緒にカイんちと◯◯んちと△△んちと私んちで出かけた時に車から見たんだよね〜」

「全然覚えてないな笑 そんな事しょっちゅうあったからな、、」

「懐かしいね笑」

僕には近所に3人の幼馴染が居る。
家族ぐるみで付き合いがあって、通学路が一緒だったので小学生の時はよく一緒に登下校をしていた。
一人っ子だった僕は彼女の兄を本物の兄の様に思って遊ぶ事もあった。

時には誰かの家族の車に乗って近くのレジャー施設でバーベキューをしたり、夏には地元の大きなプールなんかに行っていた。気がする。
前述の通り今となっては遠い記憶で、何処に行ったのかもあまり思い出せないのが正直なところ。

「私ばっかり覚えてて寂しい。笑
 皆意外に覚えてなくて前に進んでる気がする。
 昔の事ばかり鮮明に覚えてて私だけ取り残されてる感じ?笑」

「□□はそれだから良いんじゃない?
 逆に、誰も覚えてなかったら本当に何もなくなっちゃうし」

「良い事言ってくれるじゃん笑笑
 ⭐︎⭐︎小の人と会うだけで、思い出が消えてないような気がして嬉しい!」

僕は高校から県外に通っていた為、高校生の時から既に同じ地区に住んでいた旧友に会う機会ですらなかなか少なくなってしまっていた。
幼馴染4人組のうち、僕ともう1人は大学進学と共に早々と地元を出たため、上京してからは余計にそうだ。

彼女を始めとする小学校の時の同級生とはだんだん疎遠になってしまい、当時の事なんてもはや忘却の彼方に消えていた頃、まさかガス貯蔵庫のお陰でこんなやり取りが始まるなんて夢にも思っていなかった。


「昔してたLINEと文体とかも変わらなくて懐かしいわ笑
□□が色んな昔の事覚えてるの、羨ましかったよ」

中学の時までは彼女とはよくLINEをしていた。
思春期特有で顔を合わせると話しづらかったが、画面を介すればそんな事はなく時が戻ったかの様にずっと話が弾んでいたのをよく覚えている。
走れば1分もかからない、たった数十メートルのお互いの家の間をその頃僕らで流行り始めていたiPod touchが埋めていた。

住処が変わって今何十キロ離れてしまっていても、当時の様にスマホが距離を埋めてくれるんだからインターネットなんて人類は辞められるハズも無いだろう。

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話題になったガス貯蔵庫はその後まるでリンゴの皮を剥く様にくるくると外側から解体され、
次に見た時にはもう跡形も無くなっていた。
解体の様子がどうやら県内ニュースで小さく取り上げられたりもしたらしい。

そして2023年の今日この思い出の近くをたまたま通りがかったところ、解体されたはずのガスの貯蔵庫がなんと今も僕の記憶の貯蔵庫として相変わらず国道沿いにでーんと4本足で突っ立っていたのを見つけてしまったのだった。

何処ぞやのバンドは「思い出はいつもキレイだけどそれだけじゃお腹が空くわ」なんて歌っていたが、時には思い出の味を反芻しに行ったって良い。

忘れてしまった事でも、誰かが覚えていればそれは世界の何処かでずっと生き続けてくれる。そんな事を実感した数往復だった。

「私もカイがポケモンの鳴き声全部覚えてたの羨ましかったよ!笑」


昔彼女とDSで交換してもらったギャラドスは、今もSwitchの中で生き続けている。

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