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その「あれ」が起きた パリ五輪柔道女子52㎏級 阿部詩選手


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パリ五輪女子柔道52㎏級2回戦。阿部詩VSケルディヨロワ(UZB)

詩選手のペースで進む試合は技ありポイントを取って残り1分。
「あれさえなければ、詩選手が順当に勝つだろう」この試合が終わったら準々決勝の前に買い物へ行っておこう…そう思って出かける支度をしながら観ていたら、その「あれ」が起きました。

阿部詩選手を前に投げることは難しい。だから間合いを詰めて体幹を密着し後方(裏)へ捨て身技で投げる。

欧州ロシア系サンボ柔道・グルジア柔道によくある今回の「谷落」ほか裏投、隅返、横掛、横車…
1976モントリオール五輪無差別級の金メダリスト上村春樹さんも、
1975ウイーン世界選手権・無差別級の準決勝でソ連のチョチョシビリに裏投を食らい気絶しています。(判定技あり)

結果は決してフロックではない。この階級に絶対女王ナシ。
世界ランク1位の対戦相手も必死です。今日まで徹底して研究を重ねてきたのでしょう。この試合に勝たなければメダルが取ないんですから。
あの中村美里も五輪に3度挑んで3位が2回、3度とも涙を流している。
北京で安琴愛に指導1で敗れ3位。
ロンドンも熱戦で安琴愛 に2回戦負けメダルなし。
リオの準々決勝ではコソボのケレメンデイに指導1で敗れ3位。
そもそも1回戦の相手出口ケリー(CAN)もかなりの強者。明日の57㎏級優勝候補世界ランク1位出口クリスタの妹で、2人とも松商学園出身の元日本チーム強化選手です。

柔道を大きく分けると日本伝講道館柔道、欧州ロシア系サンボ・グルジア柔道、ブラジリアン柔道の3つがあって、日本伝講道館柔道がJUDOとして1950年あたりから世界に普及。1970年代以降、サンボ・グルジア柔道がJUDO界を席捲してきました。

つよい者が勝つのではなく、勝った者がつよい
勝ち方にこだわれるほど世界が甘くないことは、アテネ五輪の井上康生、北京五輪の鈴木桂治選手の苦渋が証明しています。

兄・一二三選手の真っ直ぐな柔道に一抹の不安があったのだけれど、妹・詩選手なら大丈夫だろうと思っていました。
(Google 2017 金鷲旗 動画 Youtube)

圧倒する柔道でお兄ちゃんと一緒に金2連覇…と言っていたのが気になってはいたけれど、これは腰砕けのマスコミが仕立て上げたおとぎ話。
「ここはそういうことを叶える場所じゃないの」
「わたしは祖国のアイデンティティや国家承認のために戦っているの」
と他国の選手から聞こえてきそう。

リオ52㎏級で金のケレメンディ選手、今回パリ52㎏で銀のクラスチニ選手、東京57㎏級で金・パリ57㎏級代表のジャコバ選手の3人は、国家承認のないコソボ代表として国のアイデンティティを背負い五輪に出場。東京48㎏級で金、パリ57㎏で9位のビロディド選手は戦時下のウクライナ代表。リオ57㎏級で金・パリ57㎏級5位のシルバ選手は柔道を習い精力善用を体得して麻薬と暴力が渦巻くブラジルのスラム街を抜け出した。

諸事情をかかえながら一縷の望みを叶えこの舞台にたどり着いた選手たちが、出自や属性に関係なく結果本位で競い合う舞台がオリンピック。日本選手はいろんな意味で恵まれ、余裕があるのかもしれません。

一方で、スタンドの詩コールは目が肥えたフランス柔道ファンのクオリティーの象徴でした。2017以降のカデ・ジュニア・シニアの欧州国際大会で、ずっと詩選手を見守りつづけてきた観衆が「あなたは悪くない。自信をもって」と詩選手に呼びかけていたように感じます。

泣くな詩、ロスがあるさ!


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