見出し画像

<旅日記 第23回 Oct.1995>泊まること(1)~ザルツブルク(オーストリア)


どの街に着いても、まずは財布と相談しながら宿探し

 ザルツブルクと言えば、モーツァルト。ザルツブルク音楽祭の開催地としても有名だ。わたしもモーツァルトは好きであるが、どちらかと言えば、ミュージカル映画の傑作「サウンド・オブ・ミュージック」のほうがわかりやすい。ザルツブルクは、この映画の舞台であり、ロケ地である。ザルツブルクの街には「サウンド・オブ・ミュージック」ロケ地ツアーの案内があり、映画のシーンさながらの風景や名所を訪ねることができる。このような魅力のあるザルツブルクでも、まず駅を降りてしなければならないのは、財布と相談しながらの宿探しである。

頼りになる情報源は「lonely planet」

 わたしにとって頼りになる情報源は「lonely planet」という英語版のガイドブックだ。版元のあるオーストラリアをはじめ、カナダやヨーロッパのバックパッカーに人気があったようだ。

画像1

1995年の旅のあいだ使っていたロンリープラネットの西ヨーロッパ編。タイ・バンコクのカオサ・ロードにあった古本屋で買った。


「cheap」という単語が頻出

 「lonely planet」は、だいたいどのページをめくっても「cheap」という単語が頻出することからも、安く旅のできることを必須条件としているようで、高級ホテルや高級レストランは登場しない。代わりに、キャンプのできるところ、ユース・ホステル、安ホテルを先優先して載せる。


 記事は、それぞれエリアごとに旅経験豊富なライターが徹底的に歩き、見て、食べて、宿泊して、ときにユーモアたっぷり、また辛口にコメントを記している。日本のことはどのように書いているのか知りたくなり、帰国後、「lonely planet Japan」を買ってしまったが、役立てることはできずにいる。

人口の多いアメリカ人よりも、人口の少ないカナダ人が多い。

 世界中どこに行ってもアメリカ人観光客を見かけるものだが、アメリカ人のバックパッカーはあまり多くはないようだった。

 逆に、人口の少ないカナダ人が目立った。かれらはたいがい赤いメープルリーフの国旗をバックパックに付けているのでわかりやすい。

 オーストラリア人、ドイツ人も多く、たまにイギリス人もいた。が、フランス人は少なく、イタリア人となると皆無。重いバックアップを背に担ぎ、日々、歩き回るバックパッカーという姿に国民性が表れるような気がした。

アメリカに行くバックパッカーも少ない?

 世界中の国々を対象とした「lonely planet」であるが、アメリカにかんして言えば、アメリカ本土全体を扱う本はなく、ロッキー山脈エリアとアラスカの本しか出版していなかった。現在では日本語を含む多言語で発行されているようで、当時とは内容が変わってきているのかもしれないが、アメリカへ向かうバックパッカーも少なかったということかもしれない。

私は英語の「ロンプラ」を気合で“理解”した?

 ただ、この本には写真はなく、文字がぎっしり。地図は略図のみで分かりづらい。語学力の乏しいわたしであるが、旅のあいだ、辞書は持っていなかったし、持っていたしても受験生ではないのでいちいち引いている根気はなかっただろう。載っている言葉を見て、雰囲気を感じて、念力で意味を類推する。要するに“気合い”で読み解くことを得意とした。

画像2

 当時も、日本の会社が作っている「地球の歩き方」という日本語のガイドブックはあったが、「lonely planet」との間には大人と12歳の子どもくらいの差があった。わたしの宿代の目安はアジアで1泊300円〜500円、西ヨーロッパでも800円〜1000円。そのころの「地球の歩き方」に紹介されていた宿情報は、実際に旅した若者などから寄せられた投稿が中心で、「値段の割には清潔でした」と感想が書いてあっても1泊4000円~5000円だったりした。

 オーストリアでは個人経営のこざっぱりした宿はシングル・ルームでも2000円も出せば、朝食付きでかなり広い部屋に泊まることができた。短期の旅行者であれば一泊4000円も安いかもしれないが、数か月も旅を続ける者には高すぎた。それでは半年間に及ぶ旅は続けられそうになかった。そんなわけで、「地球の歩き方」に頼ることはできなかった。

理解できた範囲でも楽しかったロンプラ

 「lonely planet」は、わたしが理解できた範囲でも楽しかった。たとえば、こんなふうな紹介がされている(*わたしの訳である)。

●インターナショナル・ユース・ホテル
パーティがお目当てで旅行するなら、「インターナショナル・ユース・ホテル」へ行け。大音量の音楽、安いビール。テーブルの上で踊っている者もいる。ここで働いているスタッフは概して若く、ネイティブのイングリッシュ・スピーカーだから言葉には不自由しない。門限はなく、一日中オープンしている。ただ、このホテルは、決して清潔だとは言えない。が、みんな酔っぱらっているので、そんなことを気にする客はいない。

 要するに、パーティ目当ての旅行者以外は行くなという意味であると理解した。わたしも、こんなところは避ける。わたしの基準では、清潔かどうかが大事だった。 

 清潔さと、セキュリティのレベルは比例すると見て良い。

 落ち着いて清潔な建物であれば、部屋にカギのない二段ベッドがいくつか並ぶ相部屋でも大丈夫だ。

 ドイツなどでは山の上の古城をこのようなユース・ホステルに転用している例もあるし、古い立派な民家を充てているところも多く、どこへ行っても同じ国際級ホテルとはひと味違う旅ができる。「ユース」とは言っても、高齢の夫婦旅行に使われているなど年齢はまちまち。朝食時にご一緒するうちにフレンドリーになって旅のいい思い出になる。                        (つづく)

                (1995年10月11日)

「てらこや新聞」106号 2014年 02月 11日



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?