【インタビュー】 藤原寿徳さん 〜俺たち家族の介護のカタチ〜
ケアマガインタビューでは、以前ケアマガに寄稿してくださった介護経験者や当事者の方の「その後の様子」や「記事の裏側」を取材し声をお届けしています。
本日は、2021年3月に『俺たち家族の介護のカタチ』を寄稿してくださった執筆者の藤原寿徳さんをご紹介させていただきます。
本記事は、藤原さんの記事を合わせてご覧になることをお勧めします。
◇ 藤原 寿徳さん
10年ほど前に遠く離れた実家のお父様の介護を経験
<介護のあゆみ>
両親と姉と祖父母の6人家族。しかし父親は、物心ついた頃から家にはおらずほとんど疎遠の関係だった。20年前のある日。運転中に突然電話がなった。電話の主は母親で、父親が脳卒中で病院に運び込まれたという知らせだった。容体は重症で、手術をして命が助かっても、意思疎通はできず寝たきりになる可能性が高いと医師に告げられる。「手術はしなくて良いのではないか」藤原さんはそうお母様に提案するが、お母様の選択は「手術をする」そして「介護をする」だった。手術後より約10年間の介護生活が始まる。自宅では寝たきりで医療的ケアの多い父親を見ることはできず、病院に預け通い続けた。幾度となく肺炎を繰り返し、徐々に体力が低下。10年後、70歳で永眠された。
介護について振り返る
ーーお父さんのご経験を文章にすることは、藤原さんにとってどんな意味がありましたか?
藤原さん:
記事を書いたことで、あの時こうだったなって、もう一度改めて思い返すことができました。良い思い出やあまり思い出したくないことも含めて、書くことで整理された感覚です。今だとこう出来ていたかなとか、一つの事実に対する見方も月日が立つと変わるんだなということを実感しました。
また、自分が書いた記事をいろんな人が読んでくれて、普段は仕事のやりとりだけの人やあまり連絡をとっていなかった人からもメッセージをもらいました。「自分も同じ境遇だったので泣けました」とか、その時一緒に仕事していた人からは「あの時そんな感じだったんだ、悪かったな」って。
自分の家族のことって、今まで恥ずかしくて自ら口を開くことは無かったけど、オープンにしたことで気持ちが変わりました。
当時は、こんなことは自分一人でやるものだと思い込んでいました。というのも、当時は介護というものは今ほど開かれていなくて、自分たちで何とかするのが正義だったんです。特に、田舎ということもあって。
今は頼れる環境があるから、オープンにすることで相談にのてくれる人はたくさんいると思います。親身になって聞いてくれる人もたくさん。だから、一人で抱えこんだり家族単位で抱え込んだりせず、客観的に見てもらって力を借りることが大事だと感じます。
ーーある日突然やってきたその日。お母様からの電話を切ったあと、「手術はしなくてもいいんじゃないか」と伝えたことに後悔はありましたか? また、運転しながらどんなことを考えられていましたか?
藤原さん:
医師から「命が助かっても植物状態だろう」と言われていたので、親父との関係もよくない状況もあり「一体誰が見るんだ?!」「おふくろや実家にいる姉の負担が大きくなるから無理だろう」「面倒を見ることにしたとしても、いつまで続くの?!」というのがすごく気になりました。
こんなことを言うと酷いと思われるかもしれないけど、当時もそうだし、いなくなった今でも、私は親父のことは好きじゃないんです。だから電話をもらった時、私は、「病気になってまで家族に苦労をかける人なのか、この人は。」って思っていたから、おふくろの電話を切った後も父親に対する罪悪感はなかったですね。
ーーお母様はどんな心境でその選択をしたと思いますか?
藤原さん:
あの時は、これまで本当にいろんな苦労があったのに、おふくろはそんな決断をするんだなと驚きましたね。どんなことを、思っていたんでしょうね。
でもやっぱり、両方入り混じっていたと思います。ここからどうやって見ていけば良いのかという不安と、見殺しにするなんて人として出来ない、という想いと。
医師から言われたのは命はあるけど意思決定はできない植物状態だということ。生きてるけど死んでるような、そんな状態で生きていて、果たして幸せなのだろうか、本人の本望なのだろうか、そんな状態で生きるなら終わらせてもいいんじゃないか、でも命があるなら生かした方がいいんじゃないか、など、本当にたくさんの気持ちで混乱していたと思います。
ーー介護が本格的に始まり、様々な不安に襲われたことと思います。一つ一つの不安はどのようにして解消されたのでしょうか?また、1番の不安はどのようなことでしたか?
藤原さん:
一番の不安は、「病院でみてもらえるのか?」ということでした。介護に対して無知だったので、家で見るのは無理だろうと思っていました。だから、病院に居させてもらえるなら家族にとってはいいな、って。でも、もし仮に病院で見てもらえたとしても、その入院のために「お金は幾らかかるのだろう」って、金銭的な不安も強くありました。
それらの問題や不安は、病院の相談員さんやケアマネージャーさんがいてくれたことでとても軽くなりました。私はずっと地元にいられるわけじゃないから、ケアマネージャーさんに色々とサポートしてもらったことはありがたかったですね。
あと不安だったのは、親父の年齢です。60歳と比較的若い時に病気になったので、脳はやられてしまったものの他の体は元気だったんです。いつまで生き延びるのだろうか、それも気になりました。何度も肺炎も繰り返し、死にそうな状態になっても持ち直すんです。その時の心境としては、本当にひどいかもしれないけど、「早く終わりが来て欲しい...」と思うこともありました。本人のためにも、家族のためにも、です。終わってみんなを、楽にしたかったです。
ーーある日突然やってきた “その日” 以前は、介護に対してどのような印象を持っていましたか?また、考えたことはありましたか?
藤原さん:
介護のことは全く知りませんでしたし、興味もありませんでした。近くで介護が必要な人もいませんでしたしね。
田舎だと、介護は自宅で誰かが常に見てないといけない風習があるので、家族が神経をすり減らしながらやっているというイメージでした。
ーー前もって情報を知っておいたらよかったなと思うことはありますか? また、今後介護が必要な人に伝えたいことはありますか?
藤原さん:
私のことでいうと、お金の情報は知っておきたかったですね。どういう施設だったら、幾らくらいかかるのかとか。
あと、私の父は突発的だったけど、母は現在、認知症が緩やかに進んでいる状況です。先日、そんな母のためになる良い情報を聞きました。「地域のコミュニティや、近所のコミュニティに出ていくことはどんどんやった方がいいよ」と、ケアマガcafeで教えてもらったんです。これにはすごく納得し、すぐにおふくろと一緒に住んでいる姉貴に伝えました。
外に出ないことで社会性がなくなったり老化が進むから、コミュニティ形成のために外には出て行ってもらいたいですよね。このことは言われて初めてハッとしました。
いずれにせよ、介護をする側が殻に閉じこもってしまうのではなく、オープンになり周りに相談したり助けを求めることで、重荷が100から30くらいまで軽くなると思います。
親のいない人はいないし、同じ悩みを抱えている人はたくさんいます。勇気を出してオープンにすることで、良い方向に進んでいくんじゃないかなと思います。
ーーご自身が介護される側の状態になった時、どんな生活を送りたいと思いますか?
藤原さん:
自分だったら、家族だけに見てもらいたいことはないので、とにかく家族に負担の少ないようにしたいです。私は施設でもいいから、家族が自分たちのやりたいことをやれる、生活に支障のないことを優先したいです。
グループホームに入るとしたら、いきなり知らない人の中に入るのは気がひけるので、前もって仲がいい人達と一緒にいたいなとも思います。
自分の幼少期を振り返り、子ども達へ
私の親父は本当にろくでもない人で、物心ついた頃には家にはいませんでした。おじいちゃんやおふくろと暮らす家には、お金がなくなった時にだけ帰ってきていました。そんなやつでした。おじいちゃんが「わしが息子の育て方を間違えた」と言って、包丁を持って向かっていったのも幼いながらに覚えています。結局は家族に止められていたけど、そんな家庭環境で育ったので、とにかくなんとか家を、田舎を抜け出したいという一心で、当時心の支えであったサッカーに向き合いました。家に帰りたくないから、練習が終わって暗くなっても、街頭の下でひたすら仲間の蹴るボールを受け止めていました。
自分がすごいって事を言いたい訳ではなく、本当にそんな環境で育った田舎者でも、オリンピックに出たり、好きなことしてお金稼げるんだぞ、って子どもには伝えたいですね。
“何を持っていなくても、どうとでもなる。”
自分の力だけではなく、人とのつながりや運も生かし、歩んで欲しいですね。子ども達には、自分が経験したような辛い思いは経験させたくないと思っています。指導者は何度も辞めようと思ったけど、子ども達にピッチで働く姿を見て欲しかったから、続けてきました。大人になった時に、仕事の話が一緒にできるようになるといいな。それまで、いろんな世界をみて知って羽ばたいて行って欲しいですね。
藤原寿徳(ふじわら・ひさのり)さん
プロサッカー指導者。ゴールキーパーコーチ。鹿島アントラーズ、日本サッカー協会、ロンドン五輪、京都サンガ、ジェフ千葉、FC今治、大宮、サンフレッチェ広島でコーチを経験。
以上、2021年3月に『俺たち家族の介護のカタチ』を寄稿してくださった執筆者の藤原寿徳さんをご紹介させていただきました。
藤原さん、貴重なお話を聞かせてくださり、本当にありがとうございました。
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