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連続事例検討会:第4回「近隣トラブル」

介護のオンラインコミュニティSPACE内で行われる「おとぎ塾」は、地域と職種を超えた連続事例検討会。支援困難な事例を、介護に関心ある様々な専門職や他業種が熱く緩やかに語り尽くす“サードプレイス”の一企画。第4回のテーマは「近隣トラブル」

参考図書はこちら

ソーシャル◯◯カー

私には現在、名乗れるのに名乗れないものがある。
ソーシャルワーカー”だ。
ウィキペディアより引用する。
【日本では、社会福祉事業において主に相談支援や関係機関との調整を担うための国家資格として、社会福祉士(Certified Social Worker)と、精神保健福祉士(Mental Health Social Worker)が存在する】

社会福祉士の資格を取得した身としては、ソーシャルワーカーと言えなくもないのだが、特別養護老人ホームでバリバリ直接介護をしている自分は、「生活相談員」という文脈ではノット・ソーシャルワーカーなのである。
今回の事例で、そんなことを思い出した。

参加者一覧
社会福祉士(地域包括支援センター)/介護福祉士(訪問介護、特別養護老人ホーム、緩和ケア病棟、通所介護事業所)/看護師/言語聴覚士/認知症専門の医師 等

事例について

今回の事例は“近隣トラブル”である。
それこそ、社会の中で困っている人との関係を構築し、課題解決に導くソーシャルワークの出番である。
前述した葛藤を抱える私にとって、果たしてどんな事例検討会になるだろうか?
期待と不安を抱えつつ、土曜の夜9時を迎える。

近隣トラブルは、コミュニティの問題

今回の事例をかいつまんで説明すると、以下のようになる。
・一軒家で独居の75歳男性。
・70歳まで働いていた。面白さとややこしさが共存するキャラクター(曰く“小さなおっちゃん”)で、印象が毎日変わる。
ゴミ屋敷で異臭が常にある、玄関先で放尿、近所で話していたら怒鳴ってくる等が問題点。
・近隣住民は「福祉でなんとかして!」と訴えるが、自傷他害もないので、福祉の者は手をこまねいている。

昭和のロックスターか!とツッコミたい存在である。この令和の時代に昭和のレガシーを、どんな目をして見つめれば良いのだろうか?
遠くで見ている分にはイイ感じだが、近くで関わったら、かなりややこしい。
有名人だったら、人脈でどうにか解決の糸口が見つかりそうだが、無名の人ではどうしたら良いのか? 考えあぐねてしまう。
そこに解決の糸口はあるか?集いし者たちが知恵と知識を出しあっていく。

どんな近隣トラブルがあるだろうか?

事例を朗読した後、参加メンバーそれぞれが経験した、あるいは想定される“近隣トラブル”を挙げていく。

ゴミ屋敷による異臭は、頻出課題。
・庭が放置されて雑草の種が近隣に飛んでいくことがトラブルに。
生活音が気になる→夜間の壁ドン。
・マンションの共用部分で用を足してしまう。
火の不始末
・ペットの多頭飼育崩壊
・「隣の奴に毒を盛られた」など、ありもしない事を言いふらされる

お国柄だな、という例も挙げられた。
・北国では、雪かきした後の塊を放置してトラブルになる。

・改めて考えてみると、自動車がらみのトラブルも結構あるのではないだろうか(家に突っ込んだとか)。

施設内の“近隣トラブル”についてもエピソードが出た。
・特に話題になったのは“他ご利用者の部屋に入って放尿する”というトラブルである。
この件について、目から鱗のトラブルシューティングがあったことを併記しておく。私はアーカイブを複数回見返してしまった。

それぞれの視点

今回、特に印象に残った意見を述べていく。
・行動に至る原因の究明が必要だ。
・“変な人”と捉えて周りが冷たい対応をとってしまうと、後々トラブルに発展していく傾向にある。
・地域住民から理解を得るのは、とても難しい。
・人権侵害の観点も視野に捉えて語られなければならない。

ここからさらに、認知症専門医師からの考察が続く。

認知症専門医師のプロファイリング

医師からの、あえてソーシャルワークの観点ではなく、医療の立場で解析してみるとこうなる、という意見に、心の中で感嘆の声を上げた自分がいる。

事例から読み解いた、この方(小さなおっちゃん)の人物像はこうだ。
・独居で70歳超えた高齢男性であることから、現在友達がいないと思われる。
・お酒が友達であることから、機嫌は飲酒に左右される。
・杖を使って叩いてくるという情報から、腰に痛みがある、もしくは下肢筋力の低下といった疾患を持っている。
・玄関でトイレを済ませるのは、酔って嘔吐を繰り返してトイレが詰まっているためではないか?

SWとしての視点

司会進行を務める地域包括支援センター勤務の社会福祉士・こじまさんのまとめは、まさにソーシャルワークの哲学と実践に重きを置いたものであった。

曰く、こうした【困った方】の存在はむしろチャンスだ!と捉える。「なんとかしなきゃ!」という案件は、地域の方々の啓発につながる好機となるからだ。
人は問題点が具体的になった時に、関心を示しはじめる。

そして大切な視点がもう一つ。
「包括は、もっと頑張れ」から「包括と、もっと頑張れ」へ
私は、誰もが、少しずつ困りごとを担って、ペイフォワードしていくということだと解釈した。

私の視点(ハッとしたこと)

以下は、記録者である私の所感である。
・コミュニティの問題は、令和の時代における社会の不安定さを映し出していないか?
・排除から共存へ。排除からは何も生まれないことを強く認識させられた。
・近隣トラブルに障害が混ざると、まずコミュニティからの排除が始まる。
・無意識の差別意識“マイクロアグレッション”については、思考停止せずに深く考えて行動を改めていかねばならない。
・ソーシャルワークには専門性が求められるが、同時に一般の人にも持っていてもらいたい“世の中を良くする思いや行動”を広めていくことも求められている。

・ソーシャルワーカーとして働いていない私にできることは、専門性の高い“ソーシャルワーク”を、より身近なものに落とし込む、ライフハックならぬ“ソーシャルハック”を皆に伝えていくことではないだろうか?
・ソーシャルハックというと、なんだか“世渡り上手”なイメージが潜んでいそうだから、ホワイトソーシャルハッカーを増やせたら良いな。そのために何から始めていこう?

そんな夢を、就寝前に見た。

今後の予定

開催日時;2024/04/27,21:30-23:00

介護のオンラインコミュニティ「SPACE」について

「SPACE」は、“介護”に関心を持った仲間が集うオンラインコミュニティです。組織や地域を越え、前を向く活力が得られる仲間とのつながりや、 自分の視点をアップデートできる新たな情報や学びの機会を通じて、 一人ひとりの一歩を応援できるコミュニティを目指しています。入会できるタイミングは、毎月1日と15日の2回です。詳しくは以下をご覧ください。

書いた人
もっちぁん
現場で働きつづける介護福祉士。特別養護老人ホーム勤務(グループリーダー)、他に介護支援専門員と社会福祉士を名乗れる。

※おとぎ塾では、『支援困難事例と向き合う』(中央法規)に掲載された18事例を元に、オンラインコミュニティ“かいスペ”の有志メンバーが意見を出し合う検討会を開催。本記事はその様子をレポートしています。


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