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連続事例検討会:第14回「ひきこもり」


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こもってないと危険な夏

2024年7月6日現在、暑い夏。
電気代がかかるのでクーラーをつけない、救急車を呼んでもこない、でお馴染みの熱中症の夏がやってきた。下手したらこんな状況が3か月も続く。

2015年頃から国に認識され、2020年代には大きな社会問題に膨れ上がった「8050問題
本事例で取り上げるのは、利用者の子が ひきこもることで生じる困難について。かなり広がりのある意見が交わされた回となった。

参加メンバー

そんな猛暑日よりもアツい心で参加したメンバーが以下の11名である。

@東京都 包括 社会福祉士
@静岡県 特養介護士
@東京都 訪問介護士
@宮城県 認知症専門医
@神奈川県 クリニック看護師
@香川県 特養施設長
@神奈川県 包括/ 家族介護者
@大阪府 介護人材関連 起業
@愛知県 障害者施設介護士
@大阪府 デイサービス介護士
@宮城県 ホスピス介護士

事例の詳細

事例の詳細はこうだ。
・83歳女性。55歳息子と同居、市内に妹在住。
・介護保険サービス利用で日常を送れていたが、圧迫骨折で動けなくなった。
・55歳息子、潔癖傾向と昼夜逆転、自室から出てこない。母は息子に気を遣いすぎている。支援が中断している状態。

8.共依存と重複する部分もある事例

直接関係ない息子とどう関わっていくか?が鍵となるテーマである。
令和になって、全国には146万人(※)の ひきこもりがいると推計されており、日本の大きな社会問題といわれている。
146万人ともなると市民団体として動けば、政党を結成するレベルどころではないはずだ。

(※)おとぎ塾内では、116万人推計で話題にのぼっていた。

自分で考えてみた

ひきこもりの息子を没交渉から交渉の舞台へ引き上げるために、どう動くか?
まずは考えを巡らせてみた。
・息子のひきこもりは、上司や同僚からのハラスメントが原因。ということは、息子はご近所の人とはニュートラルに付き合える可能性がある?
・あるいは息子の同級生の親族や恩師から情報を得る、地域の祭りに引っ張り出すこともできるのではないか?いや、試してみる価値があるのでは?
・ティラノレースのような、顔出しせずに身体を動かすイベントにハマることができたら息子は変わるかもしれないと個人的には期待する。趣味がきっかけでポジティブに社会と繋がれるって素敵なことだと思う。
ちなみに、ティラノスーツはかいスペでも一時期話題に上り、実際に購入してイベントに参加したメンバーもいる。

新規訪問先と ひきこもり

ここからは参加メンバーの実体験を記載する。

利用者本人が6月に熱中症で救急搬送され、退院後に訪問介護が入った。同居の夫が92歳と高齢であるため、緊急連絡先に同じく同居の息子を指名してみたが、夫がこれを拒否。
姿形が見えず、生活音も聞こえない息子。

今後のことを考えると、是非息子との接触をはかりたい。考えられる策としては、食事で茶の間にくるタイミングや通院といった外出のタイミングで、情報取得を試みるのはどうだろうか?というもの。

コミュニケーションに消極的な相手と対峙するには、場合によっては踏み込みづらい領域にもズケズケ入り込んでいける大陸的発想が必要ではないか?
福祉職として、心のバリアフリーモードを発動しても良いのではないだろうか?

こんな率直な意見が出た。ぐうの音も出ない。

「ご飯とか作ってもらえず、雨風をしのげる我が家がなかったら、ひきこもってなんかいられないよねぇ」 

確かにー
安全基地に閉じこもっていては、冒険の旅には出られないのだ。

地域の強みを使う

近くにディスコミュニケーション気味の男性がいるが、やや強引に地域の祭りに参加させたり、定職を持たない頃に「この仕事せぇやー」で地元に馴染ませるなどした、とのこと。
賛否両論・合う合わない、人それぞれあるかもしれないが、この男性は、これでしっくりとコミュニティに馴染みつつあるとのこと。

社会のルールを骨に据えるといった、昔ながらの共同体存続プロトコルを続けることにも、意義はあると思う。
ここで話題に出た方は、20代からそういった関わり合いをもち、40代になった現在も繋がりつづけているのだとか。
制度だけでは対応が難しいのが引きこもりへのソリューションだと、皆の中の経験がモノをいう。

マシンガンブロー

とにかく、子のペースを掴みながら、アプローチを止めないことだという意見も出た。
戦法としては‘ヒット&アウェイ’で、手数とタイミングと継続が鍵。

切り口で全く異なって見える

誰を主語にするかによって、支援方法も、支援する主語も異なってくる8050問題。
すなわち、この事例のように、ひきこもりにフォーカスすれば、ハチマル側を援助することになるが、認知症に焦点を当てれば、ゴーマル側を救済することになる。
つまり、行動する以前に、援助者へのバイアスがかかっているのだ。

例えば、ひきこもりで困っていた当事者(80)側が認知症になり、困らせていた(50)側が ひきこもっていられず、声を上げるようになった、というケースもあるという。

羽柴秀吉が行った鬼畜作戦「鳥取の飢え殺し(とっとりのかつえごろし)」が思い浮かんだ。
とはいえ、そんなに待っていられるケースばかりでもないので、共倒れとか事案発生予防のため、常にステータスチェックを怠らないようにしなければならないであろう。

実話であるが、

70代後半の認知症女性と60代の息子。お母さんが痩せてきたので、宅配弁当の手配をしてみたが、息子がその弁当を食べてしまいお母さんが食べられないという、支援そのものへの搾取がなされるケースもあったとのこと。こうした場合には、成年後見や施設への措置入所など、検討されるべきである。このケースでは、母親の施設入所と同時に、息子に後見がついたとのこと。

動けるようになった ひきこもりは援助者や周囲から感謝されるようになる。すると、承認欲求が満たされ、正のスパイラルに乗れるという意見が出た。
この流れに持っていけるように組み立てていけると、本当に理想である。

全くの没交渉ではない。

ひきこもりの息子が、心筋梗塞を発症したお母さんの入院手続きを、火事場の馬鹿力的な感じで行った実体験についても語られた。

落語の「厩火事」を思い出した。あれは、ヒモ旦那に三行半を突きつけたい女房が、近くのご隠居のお知恵を拝借した挙句、旦那の心を試すために旦那が大事にしていたコレクションを壊してリアクションを見る→旦那が思ったとおりのリアクションをしてくれて惚れ直すけれども……という筋立てなのだが。
何はともあれ、人と置かれた場所の見極めって大事なんだろうと思う次第である。

岩間先生の解説

テキストの解説を、記録者が独自に解釈すると、以下のようになる(と信じる)。

引きこもることで、認知の世界が閉じていく。この動きの予測ができるよう、専門職は研鑽していかねばならない。
・どのように働きかけるかではなく、彼女らが変化し続ける覚悟を支え、道を示すことを心がけること。

そして感想へ

ニートという概念が日本に輸入されたのが、2003年と言われており、それから20年余が経過した。
一家族の人単位で営まれている関係の流動性は、コミュニティや世間一般にも当てはまることは、想像に難くない。
2024年現在、「働いたら負けだと思ってる」という常套句が、呪いの言葉に成り果ててはいないだろうか?

岩間先生のテキストにもあるとおり「関係は変わり続けるしかない」のである。
あいみょんのマリーゴールドの世界観全否定であるが、蓋し名言である。松岡修造のカレンダーに載っていてもおかしくない。

また、人と時と場を見極めれば、昔ながらの強引ともいえる関わりも有効であることも、リアルタイムで共有された。
そういえばこのおとぎ塾は、著者・岩間先生に挑戦する会でもあったのだ。

続くよどこまでも

現実を振り返ると、介護の人が介護のことを喋る機会が少ないと思う。したがって、かいスペ含めこうしたオンラインコミュニティは、得難い経験を得られる稀なサードプレイスではあるまいか。稀血ならぬ稀地である。

「ひきこもり」だけでなく「安楽死」などテーマを決めておしゃべりする会も、新たに立ち上げたい。その下地が現行のかいスペ内に揃ってきたと信じてやまないのである。

スケジュール

介護のオンラインコミュニティ「SPACE」について

「SPACE」は、“介護”に関心を持った仲間が集うオンラインコミュニティです。組織や地域を越え、前を向く活力が得られる仲間とのつながりや、 自分の視点をアップデートできる新たな情報や学びの機会を通じて、 一人ひとりの一歩を応援できるコミュニティを目指しています。入会できるタイミングは、毎月1日と15日の2回です。詳しくは以下をご覧ください。

書いた人
もっちぁん
現場で働きつづける介護福祉士。特別養護老人ホーム勤務(グループリーダー)、他に介護支援専門員と社会福祉士を名乗れる。

※おとぎ塾では、『支援困難事例と向き合う』(中央法規)に掲載された18事例を元に、オンラインコミュニティ“かいスペ”の有志メンバーが意見を出し合う検討会を開催。本記事はその様子をレポートしています。

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