引っ越しすることになりました①

わたしの家は北関東海側にある、とある古ーい市営住宅である。
作られたのは昭和30年代。当時は画期的だったであろう、一階とニ階でひと世帯、いわゆるメゾネットタイプだ。そこに家族3人、そしてこっそりネコ2匹がかれこれ20年ほど住んでいる。
多少の立て付けの悪さや隙間風はあれども住めば都、道路から奥まっていることもあり居心地はとてもよかった。
何より家賃が安い。
この物価高騰のご時世になんと1万円である。多少のアラは我慢してしまう。
職場にも近く、徒歩圏内にスーパー、コンビニ、書店まである。立地は最高だった。

事件は突然起こった。
その日は資源ゴミの回収日で、朝早くに出しに行った家族が慌てて帰ってきて言った。

「この団地取り壊すんだって!!」

あの東日本大震災で震度6を耐え切ったとは言え、約築70年。いつかは、とは思っていた。
多分ここに住んでいる皆そうだろう。
なんとなく実感が湧かないまま、市から届いていた郵便物を探して開ける。
そこには、「用途廃止になる」「令和8年度に取り壊す」「移転」「説明会をする」などの言葉が並んでいた。
それをみたときの初めの感想は、「ああ、すぐじゃないんだ」だった。

言われてみれば思い当たることはあった。近所の人が、強い雨が降ると窓の下から雨が吹き込むからなんとかして欲しい、と市営住宅の管理会社に訴えたが拒否された、という話を聞いた。
賃貸物件で不具合を訴えたのに家主にそのまま住め、いやなら出ていけと拒否されたわけである。
我が家でも床下が痛んでいるのか、沈むので見て欲しいと頼んだら、スーツ姿のメガネ男がやってきてその場で軽くジャンプをし、大丈夫だから直さないと言って帰って行った。
あの時の床の軋む音と男の顔は一生忘れないと思う。

話は逸れたが、かくしてわたしは3月の平日に行われるという説明会に参戦するために、意気揚々と職場の休みをとることにしたのである。

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