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東大医学部発ベンチャー「MRT株式会社」を徹底分析!!〜医療・介護系企業分析シリーズ⑪〜

サマリー:
MRTは医療人材紹介行う企業。特に、非常勤医師の紹介に強みを持つ。現在は、新規事業投資のため、前期は増収減益(進行期は増収増益)。
今後は、新規事業「ポケットドクター」の成功が鍵。
記事の構成:
1.会社概要
  - 1_a 歴史・沿革
  - 1_b 事業内容
2.事業の分析
  - 2_a 自社分析(売上・利益、KPI)
  - 2_b 市場分析
  - 2_c 競合と自社ポジションの分析
  - 2_d 今後の戦略  
3.簡易財務分析
4.評価
  - 4_a 現状に対する評価
  - 4_b 短中期・長期評価
  - 4_c 今後取るべき戦略の提案

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1.会社概要

1_a 歴史・沿革

2000年1月:東京大学医学部附属病院の医師互助組織を母体とした有限会社メディカルリサーチアンドテクノロジーを設立
2014年9月:MRT株式会社に商号変更
2014年12月:東証マザーズ市場上場
2016年4月:日本初遠隔診療・健康相談サービス【ポケットドクター】提供開始
2017年11月:医師紹介実績が累計100万件を超える

<背景>
当社は、東京大学医学部の医師の互助組織を母体に設立された。そのため、大学病院内に存在する「医局」への理解が強い。医局とは、教授を頂点とするピラミッド型の人事組織である。医師は医学部卒業後、医局に属し、医局の人事マネジメントにより外勤経験を積むのが習慣である。しかし、04年の研修制度の法改正により医局の人事権が低下したため、当社はその補完機能として成長してきた。

1_b 事業内容

【医療情報プラットフォームの提供】
同社の事業・サービスを売上規模順に分類すると以下の通り。

①医療人材サービス
医療施設への医師(常勤・非常勤)の紹介、コ・メディカル(看護師や薬剤師等)の紹介。特に、非常勤医師紹介が売上の大半を占めている。
②その他
総合的な医療情報プラットフォームを目指し、ネット医局・遠隔診療・遠隔健康相談サービス(ポケットドクター)等の多様なサービスをローンチ中。中でもポケットドクターへ多額の投資を行っている。

2.事業の分析

2_a 自社分析(売上・利益・KPIの分析)

【売上】順調に成長。非常勤医師の紹介件数増加と子会社増加が牽引。
【売上構成比】医療人材サービス:その他 = 95 : 5
  ※グラフはIFRS(国際会計基準)に基づく

続いて、営業利益・営業利益率について

【営業利益・営業利益率】
増収減益が続いている。積極的なM&Aと新規サービスへの投資が起因。
直近進行期は、営業利益が回復し伸びを見せる。

続いて、KPI分析
先ずは、現在の登録会員数について、

当社は、紹介チャネル別に、①非常勤医師紹介 ②常勤医師紹介 ③コ・メディカル紹介に分類できる。チャネル別紹介件数の推移は以下の通り、

①非常勤医師の紹介件数

6年連続増加。増加ペースも維持している印象。また、非常勤医師(スポットも含む)の年間募集件数が30万件であることから、当社は非常勤医師転職市場の1/3を獲得できている計算。

②常勤医師の紹介件数

非常勤医師紹介と比べ、少なく横ばい。売上は毎年1.3億円程度。紹介したポジションの年収の30〜35%が手数料となるため、収入規模は大きいが、競合も多く、同業者間の競争が激しいため、当社としては力を入れていない印象。

③コ・メディカルの紹介件数

コ・メディカル(看護師、薬剤師等)は連結子会社のCBキャリアとNOSWEATが担当している。紹介人数や売上に関する数値は開示されていない。恐らく成長フェーズと想定される。両サイト登録者数の合計が30万人であるため、マネタイズのポテンシャルは高いと言える。

※同社は売上収益の詳細を16年より開示していないが、非常勤医師紹介が牽引するという構図は変わらないものと推察される。

2_b 市場分析

【医師の転職市場】
医師の転職市場規模は推計330億円程度。年間転職人数は常用就職件数が約2万人で、案件のうち半分が医局・大学による求人、残り半分が民間職業紹介事業者による求人である。
*常用就職(年間転職人数1万人×手数料300万円)+スポット勤務(件数30万件×手数料1万円)より算出。

【非常勤医師の需要見通し】
非常勤医師は医師数全体の18%程度。医療現場における非常勤医師の紹介需要は今後も安定的と考える。理由は以下の3点。

①医師の地域偏在と特定診療科目での偏在
国全体の医師需給は遅くとも2033年頃には約32万人で均衡するものの、過酷な勤務が予想される地方病院や特定診療科目は、医療の質を担保するために 常に外勤需要が発生。そして、以下のグラフ(厚生労働省発表資料より引用)より、今後とも地域偏差は加速するといえる。

②医師のキャリアステップ
【医学部卒業、医師国家試験、10年程度の外勤】が一般的な医師のキャリアルート。医師のキャリア形成において、外勤医師の需要は常に発生する。

③医療現場における予測不能性
災害や緊急手術の発生により、医師の応援要請が発生した場合など。

【医局の人事権低下】

04年の新臨床試験制度以降、大学医局に属する医師の割合は少なくなり、民間の人材紹介会社を利用するケースが増えてきた。(グラフは日本医師会総合政策研究機構より引用)

2_c 競合と自社ポジションの分析

2_e 今後の戦略

当社の中期事業計画の公表は無く、具体的な数値目標もない。しかし、これまでの取り組みから判断すると以下の通り。

【医師紹介事業をキャッシュカウとして、遠隔医療への展開】

①医師紹介事業
 会員数の拡大。拡大した医師・コメディカルのネットワークをもとに、インターネットを活用した医療総合プラットフォームの運営。

②遠隔医療への進出
 医師の地域偏在を踏まえた遠隔医療健康相談「ポケットドクター」事業の拡大。

3.簡易財務分析

自己資本比率 :73%
流動比率 :218%

4.評価

4_a 現状に対する評価:△

評価点
・売上堅調
・安定市場
・非常勤医師紹介分野に対する他社参入障壁の高さ
・医療従事者会員数のポテンシャル

懸念点
・新規ビジネス投資による利益率低下
・医師会員数の不足
・大手の存在

4_b 短中期・長期評価:△

評価点
・医療従事者会員数のポテンシャル

懸念点
・主力の非常勤医師紹介分野の首都圏以外での浸透の低さ
・新規事業(ポケットドクター )の不調の可能性
医者の地域偏在問題からも遠隔診断の需要は拡大すると考えられるが、長期スパンの事業展開となるため、見通しは不透明な印象。

4_c 今後取るべき戦略の提案

①医師ネットワークの拡大
現在の主力は非常勤医師紹介サービス。同事業のさらなる確立を目指し今後も医師会員数を拡大すべき。そのためのマーケティング組織化・仕組み化が必須。

②ポケットドクターの成功
ポケットドクターの成否が業績に直結する。先ずは、ポケットドクターに対する認知度向上が必須。

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