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デイサービス大手の株式会社ツクイを分析!〜医療・介護系企業分析シリーズ③〜

サマリー
ツクイは拠点数全国1位のデイサービスを主軸にしつつ、近年は有料老人ホーム・サ高住も展開。現在は売上・利益ともに順調に推移している。今後市場が成熟段階に入るなかで、どのように戦い方を変化させられるかがポイントとなる。
記事の構成:
1.会社概要
  - 1_a 歴史
  - 1_b 事業内容
2.事業の分析
  - 2_a 自社分析(売上・利益、KPI)
  - 2_b 市場分析
  - 2_c 競合と自社ポジションの分析
  - 2_d 今後の戦略  
3.簡易財務分析
4.評価
  - 4_a 現状に対する評価
  - 4_b 将来に対する評価
  - 4_c 今後取るべき戦略の提案

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1.会社概要

1_a 歴史

ツクイは1983年に訪問入浴サービス事業を開始して以来、35年にわたり介護に係わる事業を展開。2004年JASDAQ上場、2011年東証2部上場、2012年東証1部上場。

国内トップシェアのデイサービスを中心とした在宅介護サービス、介護付有料老人ホーム「ツクイ・サンシャイン」の運営、サービス付き高齢者向け住宅「ツクイ・サンフォレスト」の運営、介護・医療特化の人材開発事業を行なっている。

1_b 事業内容

介護施設の経営を主に行う。デイサービスを中心とした在宅介護が主力で、売上高の約3/4を占める。

・在宅介護(デイサービス、訪問介護、訪問入浴、グループホーム)
・居住系介護(有料老人ホーム/サ高住)
・人材開発事業(ツクイスタッフ=介護医療を専門とした人材派遣、有料職業紹介、研修)
・その他(ツクイキャピタル=介護施設向けリース事業)


2.事業の分析

2_a 自社分析(売上・利益、KPI、出店状況)

まずは、売上・利益について。
売上高:3期連続増加。順調に推移している。
営業利益・営業利益率:ともに3期連続増加。大きく伸びている。

続いて、KPI分析。

デイサービス
事業所数増加のみならず、既存施設の加算の取得・オペレーション改善やドミナント戦略の効果も反映されている印象。介護報酬改定のマイナスを上回る成長をしている。

有料老人ホーム
施設数の増加と入居率の改善が反映されている。

サ高住
17年3月→18年3月で入居率が65%→88%まで改善されたため、大きく成長。

出店状況

デイサービス
→関東圏が約1/3を占めるが全国に広く展開。多くは同一エリアに3〜4店舗出店している。

有料老人ホーム
→同一市区町村内にデイサービスがあるところに出店、東京・神奈川が多い。

サ高住
→同一市区町村内にデイサービスがあるところに出店、東京・神奈川が大半、同一地区に複数出店しているところも。(戸塚区2つ、藤沢市3つ、川崎市2つ)

全体→人口の多い都市(人口30万人以上〜くらい)に集中的に出店している。

2_b 市場分析

デイサービス

成熟市場。引き続き成長は続くが、すでに需給は飽和しているため、フェーズとしては成熟市場へと移行しているタイミングだと想定される。

国の財源(介護給付費)でみても、給付費全体は微増傾向にあるが、受給者一人当たりではピークアウトしている。

また、市場のプレイヤーで見れば、多数の小規模事業者が割拠する分散市場である。事業所数1位であるツクイですら、シェアが約1.2%しかない。

このような状況の中で、現在、小規模プレイヤーの退出と大規模プレイヤーへの集約が加速している。経営難に陥った施設の買収や経営者の引退に伴う事業承継が行われ、大規模プレイヤーがシェアを拡大している。資本のある大規模プレイヤーがパワープレイしやすい状況といえる。

居住系介護(有料老人ホームなど)

医療から在宅介護への誘導の政策を背景に、居住系サービス全体の供給は増加傾向にある。
介護付き有料老人ホームは、自治体ごとの計画に基づいて開設される(総量規制下にある)が、増加は抑制傾向にあり、概ね横ばいに推移している。

2_c 競合と自社ポジションの分析

在宅介護市場全体では、ニチイ学館に続いて業界2位。デイサービスに限れば、拠点数は業界1位。しかし、大手でもシェアが1%程度の分散市場である。

有料老人ホームでは、業界12位(1位はベネッセスタイルケア、2位はSOMPOホールディングス)。ベネッセのシェアが5~10%ほど。ベネッセ・SOMPO共にポテンシャルの高い東京・神奈川などに注力しており、大都市圏の競争環境は厳しさを増している。

2_d 今後の戦略

ツクイ中期経営計画によると2021年に向けて以下のような戦略を採るようだ。

1. 多層化エリア(地域ドミナント戦略)80市区町村、売上利益7割目標
→当社施設が既にありかつ今後介護の需要拡大が予想されるかつ競合が少ない地域には、積極的に出店し、エリア内に在宅系・居住系の両方をつくる。併設型・保険外サービスにも注力。
2. 連携エリア(地域との連携)1800市区町村、売上利益3割目標
→その他の地域は、各地域のニーズに合わせた効率的な出店・店舗改良を行い、かつ地域内の他の施設や自治体などとの連携を強化する。
3. 人材の確保
→将来的に介護人材の不足が確定的である中、採用・育成・待遇を高めて人材を確保する。
4.組織改革
→上記3つの戦略を実施すべく、サービスごとの組織体制から地域ごとの組織体制へと変更し、ITシステム等も刷新する。

3.簡易財務分析

同業の企業として、ニチイ学館・ユニマット・リタイアメント・コミュニティと比較(2018年3月期)。自己資本比率、流動比率 ともに業界内で高い水準となっている。

現金・借り入れ余力ともに十分であり、今後M&Aを積極的に進めるとしても財務上問題はなさそうである。

ツクイ 
自己資本比率 31.7%
流動比率 145%
※参考
(ニチイ学館)
自己資本比率 19.1%
流動比率 112%
(ユニマット・リタイアメント・コミュニティ)
自己資本比率 27.0%
流動比率 165%


4.評価

4_a 現状に対する評価

これまでは、大きく成長する介護市場において、地域ドミナントを意識した的確な出店計画をもとに自前の直営事業所を新設し、売上・利益を高めることに成功してきた。

現在の介護市場フェーズとしては、引き続き成長はするものの、徐々に成長市場から成熟市場に切り替わっていくタイミングと想定される。

今後は、デイサービスでのシェアを引き続き高めつつ、地域ドミナントを形成できそうな地域では住まい系の施設も開設し、売上・利益率の向上を狙うのが、定石という印象。

4_b 将来に対する評価

市場リスク中=介護報酬改定の影響が大きく、減算リスクは存在。
競争リスク大=(デイサービスでは特に)小規模プレイヤーの退出と大規模プレイヤーへの集約が加速する、市場規模・市場成長率でポテンシャルがある大都市圏では特に競争環境が厳しくなると予想される。

介護大手各社がドミナント戦略を取る場合、将来的にはエリアごとに勝者となるプレイヤーが決まるはずなので、勝ち筋のあるエリアに積極投資をして早急に勝ちきれるエリアを増やす必要がある。
ツクイの場合、介護の入り口となるデイサービスを抑えているので、自社で居宅系の施設を増やせば、介護度が上がった老人を自社のデイサービスから自社の居宅系施設に送客できる点はプラス。
一方、デイサービスの施設数が1位であると言っても、シェアは約1%にすぎず、デイサービスで盤石の地位を手に入れるためには大きな競争コストを支払う必要がありそうだ。

4_c 今後取るべき戦略の提案

・デイサービスにおいては、リースバック方式による新規開設のみならず、既存施設の買収も積極的に行い、より早いペースでシェアを高め、地位を盤石にしたい。

・デイサービスにおいて地域ドミナントが効いている地域では、居住系サービスを早いペースで増やし、サービスの多層化、ドミナントの形成を進めたい。自社で建設するのは時間・コストがかかるので、運営受託やM&Aを用いると良いのではないか。

・今後の成長戦略を実現するには、M&Aの活用が非常に重要となるかと考えられるが、これまでは自前での成長が中心であり、M&Aの経験がほとんど無い印象がある。
今後は、M&Aの推進や買収後のPMIがスムーズに進める組織づくりが必要になるのではないか。成長市場での戦い方から成熟市場での戦い方へとシフトする必要がある。


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