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随筆6


サンマルクカフェで時間を過ごすときはいつも、クラムチャウダーを頼んでしまう。海鮮独特の風味を帯びたクリーム色のスープは、小腹が空いている時にとてもよい。コロコロしたじゃがいもやベーコンが入っているのも嬉しい。
ところで私は先程からずっとサンマルクカフェで作業をしているのだけれど、隣の席の男の鼻息が荒い。

しかもなんか汗臭い。中学のときの、プールのモワッとしていて熱気に包まれた更衣室みたいな匂いがする。
さらに、酒を死ぬほどかっくらった後必死に生きようとしながら寝ている時みたいな鼻息の強さがある。何か飛んできそうなほどに。
どうしたものか、と思ってちらちら見ると、なかなかに清潔感のない丸い男が座っていて、ヘッドフォンらしきものをつけて周りの音が聞こえない様子だった。

パソコンを開いてにらめっこしている、無造作に置かれたプロテインのシェイカーの中には、味噌汁みたいな色の何かが入っている。
よく見たら隣に置いてある水筒には、大手ジムのロゴがあり、ジム帰りとわかる。

わたしは中学の頃、大手進学塾に通っていた。自習室には15人くらいの学生が詰まって各々勉強していた。そのうち1人、ヘラヘラした感じの男の子が5分毎くらいに鼻をかむ音を教室中に響かせていた。
わたしは、気になるなあ、くらいに思って自習を続けていた。すると美人で成績の良いあみちゃんが、塾のあるショッピングモール内のある100円均一のレジ袋を手に下げて近づいてきた。
そして、中から飴をわし掴んでヘラヘラボーイの机に半ば乱暴に置いた。あみちゃんは、身長も高くすらっとしていて化粧気のない中学生だったが、元々の顔立ちが整っており、男女ともに人気な感じのある女の子だった。たしか水泳部だった。引き締まった身体をしていた。
「これ、舐めた方が楽になると思う」
めちゃめちゃぶっきらぼうに言い放った。あみちゃんは、ヘラボーイのために、わざわざ飴を買ってきたのだ。2人は特別仲良しという印象がなかったので、みんなが見ている静かな教室でなんて大胆な女の子…!と思っていると、
「集中出来ないから。」
と知的でクールなイメージ通り冷たく言い放って自席に戻った。

社会人になって、文句を言う前に問題に対処する行動を自分から取れ、みたいなことをマナー講座で勉強したけど、
あの時のあみちゃんの行動を、社会人になった私から大いに賞賛したいと思う。
鼻息の男は、貧乏ゆすりをはじめ、本を読んでいる。わたしは敬愛する先輩とこれから両国でちゃんこ鍋を食べる。

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