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第70話 都市伝説『重くて甘い水』(BJ・お題 『水』)


人気のニーマンズファイルシリーズです。今日もニーマンが私に漏らしてくれた社会の裏情報をお届けいたします。水に関するネタです。

いろんな水が売られていますよね。単においしい天然水というだけでなく、少しあやしいものもよく出回ります。最近では水素水なんていうものが流行りました。水素が水に溶けにくい性質を持っているということは中学校で習うのですが、あんなものが大手の飲料水メーカーなんかから売られていてそれを買う人がたくさんいることからも、みなさん、化学はすっかり忘れていることがわかります。そもそも水は水素2つと酸素1つが結びついてできたもので、あとはそこになにかを溶かすとか、逆に不純物を取るとか、その程度しかいじることはできません。水に色や味をつけても、煮てしまえば混じり気のない水に戻ります。つまり水に印をつけつづけることはできません。まずそのことを押さえておきましょう。

 
ところが、まだ少しだけ水をいじる余地があるんです。重水と呼ばれるものがあります。水素に余分な中性子がくっついているので、普通の水と区別することができます。

重水は自然の中にもわずかに混じっています。普通の水よりも電気分解されにくいという性質を利用して、水を電気分解して最後のほうに残った水を取り出すことで濃度の高い重水を得ることができます。
この重水を、とあることに応用している国があるらしいのです。


この、とあることというのが、人を追跡することではないかというのです。


重水があると、重水トレーサーという機械で調べることができます。重水をだれかにこっそり飲ませれば、その人を識別することができるというのです。人間の大部分は水でできていますから、中性子でラベルされた重水を体に取り込んだ人は、検査によって見つけられるわけです。

もしこれが、本人の同意を得ずになされるのだとしたら、怖い話です。重水はたくさん摂取すると毒になり、命の危険にさらされますから。


ニーマンは言いました。


「感染症に感染した人を追跡するのに利用できるとか、テロリストや犯罪者を密かに追いかけるために利用されているとか、『シェイプシフター』を追うためだとかいう憶測がいろいろあるよ」

「ああ。あのシェイプシフターって…」


シェイプシフターとは姿を変えるものという意味で、この言葉がある国の諜報機関で度々使われているらしいのですが、それが具体的になにを意味しているのかについてはいろいろな説があります。


まず、変装が得意な犯罪者、もしくは諜報機関の工作員です。ルパン三世やミッションインポッシブルなどで、顔を自由自在に変えるというのはお馴染みでしょう。たとえ整形をしてもその人に含まれた重水でチェックできれば、正体を暴くことができます。

あるいは姿を変えることができる能力を持った生物(狸とか?)や、異星人のことかもしれません。


ただ、後で追跡するために事前に重水を飲ませる、というのが一苦労です。そんなに多くの量でなければ健康被害はありませんので、その人がいる周辺全体の水道に重水を混ぜる手もあるかもしれません。そういったことを繰り返すだけでも、重水が体に多く取り込まれている人物は限定されるので、対象者を絞りやすくなります。

ただこれには対抗策がありまして、追われるほうがいたるところで周囲の飲み水に重水を混ぜてしまえば、重水トレーサーに引っかかる人が増えてしまいますから追跡が難しくなります。いずれにせよ重水が不特定多数の人に飲まされるというのはあまり気持ちのよい話ではありませんね。



ところがニーマンが言うには、重水をわざわざ飲ませる必要はないのではないか、もっと違う事情があるのではないかということです。


 
「違う事情とは?」
 
「それに答える前に、重水だけで生きる生物が作れる可能性についてどう思う?」

「重水で生きる生物?無理ではないとは思いますが・・・」

「そう。無理じゃない。もしそういう生物がいたら、どういう性質を持っていると思う?」



高濃度の重水を摂取して生きていける生物は一部の植物や細菌など、限られています。それでも、普通の水ではなく重水を飲むとか、重水の中で生きるといった生物を作れるのではないか、とニーマンは思っているようでした。

私は考えました。重水はしょせん水ではあります。ただ、水と比べて様々な化学反応のスピードが遅いという点では普通の水と違いますから、世の中に重水のほうが多ければ、そういう環境に合わせて生物が進化したでしょう。

 
「その生き物にとっては、普通の水のほうが毒になるでしょうね」


ニーマンはうなずきました。もし重水でしか育たない生物がいたら、その生物にとってはこの世で普通の水分を含んだあらゆるものが毒になります。その生物を育てるためには重水を用意しなくてはなりません。飲み水ばかりでなく、食べ物に含まれる水分も重水である必要があるので、その食材もまた重水で育つ生物である必要があるでしょう。水が重水ばかりの生態系、重水ワールドが必要です。

そんな面倒なものを作ることに利点があるとすれば、勝手に育てて増やせないことでしょうか?それが農作物や家畜の場合、種を独占することができます。ちなみにそれらは、調理すれば私たちの食用には適するかもしれません。濃度の薄い重水であれば、摂取しても害はありません。なんと重水には、甘みがあることが知られています。


また、ペットとして作れば、飼い主に重水と重水餌を延々と売りつけることもできます。


いずれにせよあまり現実的でないな、と思うのは、重水って極めて高価なんですよね。生成するにはかなりのエネルギーが必要だからですが。ただ最近、触媒を用いて安く重水を作る技術が開発されたということを聞きました。もしかしたらものすごく重水を安く作れる施設があって、その需要を増やしたいのかもしれません。

ここまでの考察以外にも、重水を摂取する生物が生物兵器として使用される可能性もあり、とにかく重水トレーサーを用いてなにかを調べている人たちがいるようだということです。

 


重水人、なんてのがいたりしてね。見た目より1割くらい重い人がいたらご用心。。


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