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底辺雑魚プレイヤーが過熱する「ポケカ」バブルに思うこと

※2021年5月21日に配信したメールマガジンに掲載したテキストです

「ポケカについて書いてほしい」というお題をもらったので、ポケモンカードゲームこと「ポケカ」をめぐる現在のバブルについて、プレイヤーの端くれである自分の思うところを僭越ながら書いてみます。偉そうな発言もこぼれてしまうかと思いますが、プレイヤーとしての本心だと思って大目に見てやってください。

ポケモンカードを楽しむ筆者

現在ポケモンカードゲームをめぐっては、過去のパックも含めて全体的に在庫僅少でなかなか店舗に出回らないという状況が続いています。

もっと以前にも同じような状況は起こったようなのですが(当時自分はポケカから退いていたためはっきりとは言えません)、一度は正常な状態に戻るも、また昨年末から新パックが全国の店舗から姿を消し始め、今年に入ってもその傾向は収まるどころか拍車がかかっています。

そしていよいよ、5月発売予定の新弾については、市場価格が尋常ではないほど高騰し続けています。

ある一つのカードゲームジャンルをめぐるこの異変について、きっと多くの人は「へえ、今そんなことになってたんだ」くらいに思うことでしょう。

しかし今、その小さな綻びは徐々に大きな歪みとなりつつあります。

■価格の高騰、暴行に窃盗 ポケカをめぐる狂騒

アメリカでは、2020年からポケカ人気が再燃しオークションでの価格も高騰し続けています。

この5月には、ポケカをめぐって客同士での暴行に発展するという、すわ「ポケカ狩りか」とでも言うべき事態が起こった結果、米スーパーのウォルマートやターゲットではポケカの店頭販売が停止となっています。

日本ではまだそこまでの狂騒は起きていませんが、近年のポケカ人気に目をつけ始めた自称「ポケカ投資家」なる者たちが増長しています。

事実、彼らの“投資”の対象となっているポケカは前述の通り、新パックが発売しても滅多に手にいれることができないという異常事態を招いています。

「KAI-YOU.net」でもその現象を取り上げたところ、Yahoo!ニュースのトップを飾ったというのも、その社会的注目度の高さを物語っています。

1996年に生まれ、当時の子供達を熱狂させたクールなカードゲームが、その20数年後、金に目が眩んだ大人たちのオモチャになると、誰が予想できたでしょう。

■なんでポケカがこんなバブルになってる?

その背景には、いくつもの事情があります。

まず、単純にポケカ人気が高まっていること。

それは、開発元である株式会社クリーチャーズと、販売元である株式会社ポケモンの、地道な販促の賜物でもあるように思います。

カードゲームは一般的に、参入するには非常に敷居が高いジャンルです。

ルールが複雑であり、そこそこのお金もかかり、そして環境が目まぐるしく変化するからです。

そんな中でもポケカは、「これさえ購入すれば今すぐにでも遊べるよ」という初心者向けのお手頃パックを定期的に投下し、同時にCMなどのプロモーションにも力を入れてきました。

2018年には「GXスタートデッキ」を、2020年には「Vスタートデッキ」を発売し、どちらも500円という実にお手頃な価格で市場に放流することで、新規層や復帰層の獲得に成功しています。

「Vスタートデッキ」は、初週にして販売数50万個を突破し「GXスタートデッキ」の記録を塗り替えたことも、その人気が右肩上がりであることを示しています。

何を隠そう、私も「Vスタートデッキ」からの復帰組の一人です。

ポケモン世代ど真ん中でかつて子供の頃にポケカをプレイしていた私は、大人になって2017年にポケカと再会するもその際は一年ほどですぐ熱は冷めてしまいました。しかし、翌年には空前のポケカブームが起こり、その盛り上がりを横目で眺めているうちに、2020年になってまんまと「Vスタートデッキ」で復帰を果たし、今に至るまで友達との対戦を楽しんでいるというわけです。

ポケカ人気の背景には、YouTuberをはじめとした、ポケモン好きのインフルエンサーの存在も無視できません。大きな求心力をもっている彼らが、新弾が発売されるたびに開封動画を投稿、新しいカードを組み込んだデッキでの対戦を配信し、人気を加速させる役割を果たしています。

折しも2019年には、ゲーム本編の新作『ポケットモンスター ソード・シールド』も発売されました。これまで以上に友達とわいわい遊べる新システム「ワイルドエリア」も功を奏して、相乗効果的にポケカ人気も引き上げられていきました。カードが楽しくてゲームをやる、ゲームが楽しくてカードをやる。カードのパックには、ゲーム本編と連動した特典がついたことも。非常に幸福な、蜜月関係でした。

■コロナ禍の影響も色濃く

また、AFP通信によると、アメリカではコロナ禍に伴う外出制限による巣ごもり需要も、ポケカ人気が再燃した理由とされています。

日本など比較にならない強固なロックダウンの元、楽しめる数少ない遊びの選択肢の一つとして、ポケカが選ばれたのでした。

そしてもう一つ、コロナ禍に対抗するためのアメリカ政府による資本注入の結果、市場でだぶついてしまったお金の投機先として、2021年のバズワードとなっているデジタル資産「NFT」と同じく注目されたのが、ポケカをはじめとするカードゲームでした。

芸術やエンタメに改めて価値が見出されたという意味では、ポケカプレイヤーとしては誇らしい気持ちがないわけではありません。しかしその結果として、カードの価格は高騰の一途を辿っています。

ポケモンカードゲームを取り巻く現在の狂騒は、長年にわたる運営の企業努力が実を結んだ結果でもあり、また奇しくも世界的な災害によって加速した需要と同時に手元の資産を増やすために血眼になっている投資家からの注目がさらにその価格を高騰させた結果でもあります。

いずれかだけではなく、それらがすべて今の状況を形成している要因だと考えています。

■カードゲームの“特殊”性とポケカのコンセプト

そもそもカードゲームは、他のエンタメ産業と比べても特異なジャンルです。

何せこの20年というもの、日米どちらにおいても、売り上げ上位のタイトルーー「マジック・ザ・ギャザリング」「ポケモンカードゲーム」「遊戯王」の3つーーが基本的にはほとんど入れ替わっていないのです。

そんなジャンルは、少なくともエンタメ領域においては他には存在しないでしょう。だからこそ、投資の対象としては手堅いのだとも言えます。

その産業の異様さは、国内で数々のカードゲームを生み出してきたブシロードの木谷社長も嘆いていたほどです。

不動の人気を得ているポケカですが、たとえば昨今競技化の“失敗”が取り沙汰されているマジックと異なり、競技化の方向に舵を切っていません。

スポンサーがついているプレイヤーがいないわけではありませんし、賞金付きの大会もありますが、競技化を全面に押し出しているわけではありません。

その理由はおそらく、ポケカのコンセプトにあると考えます。

日本でデジタル化を解禁していないのも(海外ではポケカはデジタルカードゲーム化されています)同じ理由だと解釈しています。

カードゲームがデジタル化されると、いつでもどこでも対戦できて最高!というメリットがある一方で、デッキの試行回数が劇的に増える結果、強いデッキや戦略が膠着しがちだというデメリットがしばしば指摘されます。

さらにポケカは、子供向けで運要素が強いとも思われがちですが、その実、カードゲームの中では比較的、盤面の再現性が高いとも言われています。

それには、ドローカードの存在があります。ポケカにおいては、ドローソース(山札から手札にカードを持ってくる効果)系のカードの効果がとにかく強く、上手くいけば1ターンに10枚以上ものカードを引っ張ってくることができます。

これはどういうことかと言うと、60枚で構成するデッキのうち、1ターンに10枚以上を毎回引けるのであれば、目星のカードを任意で持ってこれる可能性が高い、ということを意味します。

そのため、ある程度の知識と経験があって、それらに基づいたデッキを構築し、正しい手順を踏みさえすれば、勝率を安定させることは比較的難しくありません。

そのポケカがこの上もしもデジタル化されれば、勝率を重視して似たようなデッキが今以上に量産され、ほんの差分でしのぎを削るという、誰得な状況に陥ってしまう懸念があります。

おそらく、ポケカプレイヤーは「そうはならない」とも思うでしょう。私もそう思いたいです。

しかし、強さよりも自分の好きなかっこいいポケモンをデッキに入れたい派である私でも、あまりに負けがこんでくると、単に相手を打ち負かせる強いデッキを使いたいという誘惑に駆られることもあります。

デジタル化は、手軽で安価で便利である一方、そこに集まって楽しむという“遊び”の原初的な喜びと、「ぼくのかんがえたさいきょうのデッキ」を構築するというカードゲーム最大の醍醐味とを、どちらも奪いかねない、という諸刃の剣でもあります。

そうした事態を憂慮して、販売元はポケカのデジタル化を止めているのではないかと考えます。

ポケカは、YouTuberや芸能人、他のゲームジャンルでのプロプレイヤーといったインフルエンサーを積極的に取り込んで、エキシビジョンマッチなどを行っています。

きっとポケカのあの方針についても、面白く思っていないプレイヤーもいるはずです。なぜなら、そうしたゲストの中には、「なぜこの人を呼んだの?」と思うくらい、見ていてちょっと心配になるくらい不慣れなプレイヤーも存在するからです。

しかし逆説的にそこからも、ポケカ運営の強いメッセージを受け取ることができます。必ずしも“うまいプレイや強いデッキ”が大事なのではなく、“初心者でも楽しく遊べること、そして人気のある芸能人たちもポケカを好き(だからみんなも安心して好きになっていいんだ)ということ”が大事なんだ、と。

だからこそ、クリーチャーズおよびポケモン社が、実に25年という歳月をかけて丁寧に整えてくれたこの遊び場で、子供から大人までが、心置きなく楽しむことができていました。

■敵は、転売家や投資家ではない

そう、だからこそ。だからこそです。

新しいパックが手に入らない。新しいカードで新しいデッキをつくって友達と戦うという、カードプレイヤーとしての当たり前の楽しみが奪われている今の状況が、なんともやるせないのです。悲しいのです。

前述した通り、現状については、転売屋や投資家を名乗る者たちだけの責任ではありません。そこには、複合的な要因が作用しています。

問題解決のためにユーザーの善意に頼むのは、どんな場合でも基本的には悪手です。問題を解決する義務は、必ずプラットフォームにあると思っています(だから、余談ですがプロバイダ制限責任法には思うところがあります)。

法的には問題がない方法で金を稼ぐ手段が存在するのであれば、それを諌める権利は誰にもなく、その呼びかけは無意味でしょう。

この状況について、誰に怒ったらいいのかもわからない。それが苦しいのです。私の好きなドラマの一つである『獣になれない私たち』にこんなセリフがあります。

「一矢報いたい相手が目の前にいていいですね/目の前に敵がいるんだから、殴ればいいじゃないですか/本当に苦しいのは、敵が誰かわからないことですよ。誰に一矢報いたらいいかわからない。誰に怒ったらいいかわからない。消化できない、怒りのことですよ」

ドラマ『獣になれない私たち』より

これは、震災を起因とした負債によって事業がダメになってしまった兄のことがずっと気にかかっている弟のセリフでした。

もしも店舗で転売屋や投資家を見かけたら、感情に任せてぶん殴ってしまいたいくらいの怒りを覚えています。しかし、彼らを殴ったとて、何になるでしょう。彼らが唯一の敵であったらどんなにか楽かわかりません。けれど、現実はそんなに単純ではありません。

転売屋が増えている背景には、若年層の貧困があります。若年層の貧困が増えている背景には、超高齢化社会を突っ走る日本のシビアな構造が横たわっています。たかだか遊びのカードゲームにおいて、彼らの倫理感だけを責め立てたとて、何になるでしょうか。

消去法で言えば、それらを解決できるのはきっと運営だけです。

■運営は、肥大し続けるプレイヤーの欲望と向き合ってほしい

幸いにも、ポケカは高価なレアカードがなくても、比較的安価にデッキを組むことができるシステムにはなっています(高価なカードは、安価なカードのレアリティ違いのスペシャル仕様であるケースが多いため)。

たとえパックを入手できなくても、カードショップなどでほしいカードをシングルで購入すれば、自分のつくりたいデッキをつくれないわけではありません(それでも、子供にはなかなか難しいでしょうが)。

しかし今のこの状況がこのまま順当に過熱すれば、そう悠長なことも言ってられなくなるのでは? と思っています。

アメリカではポケカの盗難が急増していますが、日本でもこの3月にはカードショップから100万円相当のポケカなどを盗んだ男性が逮捕され、大々的に報道されたことも記憶に新しいことでしょう。

価値とは、欲望です。価値が上がり続けるとは、欲望が高まり続けるということです。価値が上がり続ける限り、ポケカを巡る欲望は強くなる一方です。

アメリカで起きたポケカを巡る暴行事件では、銃が取り出される、という一幕がありました。幸いにも、その引き金が引かれることはありませんでしたが。

しかし、欲望はいつか必ず、自分のための価値を獲得するために、他人のための価値を否定するという欲求を孕みます。

運営は、難しい決断を迫られていることと思います。これまで述べてきたように、運営が重ねてきた地道な企業努力が実を結んだ結果、今の需要の高まりがあることは誰しもが認めるところでしょう。

しかし、その需要は閾値を超え、供給が全く追いつかず、希少価値が増えれば増えるほど市場での価値が高まっています。自由経済においては順当な帰結でありますが、その結果、楽しい遊び場から真っ先に弾かれているのは、主要ターゲット層である子供たちです。

いずれも一長一短ではありますが、増刷体制を整えることを最優先にして、矢継ぎ早に新弾を発売する今の運営方針を改める。受注生産に切り替える。店頭やオンラインでの販売に条件や制限を設ける。いずれも検討していないわけがありませんが、改善のために決断するべき時が来ているのではないでしょうか。
この狂騒を収めるべく早急に対策を講じなければ、早晩、日本でもアメリカ同様、痛ましい事件が起こるかもしれません。かつてエアマックス狩りがこの国で社会現象となったように。

どうか落ち着くべきところに落ち着いてほしい。いちプレイヤーとしては、そう願って止みません。

新見直
KAI-YOU Premium Chief Editor 1987年生まれ。サブスクリプション型ポップカルチャーメディア「KAI-YOU Premium」編集長/株式会社カイユウ取締役副社長。 ポップリサーチャーとして、アニメ、マンガ、音楽、ネットカルチャーを中心に、雑誌編集からイベントの企画・運営など「メディア」を横断しながらポップを探求中。



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