見出し画像

一匹万倍②/2023.08.22

定時になると、あたしは早足で家に帰る。

家に帰ったら、お風呂で汗を流し、さっぱりした肌に心地よい風を浴びながら近所を散歩して、駅前にあるコーヒーショップで作業をするのが、今のあたしの夜の日課になっている。

明日は航櫂日誌の公開があるので、それの推敲をしないといけない。

あたしが暮らしているシェアハウスに着き、郵便物が入っていないかポストを開ける。

!!

あたしはポストを開けた手を急いで引っ込ませた。
ポストの中には、大量のアリが群がっていたのだ。
ポストはコンクリートの塀に埋め込まれていて、塀にはポストを行き来するアリたちがいた。

なんで?
なんでアリがポストの中にウジャウジャいるの?
昨日までいなかったじゃん。
このままだと明日以降入ってくる郵便物がアリだらけになってしまう。

……駆除しないと。
とりあえず、ポストには不要なチラシしかなかったので、チラシを全て出して、キッチンから持って来た燃えるゴミ袋の中に入れた。
チラシにはアリがついていたので、外に出てこないように袋の口をギュッと閉じた。

アリ専用の害虫駆除剤が家になかったので、散歩のときに買いに行くことにした。
あたしの予定が少しだけズレてしまった。

散歩の途中でドラッグストアに行き、スプレータイプのアリ専用の害虫駆除剤とアリが通る道に置く毒餌が入ったケースを買った。

コーヒーショップでやらなければならない作業をしてから家に帰った。
家を出るとき、部屋の電気は1つしか点いていなかったが、今は3つ点いていた。
ほとんどのシェアメイトが帰ってきたみたいだ。
シェアハウスのグループLINEには、誰もポストのアリについて触れていない。
誰もポストを見ていないのか。

家に入らず、カバンに入れておいた、ポリ手袋を両手につけて、ポストの蓋を開けた。
ポストの中はさっきに比べてアリの数は少しだ減っていたが、いっぱいいた。

買ってきたスプレーでポストの中にいるアリに目掛けて噴射した。
ポストの中は白い煙に包まれて、アリたちがどうなっているのかわからない。
噴射をやめて、煙が消えてからポストの中を確認すると、動きが鈍ったアリたちやポストから逃げるアリたちがいた。
次はポストから逃げるアリがいるコンクリートの塀に向かって噴射した。
塀には一部崩れて欠けているところがあり、そこにアリがたちが逃げ込むのを見つけたので、そこにも目掛けてスプレーをした。
塀を歩いていたアリたちが次々と落ちていった。

アリたちの数がさっきよりも減ったので、スプレーをやめて、ポストの真下に毒餌が入ったケースを置いて、完了とした。

今日、宝くじ売り場に「一粒万倍日」の張り紙がされていた。
神様、万倍にするものが違います。
こんな縁起の良い日に、虫を大量殺生して大丈夫だろうか。
昨日、アリを1匹始末したのが原因なのだろうか。

次の日の朝。
ポストを見ると、アリは完全にいなくなっていた。

最後まで読んでくださりありがとうございます。これからもワクワクドキドキウルウルする作品を作っていきます。作品が良かったら「スキ」を押していただけると、とても嬉しいです。次の更新もお楽しみに^^