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「力道山未亡人」

 今年の小学館ノンフィクション大賞の受賞作となった「力道山未亡人」(細田昌志著、小学館)を読みました。敗戦後の日本で、外国人レスラーたちを空手チョップで叩きのめし、テレビジョンの普及とともに、国民的英雄となったプロレスラー力道山。結婚わずか半年後の1963年(昭和38年)に刺殺され、一人取り残された田中敬子さんのこれまでに軌跡を辿ったノンフィクションです。

 敬子さんについては、古くからの熱心なプロレスファンならば知っている人も少なくないでしょう。亡き夫を回想する著書も出しているし、プロレスのイベントや式典などに出席する機会も多く、私も何度かお目にかかったことがあります。しかし、こんなにも波瀾万丈な人生を送ってきた方だったとは…。様々なビジネスを手がけていた力道山が遺した負債は、現在の価値に換算して約30億円。

 英雄亡き後の夫人の苦闘については、これまでご本人もほとんど語っては来なかったはずで、多くは細田さんの取材によって明らかになった事実でしょう。細田さんの前著「沢村忠に真空を飛ばせた男」にも、その徹底した取材力に感銘を受けましたが、本作も劣らぬ取材力が発揮されています。これでもかというほどのディティールで、ラストまで押しまくる第1級のノンフィクションと言えるでしょう。

 当たり前のことながら改めて痛感したのは、ノンフィクションの傑作は、人と人とのつながりなくして、決して生まれて来ないということ。そして書き手にとって必要なのは到来したチャンスに全身で飛び込む好奇心、情熱、行動力。大切なことを教えて頂きました。

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