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松本紹圭 × 木村共宏 対談 「Withコロナの寺院運営」 (第3回)

コロナ時代の寺院運営について、松本紹圭さんとの対談記事が"未来の住職塾NEXT"のnoteに掲載されました。こちらでも掲載を許可いただきましたので転載させていただきます。※対談はzoomを利用して行いました 。

第1回記事)(第2回記事

これからのエコシステム

木村  大きな方向性としては、ウェルビーイング、安養、抜苦与楽。ただ、悩んでいる人に寄り添うといっても、どうしたら本当に寄り添えるのか具体的に考えないといけない。これから飲食店なんかもいっぱい潰れることになるだろうし、お店が潰れたら借金だけが残ってしまい、苦境に立たされる人もたくさん出るでしょう。こういう困っている人たちの隣に座って、そうですか、って頷いているだけでは済まないですよね。

何を以って抜苦与楽に繋がるかを考え、もっと具体化して取り組まなくてはいけない。そこは今のお寺に足りていないところかなと思います。安養の場やエコシステムを作るという点は、全く同意です。そこを常に「具体的」に意識できるかどうかが、今後お寺が必要とされるかどうかの分かれ目かなと。抽象論ばかりでは相手にされない気がします。

松本 そう考えて、僕は最近「終活から生活へ」と言っています。日常生活をしっかり整えていくっていうことがもちろん基本にありながら、「本当の意味で生きる」ためには、何を整えていかなきゃいけないのか、一回立ち戻ってそこから作りなおしていくしかないのかなと思います。

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生活の基本的な構成要素として、例えば良い空気があることは、とても大事。今回のコロナも、大気汚染度の高い地域が死亡率も高いという研究も出ているみたいですけど。きれいな空気、安全な水、豊かな食。そして、人と人との繋がりや対話の時間も大事です。そういうレベルのところから、生きるとはどういうことなのか、本当に豊かな暮らしって何なのかを見直し、提案し、一緒に作っていける拠点になることが、未来のお寺の大きな方向性としては見えてきています。

木村 現代人に不安が広がっている今、まさに暮らしを見直す機会なんですよね。尻に火がつかないと人はなかなか話を聞かないし動かないので。どうすれば不安から抜け出せるのかについて、お寺やお坊さんが方向を示すことができて、その方向へ一緒に向かえると理想的だと思います。

長寿命企業とお寺

松本 しかし、面白いですよね。三井物産出身の木村さんのビジネス経験から、環境激変に対してどう対処するかっていう話から始めて、こういう話に落ち着いてくるというのは。ビジネスっていうと、手っ取り早くお金としての利益を上げていくかっていう話が出てくると宗教者は偏見を持ってしまいがちですが、全然そうではないんですよね。

木村 まあ本質は一緒ですし。企業も利益を上げることが最終目的ではなくて、本来それは手段ですから。利益を上げることだけを目的にしてしまっている企業というのは、長続きしないと僕は思っています。百年企業、二百年企業、三百年企業という長寿命企業は、業容拡大を避けている企業も結構多い。今のお客さんを大事にするとか、不必要に仕事の範囲を広げないとか。もちろん絶対に広げないわけではないけど、とにかく拡大を目指したがるのは現代のビジネスの特徴というか。

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自分で始めた起業家は、自分だけの人生を考えて数十年繁栄して儲かればいいのかもしれない。でも、闇雲に手を広げて百年、二百年と続いているケースは非常に少ない。ウン百年続く企業は、親や祖先から引き継いで長い歴史で繋がっている。長寿命企業がその時々で何を大事にしてきたかを学ぶと、お寺にも通じるものが見えてくるはず。お客さんを大事にするということは檀家さんを大事にするということに通じるし、不必要に拡大しないというのも同じ。お寺は拡大しても全員の月参りはできないわけだし。とにかく質を高めることは長続きの秘訣で、その基本は「人」なんですよね。

もちろん外部環境の変化はあるので、それには適切に対応しなければならないし、対応できないところは淘汰の波に飲まれていく。例えば日本酒の酒蔵なんかは、かなりの数が倒産してきた。では、生き残った酒造は何をしてきたのかといえば、製法のイノベーションやプロモーションのイノベーションなど、それぞれに多様なイノベーションを起こしながら変革を遂げて環境の変化を乗り越えてきている。たとえばワンカップ大関だってイノベーション。残ったところは残ったなりに何かやっている。

お寺も今後2万ヶ寺、あるいは3万ヶ寺が廃寺になると言われる中で、このコロナの影響を受けて、その淘汰の勢いは加速するでしょう。お寺もある部分では変わる必要があるだろうし、何らかのイノベーションも必要ではないかと思います。ちゃんと長い間支持を得ている企業のエッセンスはやっぱりお寺にも参考になるものがあると思いますね。

松本 そうですよね。逆に言うと、長く続いている企業はマネジメントをお寺的な長期視点でやってきたっていうことですよね。先祖から受け継いだものを、たとえ低空飛行でもいいからとにかく続けることをまず大事にしている。

公共的使命感

木村 長寿命企業には「存続する」ということを重要視している会社が多いですね。「会社は公器」と言われるように、社員の雇用を守って生活を安定させているし、地元の人たちには継続的なサービスを提供している。特に昔はある会社がなくなるとそのサービスが地域からなくなりかねなかったから、社会の役割を担う公器として存在し続けなければならないという使命感もあったと思う。だから企業において「続く」というのはある意味で目的の一つになっていて、続くためにはお金が回らないといけない。お金をちゃんと回すのは、大事なことであるけど、これは手段ということですね。

お金を儲けることだけが目的になってくると、とにかく儲かればいいから、ほかのことは度外視になってしまう。投資なんかでもエグジット(出口戦略)っていう話になるけど、儲かったから「一抜けた」というのはどうかなと。渋沢栄一のように、キャピタルゲイン(投資で得られた利益)を次の公器(会社)に振り向けて、継続的に社会の役に立てることが大事。公器としての意識が高い会社のビジネスと、投機的にやっているビジネスの違いっていうのを、結構しっかり認識をするべきかなと。だから投機的な会社を参考にしてもあまり意味がない。

ビジネスの世界には公器的な色の強い会社と投機的な色の強い会社があるということですが、これはぜひちょっと区別してみてほしいですね。ここが混同されるので、ビジネスの話をすると、懐疑的な目で「お寺にビジネスの話を持ち込むの?」と言われてしまいがちですが、参考になる部分も大いにあるということをぜひ理解してもらえるといいなと思いますね。

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