カブトガニの逆襲/『ウルトラマンA』覚え書き(15)

放送は1972年7月14日。3週続けて〈夏の怪奇シリーズ〉と銘打たれた、第1作。ただ、ホラー的な怪談ものではなく、むしろ、瀬戸内の海を背景に、父親を亡くした田舎の少年と、都会から来た少女との、リリカルな好篇となっている。

脚本は〈子供目線〉を大事にした田口成光。第十三話でも、兄を亡くした少年が超獣を発見するが、なかなか大人に信じてもらえない話が展開する。残念ながらその設定は、後編となる第十四話(市川森一脚本)の、横暴な司令官に逆らうTAC隊員たちの絆や、七夕を背景にした北斗星司(高峰圭二)と南夕子(星光子)の恋愛フラグによって消化不良のまま終わったが、今回は、田口の持ち味が存分に発揮された。

そのぶん、第十四話で描かれた、北斗と南の関係性は、あたかもなかったかのようにされてしまっていたが……。

『ウルトラマンA』第15話/黒い蟹の呪い

脚本=田口成光/監督=山際永三

今回の舞台は岡山県の倉敷にある、瀬戸内海に面した景勝地・鷲生山。放送前年に鷲生山ハイランド(現在はブラジリアンパーク鷲生山ハイランド)が開業したので、タイアップだろう。ちなみに、同じ瀬戸内海を挟んだ愛媛県に生まれたぼくは、この頃、家族に連れられて鷲生山を旅行した記憶がある。

夏休みを取得した今野隊員(山本正明)が、姪のユミコ(宇野三都子)を連れ、親戚のいる鷲生山を訪れる(せっかくの夏休みなのだから、第九話で恋仲になった〈じゃじゃ馬〉女性カメラマン・鮫島純子でも連れてくればいいのに、こちらも北斗と南の恋愛フラグと同様に、「なかった事」にされてしまった。ちなみに、どちらの恋バナも、市川森一脚本)。

その今野とユミコは、夢二(及一元次郎)という少年に出会う。夢二は三ヶ月前、漁に出た父親が行方不明になって以来、「ちょっと気違いになってしもうた」(地元の駐在さん談)扱いされている夢二だが、ふとしたきっかけで仲良くなる。「お前、名はなんというんじゃ?」「お前じゃないわ、ユミコよ」なんて、きらきら輝く波打ち際を背景に、笑顔を見せあう二人。ちょっとふとっちょな少年と、必要以上に美少女すぎない少女の、ほほえましい光景。

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