女カメラマンは超獣の魂を撮る/『ウルトラマンA』覚え書き(9)

昔から特撮怪獣映画のヒロインといえば、女性カメラマン。『モスラ』(1961)では香川京子が、『モスラ対ゴジラ』(1964)では星由里子が演じた。取材という名目で、怪獣が荒らしまわる現場に入れる特権を持ったカメラマンは使い勝手がいいからだろうけれど、この当時、男性キャラクターと、ある程度対等に張り合える「自立した女性」となると、カメラマンか学者など職業が限られていたからかもしれない。

というわけで第九話は、女性カメラマンと、あるTAC隊員とのラブコメである。

『ウルトラマンA』第9話/超獣10万匹!奇襲計画

脚本=市川森一/監督=筧正典

今回の主役は、ロケット工学のオーソリティとして紹介されたエリートのはずなのに、その実力を発揮する場面をちっとも与えられず、あか抜けないイモ兄ちゃん風容貌そのままの三枚目芝居ばかりやらされてきた、今野勉隊員(山本正明)。

超獣が出現する予兆をキャッチしたTACの面々は、山裾の工事現場で待機する。竜隊長(瑳川哲朗)と美川隊員(西恵子)は攻撃機で、他の隊員は地上で武器を構えて待ち受ける。ただひとり、今野隊員は皆から離れた位置で、望遠レンズをつけたカメラを三脚に乗せ、写真撮影の準備をしている。超獣を写真に撮って、作戦立案の資料にするのだ。

そこに現れたのが、ショートカットにジーンズと、ボーイッシュないでたちの若い女性。いきなり今野隊員のそばでカメラを構える。彼女は、週刊誌専属カメラマンの鮫島純子(江夏夕子、後、目黒祐樹夫人)。「何んでこんなところに来た?」と問う今野に「決まってるじゃない。超獣出現の決定的瞬間を撮りに来たのよ」「他の社の人は来てないわね。いいぞ。特大スクープいただきだわ!」とすまし顔。危険だから立ち去るよう言っても「取材の自由でしょ?」と取り合わず、友達である北斗隊員(高峰圭二)から電話で教えてもらったんだと言い張る。許可は得ているというわけだ。竜隊長に無線で確認しようとすると、その暇もなく超獣ガマスが出現。鮫島カメラマンがシャッターを切った瞬間、超獣は姿を消した。写真を撮り損ねて焦る今野隊員は「特ダネ、ありがと!」と笑顔で走り去る鮫島カメラマンに、1枚写真を回してくれ、と懇願するが「ほかに回したら、スクープにならないの。じゃね!」と去っていく。

鮫島カメラマン、フィルムを現像し、超獣がちゃんと撮れていることを確認してから、雑誌編集長に電話を入れる。「このじゃじゃ馬カメラマン・鮫島純子は、同じ社の、独身で、お金持ちで、親切な編集長・早瀬に、シビれていた」と岸田森の重厚すぎるナレーションに導かれて登場する、縦じまストライプのジャケットに真っ赤なパンタロン、口ひげと、当時イメージされていたであろう典型的なギョーカイ人のいでたちで現れた編集長を演じるのは、岸田森と一緒に岡本喜八映画や勝新太郎主演映画の脇役をつとめていた、草野太悟。「はぁい、もしもし、あぁ、純子ちゅぁん?」と甲高いおねえ口調で電話に出た草野編集長は、超獣の写真をスクープしたとの知らせに「やったぜ、ベイビー!」とあくまで軽薄。こんな男に岡惚れしている鮫島カメラマンも、同様に軽薄な尻軽女だという設定なのだろう。

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