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作家KAIオリジナル直感小説|story10「隠された真実と消えかける能力」



これまでのあらすじ
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作家KAIオリジナル直感小説
をまとめた無料マガジン



本編
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カフェから繋がる
細いレンガ道を
辿るように歩くと

すぐ傍に
ぽつんと小さな公園がある


2人がけの
背もたれのあるベンチに
ゆるやかな揺れを残したブランコ

ブランコのすぐ傍には
まっくろの
綺麗な毛並みをした子猫が
地面に気持ちよさげに
寝転がっている


戸並 十三は
そっと子猫に近づいて
その場にゆっくりとかがみ
優しく子猫の頭を撫(な)でる


子猫は
戸並 十三の手に
顔を擦りつけて甘えながら
『にゃー。』と
か細い声で鳴く



戸並 十三「君は、人慣れしていますね。
               生憎、何も持ち合わせてないのですよ。」


子猫は
戸並 十三のことばを
聴きとるかのように
見あげるが

首をすくめて
身体を丸めくし
戸並 十三の足元で寝転がる


戸並 十三は
子猫が
寝転がっている方の足を動かさず
傍にあるブランコに腰をおろし
時間が経つのをまつ




戸並 十三「 あの能力って
                …僕にしか使えないのかなぁ?」



戸並 十三は
叶えるときに
能力に慣れているように見えた
" あるひと" に
" ひっかかり " を覚えていた




そのころ
カフェでは
甘く煮詰めたりんごとシナモンの香りが
店内に漂いはじめる



凛とRAYは
4人がけのテーブル席の
向かい合わせに座る

2人の前には
ガラスの透明な器に
カットされたアップルパイと

その横に添えられた
バニラのアイスクリームが
お洒落に盛りつけられている


2人は
今にも溶けだしそうな
アイスクリームをスプーンですくって
口に入れる




凛が感じていた不安を
まるで溶かしていくかのように
至福のひとときを過ごす



3口くらい食べ終わると
凛はふぅ。と安心したかのような
ため息をついてRAYにお礼を伝える



凛「とっても美味しいです。
     すこし気持ちが落ち着きました。
     ありがとうございます。」


RAYは
" 音 " を失っている凛と話すために
持ってきたホワイトボードに
文字を書きはじめた


                             今夜は満月
                     音を取り戻せる日です



凛は
書いてくれた文字を
目で追いながら
" 音 " が消えてから考えていたことを
話しはじめる



凛「わたし、、、。
      このまま、音がないままの生きかたを
      選ぼうかと考えているのです。」



RAYは震えた指先で
ポケットに忍び込ませた
" あるもの " をギュッと握りしめる




RAYが躊躇(ためら)いながら
口を開こうとする


カランカラン___。


タイミングを見計らったかのように
入口に凛音が現れる




RAYは
助けを求めるかのように
凛音に合図をおくる



凛音は
2人の席に近づきながら
店内を見渡して
戸並 十三がまだ来てないことを確認する




RAY「わたし、凛音にも
           アップルパイ用意してくるね。」



キッチンに入るRAYを
視線で見届けると
RAYの座っていた席に腰をおろし
凛にお辞儀をする


間を置いてから口をひらく


わざと
一語づつ間を空けて話をはじめる


凛音「気  づ  い  て  い  ま  す  よ  ね…。」


凛は凛音の言葉に
目を泳がせながら
コクリ__と頷いた


聴きとれるペースを確認しながら
ゆっくりな口調で
話を続けていく



凛音「私にも原因が分からないんですが。
        能力の力が落ちてきています。
        半分…聴こえているんですよね?」



凛「はい…。
    だから!わたしはいいので、、このままで。」



そこまで話すと
抑えていた気持ちが溢れて
凛の大きな瞳から
ぽつり。ぽつり。と
涙が零れる





凛音「能力が完全に消えるかもしれない、
        その前に。
        戻りかけているあの男性の方を
        救って欲しいと__。」




凛は涙を拭(ぬぐ)いながら
強く強くうなづいた




RAYはキッチンに入った瞬間
崩れおちるかのように
床にしゃがみこむ






RAYの瞳から
涙が零れる___。




つづく




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