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失恋した時が一番、主人公
先輩が失恋して、深夜に家を訪ねてきた。
眠い目を必死に開眼させながら話を聞いた。
ものすごく簡単にまとめると、一方的にLINEで別れを切り出されたらしい。
私より結構歳上の先輩だ。
知り合ったのは飲み屋で、今思うとその日も、フラれたことを理由に酔っ払って、絡んできて、親しくなった。
先輩はいつも、付き合う人と結婚したいのに、男たちは逃げてしまう。
男性側に問題があるのか、先輩に問題があるのか、特に問題がある訳ではないのかは、私にはわからない。
ただ、失恋した直後の先輩はいつも、とにかく荒れる。
因みに私は先輩にとって、恐らく二軍の友人だ。
年下だし、下手に出るからワガママを言える都合のいい後輩、ってところだろう。
そして先輩が失恋した時、先輩といつも仲良くしている、いわゆる“いつメン”(言葉が古い…)は駆け付けない。
そのことについても先輩はとても悲しんでいた。
面倒臭いんだろうな、と、私は解釈している。
そう。失恋している人は面倒くさいのだ。
なぜなら、その瞬間、
その人は主人公だから。
失恋の連絡を受けたことは何度かある。
多分、多い方だと思う。
朝の4時まで話を聞いたこともあった。
夜中タクシーで家まで駆けつけたこともあった。
会計5万全額負担してあげたこともあった。
全員、主人公みたいなことを言っていた。
もちろん、家に押しかけてきた先輩も例外ではない。
主人公みたいなことを言いながら、私の家にあるお酒を飲み、お菓子を食べ、私の布団で眠っていた。
皆んな突然「運命」とか言い始めたりする。
「出会わなければよかった」とか、
「どうやったら忘れられるんだろう」とか、
「こういう時思い出すのって楽しかったことばっかりだよね」とか、語り始める。
私もボーッとしてるわけではない。
ちゃんと、ヒロインの友人っぽいことを言うようにしてる。
「彼氏といた時の○○も、今の○○もかわいいよ」とか、
「いつか向こうも後悔するって。」とか、
「そんな奴、別れて正解だよ!」とか。
このワンシーンにおいて私はモブだろうなとか、これは結構重要な脇役だろうとか、そんなことを考えながらセリフを選び、口に出し、その子が出来るだけ主人公になれるように努める。
失恋の曲の方が、ラブラブな曲よりも、この世には多いという。
それが全てを物語っているようにも思う。
ちなみに私は運がいいのか悪いのか、失恋でそこまで自我を失ったり騒いだことが殆どない。
交際してる人と別れる時は大抵自分から切り出していたし、好意を寄せた人が自身を好きじゃない場合も告白しないで静かに関係を終えている。
ただ、それでもやっぱり、あの時は辛かったなと思う別れの瞬間が0な訳ではない。
そのとき、私はきっと、主人公だった。
なんていうか、失恋という免罪符で泣いたりした気がする。
失恋という免罪符は
本人が思ってるほどは効果がないんだよな、きっと。
結局、朝の9:00まで寝て、私の作った朝ごはんを食べて、食べながら泣く先輩を見つめながら、
それでも私は、この人に幸せになってほしいと
モブのくせに、図々しい感情を持ってしまった。
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