設備投資は正義

 圧力鍋を買った。
 普通の鍋で大豆を柔らかく煮るのは根気がいる。Kに根気はない。時間もあるわけでなく、40キロの大豆を納豆にして消費するには普通の鍋では丸腰がすぎる。
 時間がかかるし(3時間)、あまり柔らかくならない。油断すると吹きこぼれるので気を使う。これでは納豆になる前に挫折する。
 圧力鍋は人生で初めて手にするアイテムであり、当然使い方なんてさっぱりだ。取扱説明書は読むタイプだが、取説が難しい。とりあえずやってみた。
 最初は加圧ボタンを押すのが早かったか、吹きこぼれた(ほんとは最初から押すものだった。初手から間違っている)。時間も短かったのか固めに仕上がった。せっかちがすぎる。2回目は少し吹きこぼれたが、時間は十分だったようで驚くべき柔らかさ。
 3回目は十分に蒸気があがるのを待って、満を持して火加減を下げた。そして時間いっぱい(10分)加圧した。吹きこぼれなかった。のち、赤いダボが引っ込むまで放置。作業を始めてから30分くらいですばらしい煮豆が出来上がった。
 工業製品はいつも正しい。おかしい時は使い手が間違っている。
 Kは納豆の作り方をマスターした。設備投資は正義である。これで40キロの大豆を納豆に錬成できる。
 大豆を計って一晩水に浸ける。翌朝、圧力鍋で柔らかく煮る。煮豆ができたら煮汁を捨てて納豆を混ぜて空き牛乳パックに入れ、ヨーグルトメーカーで45℃で24時間。のち、冷蔵庫で半日熟成。半日おかないとアンモニア臭がしておいしくない。
 設備投資をしても中3日かかる。タイムふろしきがそこのホームセンターにあったら買うのだが売っていない。残念だ。
 節分豆はKしか食べないが、納豆は家族全員が大喜びで食べる。特にLが納豆大好き人間で、納豆がどっさりあると反抗期だが喜ぶ。ヨーグルトメーカーを買った時はこれを買ったのは正解だったね、と珍しく肯定的な言葉を発し、今回、圧力鍋を購入したことにより再び肯定的なお言葉を頂戴した。
 ところで、コストパフォーマンスはどうなのか。買うより安いのか。
 大豆は5キロ1500円、1回170グラム使うので約30回分、1回50円。納豆パックの4分の1を種に使うのでおよそ7円(3パック80円で計算)。これでおよそ500グラムの納豆ができる。水道光熱費を上乗せしても100円未満で収まるだろう。
 一方、市販の納豆は45グラム×3パックでつながってるやつ、135グラムで80円。500グラム買おうとすると3パックでつながってるやつ4つ買うとして320円。
 作った方が安い。しかも、大粒でいいやつだ。小粒納豆の一番安いやつを食べていた者にとっては贅沢が過ぎるエリート納豆が出来上がる。反抗期が肯定的な文言を述べるのも無理はないだろう。
 作ると安い、他のメリットはゴミが出ないことだろう。器に盛って食べなければいけないから食器を洗う手間が増えるが、どうせパックも洗っていたので捨てるものを洗うよりは建設的な気がする。タレとカラシの袋もあのフィルムもない。
 デメリットは材料として納豆に買うことに関して、納豆を作るために納豆を買うというなんだか不思議を抱えながら、スーパーの納豆売り場へ赴くことである。
 納豆は作るというより増やすものであり、道具をそろえれば大体名人になれるということが分かった。