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恩田陸「Spring」

※ネタバレが気になる方はお避けください

 バレエのお話。天才バレエダンサーHALについての物語で装丁が凝っている。芸術系の天才を描いた作品では3作目ではなかろうか。
 ページ左下のパラパラマンガとリーディングルーラーみたいなしおり。リーディングルーラーは識字障害がなくても使うと読みやすく便利なものだがこれを使ってじっくり読めということか?と思ったが、どうやら違う意図があるらしい。
 Kはバレエにちっとも興味がないのでへぇーとかほぉーとか感想かこれ。ギフテッドチャイルドというワードが出て来てオエェーとなるが、出て来る人全員ギフテッド(タレンテッド)でHAL1人が天才ってわけではないのだった。現実にこういう人(ギフテッド)を育てるには大変なはずだが、物語中ではその部分は全くなくこういう大きな才能を持って産まれた子どもを一流に成人させるセオリーを持っている一族なのだと思う。大変な部分をはしょったというよりは、才能を育てることができる家族の話で彼らは「普通に」育てたのだろう。
 だもんでこれは貴族(セレブ)の話である。
 Twitterなどにギフテッド育児の悲喜こもごもが上がってくるけど、才能の育て方を持たない庶民には想像もできない世界の話だ。ファンタジーか?と思うが、しかし、バレエの世界は現実に存在するし、時に突出した天才が現れるから芸術として持続しているのであろう。
 ファンタジーではなくフィクション…だが作者は取材を丹念に行っていて実際のバレエの世界を描いている作品だろう。だからHALのような人物も実在するにちがいない。
 HALをそのまま育てるのってきっと文化資本も忍耐力もものすごくかかる。もちろんおカネがすごくかかりそうだけど、特に文化資本を一族として代々積み上げて来ないことには、一朝一夕で天才を育てられるわけがないということがこの物語から読み取れる。
 急に庶民の家に才能が来ても育てられない。それが分かるのでギフテッド育児に悩む保護者は読んだらいいと思う。
 何しろ装丁が凝っている。
 Kは才能のない凡人だが、恩田陸が出す本はデビュー時から全部買っている。我々庶民が天才の芸事に魅せられることによって、文化は進化する。
 装丁の凝りようにそれをとても感じる。