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漫画でよむ夢枕漠『陰陽師』1巻~13巻

岡野玲子 画

中国ファンタジーを読み漁る内に中国の國造りの神、伏曦が編み出した八卦が、陰陽道に通じることにたどり着き、陰陽師と言えば、夢枕漠氏ということで、これを原作とする岡野玲子氏の『陰陽師』を紐解いてみた。

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これまで、映画はみたことはあったが、安倍晴明の生きざまみたいなのには詳しく読んだり調べたりしたことがなかったことに気づかされた。

安倍晴明と言えば、怨霊や妖怪を退治する討魔師のように勝手に思い込んでいたけれど、夢枕漠氏の描く晴明はもっと人間臭くて、悩み多きひとだった。

都に起きる奇々怪々な出来事を、盟友・博雅を通して理路整然と解き明かして行くが、それは魔術などではなく、計算され尽くした神からの啓示だった。

陰陽師の基礎知識

紀元前八千年前、中国の天帝伏義ふつぎ|が太陽と月の動きを割出、天地自然を8つ分けることで『八卦』を編み出した。
八卦は長い年月に進化し、『易経』となりそれを解釈した書として『易伝』が記され『周易』となった。
これは太陰暦の元となった。
やがて、月の満ち欠けと太陽の周期をかけあわせて、一年365日の太陰太陽暦がうまれるのである。


日本には560年頃、聖徳太子の活躍した時代。
中国から取り寄せた経典と共に、「太陰暦師」を招き、月と太陽の相互関係を学んだ。
月食や日食のメカニズムを知り、それまで神の怒りだと恐れていたことが、天界の物理的な事象だと証明されたのだ。
しかし、上層部はこれが明らかになれば、皇族の威厳が脅かされるとし、民に教えることを拒み『天界とは神である』とし、暦学は特別な存在の者だけにのみ伝授されるようになった。
これが、陰陽師の始まりである。

陰陽道は、易学、暦学、天文学と中国自然哲学の思想『五行説』を融合することで宇宙の流れを読み、政治経済を占ったとされる。

『五行大義』に記される陰陽五行説とは、万物は「火水木金土」の5種類の元素からなり、互いに影響しあい、バランスを取ってながれている。
なので、そこに歪みが生じれば、暗雲の世になってしまう。
事前に読み取り、万全の処置がもとめられた。
『河図洛書』には、易と五行を用いた計算方法が詳しく記されている。陰陽五行の理数本として有名である。

また、晴明の桔梗紋と呼ばれる『五芒星』は神聖幾何学における生命の!象徴である。緻密な算術によって成り立つ勾玉を描き、その接点をむすぶことで五芒星が描くことができる。

第六巻巻末より
第六巻巻末より引用


本作の舞台となるのは陰陽寮がおかれた 平安初期。
国士として活躍した加茂忠典を師として陰陽道を学んだ安倍晴明は、類いまれなる頭脳と感性でたちまち、師匠を抜き、その子保忠をも凌駕する存在となる。

加茂家から離れた晴明が、安倍氏流土御門家として独立して間もなくの頃、藤原道真の怨霊を沈めるよう命を受けるところからはじまる。

博雅と晴明


盟友、源博雅と共に様々な問題に立ち向かうのだが、無垢な博雅とのやり取りは、互いを知り尽くした知己への労いと思いやりがかいま見えて楽しげだ。

晴明の家僕よろしく現れる式神に、いちいち驚く博雅の純朴さも微笑ましい。
『五行』についての問いかけた博雅に晴明論議が炸裂して、画面に幾何学図が並ぶ第六巻は、圧巻である。

この数頁だけでも陰陽道とはなんぞやが相当詳しくしることができる!

数々の難題をクリアしてゆく晴明が、しばしの安らぎを覚えるのはまだ幼さの残る御前、真葛とのひととき。

やがて、授かる御子を「小さい人」とまるで、天からおとされた神子のように、大事そうに抱える姿は何とも、優しい。
まだ、寝返りも打てない御子に五行を語り聞かせる晴明に、「無駄だ」といい放つ真葛が、笑える!

そして、クライマックスは、かの『射覆』の場面となるのである。



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若きエジプト王と晴明


もうひとつ、この作品で登場するのは、エジプトのアンクアメン。
太陽神アメンの生まれ変わりとして誕生したトト·アンク·アメン王。

偉大なる宇宙を背景に君臨する太陽を天文学として紐解いたのは伏義だけではなかった。
八卦発祥の後、二千年を経て、エジプトではシリウスの星の動きから太陽暦が編み出されていた。
緻密な星の相互関係を幾何学的な図形に現し、その計算方法も記された。

その遥か、遠く離れた異国の王の意識が、晴明と呼応する。
その壮大な設定は、少しも違和感なく、読者の中にはいってくる。

きっと、どこか本当に星を介したこの繋がりは実在すると思いたい。

最終巻の巻末、岡野玲子氏のあとがきには、作品に取り組む際に手に入れた資料が、一般には手に入ることのない貴重なもので、偶然にも岡野氏の元にやってきたことが記されている。
古代エジプトと平安の京都に共通する五芒星。
それらをリンクさせるという発想がそういった偶然の積み重なりから実現したことに、必然性を感じずにはいられない。

素晴らしい作品に出会えたことに感謝。

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