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魔道祖師 考察❄️藍湛の呟き②

日本語版原作第1巻~第4巻を何度も読み返して、いくつかの疑問が浮かび、もやもやをすっきりさせたいと考察+二次創作を書いてみた。
疑問その①藍忘機はどの段階で恋に落ちたのか→『藍湛の呟き』
疑問その②魏無羨にとって藍忘機はどんな存在だったのか→『魏嬰の独り言』
疑問その③夷陵老祖となった魏無羨はなぜあんなに性格が変わってしまったのか→『夷陵老祖零す』と綴ってみた。
創作のヒントになる原作の参照ページを記載。原作と合わせて読むのも面白いかも。

あくまでもいちファンの願望として捉えて頂くと有難い。




【雅騒】(二)



看我


《日本語版原作 第一巻 P149》
🐰彩衣鎮の町は水辺を利用した船での出店や枇杷などの果物、かき氷、銘酒の天子笑が軒を連ねて並び活気に満ちている。
しかしここ最近水鬼の被害が多発していた。魏無羨は酒を買い込み店主らから事情を聞いた。
通常水鬼は亡くなった水域から離れないはずだが、数からして他の地域から流れついている可能性があった。
川は大きな湖に繋がっていて、名は碧霊湖という。一行は一見静かな湖面を眺めた。肉眼での捜索は限界がある。
「羅針盤のように、邪宗を感知する法器があれば良いのに」と呟く魏無羨。
藍忘機は感心していた。彼の発想力は意表を突いている。それを実現するかどうかは別として、既存の法器も先人の閃きから生まれているのだから彼の直感力は秀逸だと言える。
形に捕らわれない遊び心が、柔軟な発想力を生み出すのかもしれない。が、それは諸刃の剣でもある。彼の行動にはいつも危険が伴うので目が離せない。

湖面に黒い影が横切る。
「藍湛、こっち見て!」不意に船に衝撃が走った。魏無羨の櫓が藍忘機の船を大きく突いて来たのだ!
(また、良からぬ悪戯を……!)
「くだらない!」
咄嗟に兄の船に飛び退いた藍忘機の目に飛び込んだのは、ひっくり返った船の底に貼り付く数体の水鬼だ。考え事をして油断したのは自分だった。

「魏公子、何故わかった?」藍曦臣が感心して尋ねた。
「簡単ですよ。船の沈み具合が怪しかった。ひとりしか乗ってないのに数人分沈んでいたたので、絶対船底に何かいるって思ったんです」
「さすがに経験豊富だ」藍曦臣が同意を求めてきたが、何も言えず、視線をそらした。
船に戻った藍忘機に魏無羨が近づいてきた。
「藍湛、わざとじゃなかったんだ、水鬼は悪賢いから声をだすと逃げられるだろ?ほら、こっちを見てくれよ」
「なぜ、着いてきた?」
「謝りたかったんだ、昨日は俺が悪かったって。」
「………」(騙されない。)
「信じてくれよ、今日は本当に手伝いにきたんだ」そう言って船をコツコツと当ててくる。そこへ江澄の牽制が飛ぶ
「こら、魏無羨!手伝いに来たのに邪魔してるのがわからないのか?こっちに来い❗️」「ハイハイ」
渋々離れようした時、湖面から無数の水鬼が飛び出してきた!藍忘機の剣と魏無羨の剣が同時に左右の水鬼を切り裂いた!残ったのは船に貼り付いた数本の腕だ。
目にも留まらぬ魏無羨の剣さばきに思わず息を呑む。
剣は主人の霊力と比例して自らも意思を持つ。持ち主の修為が高いほど殺傷力が強い。愛着を持って命名するのが常だ。
「その剣は何と言う?」
「え?これ?コイツは、随便ずいべん(いい加減、適当の意味)!」誇らしげに剣を掲げてにっと笑った。
「随……、いい加減な。剣には霊力が宿る。失礼な呼名は……」
「わかってるって、皆同じことを言うけど、コイツはこの名前が良いんだ。江伯父ジャンおじさんも認めてる。ほらここにちゃんと明記してある!」
確かにそこには古字で『随便』と刻まれている。
「……馬鹿げている」
「あ~あ、お前みたいに真面目ちゃんには理解出来ないだろうけど、俺はこれが気にいってる!」自慢気に笑う。
その時、門弟が叫んだ。
「網があがって来ます!」網には濃い髪の毛のような物がびっしりと絡まっているが、水鬼の姿は見当たらない。藍忘機が避塵を水面に放つが、手応えがなかった。
「おかしい。水の色が黒ずんでいる。」魏無羨が呟く。
急に船は不気味な渦に吸い込まれて行く!(危ない!)「今すぐ引き返さなければ…!」
藍忘機の声に、皆、素早く御剣して浮き上がる!がその時、剣を失った蘇渉スーショーが船に残されたまま渦に飲み込まれそうになった。
魏無羨はすかさず水面まで下がると両手で彼の体を持ち上げた。随便は霊力を振り絞って浮き上がろうとするが、水の中からの引力に今にも負けそうになる!
(……!)藍忘機は咄嗟に避塵の方向を変えた。
「誰か手を貸してくれ!」叫んだ魏無羨の首根っこがグイっと捕まれ瞬く間に空中へ舞いあがった。
藍忘機の避塵が3人分の体重と水の引力を振りきったのだ!
「凄いな!藍湛!お前の剣!」
(やはり、目が離せない……)
はしゃぐ魏無羨の言葉にも一切顔色を変えず遠くへ視線を投げ、更にぐいっと持ち上げる。
「けど藍湛、どうして首なんだよ…」
魏無羨は子猫のように藍忘機に首を捕まれて不満をこぼす。
「………」(他に掴めるところはない)
「苦しいから離してよ、ああ!」ジタバタするので彼に掴まっている蘇渉スーショーが落ちそうになる。ジロリと睨み付け藍忘機は呟いた。
「私は他人に触らない」再び襟を掴む。
「他人って、俺たちは親しい仲じゃないか」「親しくない」ついと前方に視線を移す。
「ああ、もうお前ってヤツは……」
ふたりのやり取りに呆れながらも江澄は密かに藍忘機の霊力の高さに畏怖を感じた。
「魏無羨!減らず口を叩くな!じっとしてろ❗️」江澄が見かねて口を挟む。

岸辺に降り立つと藍忘機は魏無羨たちを離し、冷静な口調で言った。
水江淵すいこうえんです」
水江淵すいこうえん』とは湖自体が霊となり、人間や動物を餌として欲しがるようになることである。水鬼などはその邪宗を退治すれば済むが、水江淵すいこうえんは簡単にはいかない。まずは全ての水を汲み取り干上がらせて数年は乾かさなければならない。途方もない労力と財源を要する。

藍曦臣はかぶりを振った。
「困ったものだ。」
「兄上、碧霊湖の他に水江淵が出没したという話があるのですか?」
「うむ。」藍曦臣は黙って天を指差した。天上にはギラギラと輝く太陽があった。
「__岐山温氏ぎざんうぇんし……!」
魏無羨、江澄、そして藍忘機も言葉を失った。岐山温氏ぎざんうぇんしは仙門に属する大小の世家の頂点に君臨する絶対的な存在だ。温氏のやり方は残忍で逆らうものは悉く制圧した。もし、本当に温氏の仕業なら、いくら訴えても意味がない!彼らは絶対に認めないし、なんの償いもしてはくれないだろう、前途多難だ。藍曦臣はため息をついた。
「仕方ない、町に戻ろう」

船は再び賑やかな町に差し掛かり、魏無羨は水を得た魚のようにあちこちに声をかける。「お姉さんたち~!その枇杷はいくら?」「お兄さん、男前やからひとつあげるわ」「ありがとう!お姉さんもかわいいよ」
はしゃぐ魏無羨とはうらはらに、藍忘機と藍曦臣はこの先に起こるであろう災難をどう対処したものかを黙って考えていた。
「こっちの男前にもあげてくれる?俺だけが貰うと嫉妬しちゃうからさ!」魏無羨が、藍忘機を指差して言った。不意に自分が話の的になり、戸惑っていると、もうひとつ枇杷が飛んできた。咄嗟に受け取ると「良かったな、藍湛!甘くて旨いぞ」魏無羨がにやけ顔で言った。藍忘機は枇杷を魏無羨に投げかえした。
「結構だ」
「なんだよ、素直じゃないなあ~」
「くだらない!」
「ハイハイ、そう言うと思ったよ。江澄!受けとれ!」江澄はいやいや枇杷を受けとると
「また、色目を使いやがって」と鼻を鳴らした。


江澄と魏無羨が買い物に興じている。藍忘機は対岸の橋の上からふたりの様子をみていた。何やら言い合いになったかと思ったら、邪れあって一緒に笑う。ケンカばかりに見えても共に育った兄弟のような関係。良いことも悪いことも気軽に口に出せる相手がいると言うのは、どんな感じなのだろう?
幼い頃から同年代の友を持たない自分には到底理解できなかった。
ただ、ふたりを見ているとチリチリと胸が傷んだ。
「兄上」
藍忘機は隣に佇む藍曦臣に問いかけた。
「友とは何ですか」
藍曦臣は一瞬大きく目を見開き、穏やかに答えた。
「その人の力になりたいと思えることではないかな」
憮然と前を見つめる藍忘機の横顔を見て、藍曦臣は優しく頷いた。

目の前を先ほどのお姉さんが籠いっぱいの枇杷を担いで通り過ぎた。ついと目で追う藍忘機の様子をみて藍曦臣が聞いた。
「枇杷が食べたいのか?ひと籠買って帰ろうか?」
「……いりません!」


惑乱


ひっそりとした蔵書閣で藍忘機は考えあぐねていた。この静けさが好きだったはずなのに、ぽっかりと抜け落ちたようなこの物足りなさはなんだ?不意にあの澄んだ笑い声がよみがえった。人を小馬鹿にしたような、そのくせ人懐っこい笑顔が脳裏から離れない。魏無羨が来なくなったこの空間が無性に静かすぎて落ち着かないことに藍忘機は戸惑うばかりだった。

その夜、経典の清書を終えた頃、塀の外からヒタヒタと足音が近づいてきた。聞き覚えのある軽快な、それでいて少しおぼつかないような足取りは、にわかにピタリと止んだ。(魏嬰…?)弾かれたように塀の上へと急いだ。なぜだかわからないが、この時を逃してはいけないと誰かが囁く。藍忘機が塀の上から見下ろすと、黒い人影がふわりと屋根の上に降り立つ。
《日本語版原作 第一巻 P166上段》
「うわ、藍湛!奇遇だな、エヘヘへへ」
そこには魏無羨がばつが悪そうに愛想笑いを浮かべて立っていた。その笑顔に胸がどくんと鳴った。魏無羨は手に持っていた酒を隠した。藍忘機は大きく息をして胸の鼓動をおさえながら言った。
「隠しても無駄だ」
「ああ……そうか。なあ、藍湛、多めに見てくれよ。ほら、お前も一緒に飲もう!」
すでに酔っているのか呂律がおぼつかない。へらへらと笑いながら目の前に酒を差し出した。(懲りもせず、君という人は…。)
ここ数日、叔父藍啓仁が清談会で留守にしているため、授業も無い上に監視が甘くなり修士たちの生活は乱れていた。
が、それを率先しているのが、この魏無羨だと言うことは明白だ。彼の存在事態が粗悪の根元なのだ。今日こそは捉えて懲罰しなければならない。これは責務だ。藍忘機は自らに言い聞かせて言った。
「酒は禁止だ」
藍忘機の低い声に反応した避塵が「チャン」と音をたてて飛び出た。
「客であっても度重なる宵禁は懲罰の対象だ。罰を受けろ!」魏無羨の鼻先に突きつける。
「ちょ、ちょっと待てって、俺たち親しい仲じゃないか。ここには俺とお前しかいない。黙っていればわからない」避塵の先をひょいと持ち上げると人懐っこい笑顔で覗き込む。
「親しくない!」(惑わされるな)
「わかったよ、もう二度としない、誓うから、な?藍湛!」上目遣いで懇願してくる。
(この目を私は待っていたのか…)
藍忘機は振り切るように無言で鞘を押し付けた!
「本当に赦してくれないのか?本当に?」
魏無羨を押さえつけようとした瞬間、くるりと体勢を変えると魏無羨は藍忘機を後ろから羽交い締めにしてきた!
そして藍忘機の避塵をもつ手首をグイっと引き寄せ、もう一方の手を腰に回しがっしりと封じ込めたのだ!
「な、何を……する!」
元々他人に触れられることが苦手な藍忘機だ。このような密着はあり得ない!なのに、魏無羨の両手は容赦なく締め付ける!藍忘機は全身が硬直した。

一方、魏無羨は抱きしめた藍忘機の体から、ふわりと立ち上る壇香に気をとられた。
そして吸い寄せられるように藍忘機の紅く染まった耳朶をそっと噛んだ。
「藍湛…わかったよ…罰を受けてやる。でも俺ひとりじゃない、お前も同罪だ」
吐息のような囁きが耳元で聞こえた。
とたんに藍忘機は心臓が激しく打ち息が上がり、呼吸が出来なくなった!魏無羨の吐息は酒を含んでいるからか、ほんのり甘くどこか懐かしい。
藍忘機はがんじがらめの体から力が抜けていくのを感じた。意識が遠くなり避塵が手から滑り落ちて行く。急に力が抜けた藍忘機の体を支え切れず魏無羨は足を滑らせた。
ふたりは絡まりあったまま塀の外へと落下した。一瞬の記憶が途切れた後、藍忘機は目を開けた。
「いててて……藍湛、大丈夫か」
気付けば藍忘機の下敷きになった魏無羨が、上体を起こしてぽんぽんと肩をいたわるように叩きじっと見つめてくる。
弾かれたように飛び起きるとわなわなと拳を握りしめる藍忘機。心臓が飛び出る程に高鳴る。再び耳元が熱くなるのを感じた。
自分の体の反応にどう対処すれば良いかがわからず、反射的に魏無羨を睨み付けた!
(今、何をした…?何が起きたのだ)耳朶に残る感触が藍忘機の理性を揺るがす。
「怪我はないか?藍湛」何事もなかったように魏無羨はパンパンと土を払って起き上がると人差し指をこちらに向けた。何も言えず硬直する藍忘機に言った。
「あ~あ、外に出ちゃったな!これでお前も同罪だ!俺が罰を受けるときはお前も一緒ってことだ。けどいいか、俺は他言するつもりはない。この事はふたりだけのひ・み・つだ」そう言うとニッと笑った。
「…………。」(私は、いったい何を…)藍忘機は肩で息をしながら、冷たい玻璃のような瞳で魏無羨をじっと見つめた。
「な、なんだよ…?」戸惑う魏無羨を見下ろし、微かに何かを呟くと、踵を返して立ち去った。



雅正


藍忘機は何度も寝返りを打ったが眠れなかった。目を瞑ると魏無羨の息使いが甦り、心臓の音が、耳元で激しく鳴り続ける。息が苦しくなってきて気づけば起き上がっていた。
生々しい記憶が甦る。

《日本語版原作 第一巻 P163下段》
次の日、魏無羨は誰かに襟首を掴まれ引きずられながら目を覚ました。
「あれ、藍湛、どうしてお前ここに…」藍忘機は、「懲罰だ」といいながら魏無羨を祠堂に引きずっていく。とそこには数名の年上の門弟たちが厳しい態度で待機していた。すぐさまふたりの門弟に押さえつけられた魏無羨は叫んだ。
「待ってくれよ、藍湛、俺を懲罰するつもりか?そんなの納得できない!」
藍忘機は何も言わず冷たい視線で魏無羨を見つめると、外衣の裾を持ち上げ、彼の隣に跪いた。
「始めてください!」鋭い一声と共に戒尺が振り下ろされた。「ああ!」魏無羨の叫び声が延々と続いた。

100回以上も手足を戒尺で叩かれ、魏無羨は江澄に背負われたまま泣き言を洩らしつづけた。
「うるさい!お前よりも50回以上打たれた藍忘機は一度も叫んでなかったし、さっさと自分で立って帰ったぞ!」
「それにしても、どうして藍忘機まで罰を受けることになったんです?」懐桑は不思議そうに首をかしげた。
「誤算だよ、あいつがそこまでばか正直だとは思わなかったんだ。」
魏無羨の泣き声を聞き付けて、藍曦臣が本を片手に近づいてきた。
「心配ない。魏公子、傷もすぐに良くなる方法を教えよう。」と優しく微笑んだ。


___冷泉。山間の小さな滝が流れる滝壺に冷泉はある。その水温は低く、藍家以外の仙士が慣れるには数日を要する。

一筋の滝を肩に受けて藍忘機は騒がしい心をもて余していた。この一晩で起きた自分の変化に戸惑い、怒りすら感じていた。戒めに懲罰も受けてみたが、鬱蒼と漂う黒い雲のような心のもやは消えなかった。
(私は汚れている…)
昨夜の落下事件以来、否、もしかしたらもっと以前から魏無羨に対して邪な感情を持っていたのかも知れない。
眠れぬ夜の後、うつらうつらと微睡んだ中で起きた出来事。
夢の中で__。魏無羨はケラケラと笑いながら藍忘機の首に手を回し耳元で囁く。「藍湛、わかってるって、お前は前からこうしたかったんだろう?」
そう言いながら藍忘機の顎をくいっと上げると目を閉じて顔を近づけてきた。長い睫毛を揺らしながら薄くて紅い唇が藍忘機の唇にそっと触れた。
胸が締め付けられ腹部に熱いものがほとばしる。
目覚めたあと、両手に残る白い液体に呆然とした。これは罪だ。あってはならない。
姑蘇藍氏の双璧として煩悩を断つことは必須だと言うのに。藍忘機は激しく首を横に振る
(私はどうすれば良いのか…)
とにかく心を沈めなければ。瞑想だ。

《日本語版原作 第一巻 P168下段》
パシャリ。
微かな水音。突然誰かの声が耳元に響いた。
「藍湛…」「……」
藍忘機は目をみはる!
今、一番会いたくない人物がそこにいる。後ろめたさに声が出ない。
魏無羨は冷泉のほとりの青い石盤に寝っ転がってにっと笑った。

「……どうやって入った…」声が上擦る。
「沢蕪君が入れてくれたよ」言いながら、衣の帯をほどいて服を脱いだ。日焼けした肌に無駄のない筋肉がしなやかに走り活発で若々しい優美さを放つ魏無羨の体に躊躇する。
「……何をしている。」
「何って、服を脱いだんだから次にすることは決まってる!この冷泉、心を落ち着かせ修業にもなって、瘀血を吐き出させる上に傷まで治るらしいじゃないか!お前の兄貴が一緒に浸かって良いって教えてくれたんだ」

藍忘機は咄嗟に背を向け距離をおいた。
どんな顔をすればいいんだ。
藍忘機の気持ちなど、お構い無しに近づいてくる魏無羨。
「に、してもお前、水くさいな、こんな良い所があるのに、教えてくれたって良いだろう。うわ、冷た!」ジタバタと水しぶきをあげる。
「私は、治療ではなく修業に…暴れるな!」
(来るな!はなれろ…!)
「だって、本当に寒いよ」
バシャバシャと泳ぎわまっては藍忘機の髪に水しぶきを浴びせてくる。
(これ以上、近づくな…!)
藍忘機は魏無羨の肩先を掴み、一定の距離を保つ。この心臓の音が聞こえてしまわないように。
一方、魏無羨は肩先から藍忘機の体温が流れてくるのを感じ、嬉しくなってもっと近づこうとしたが、がっしりと押さえ込まれて身動きが取れない。
「藍湛、お前そんなに力が強いのにどうして昨夜はあんなに簡単に俺にもたれかかってきたんだ?」
「………。」思わず、視線をそらす。
ドクンドクンと音は更に大きくなる。
「あっ、それともわざと一緒に罪を被ってくれたのか?」
「………。」
確かに同罪であることに間違いはない。が、懲罰を受けたのには別の目的もあったのだ。
(なんと私は利己的なことを…。罪だ。)
「藍湛、そっちの方が温かそうだな」
「そんなことはない」出来るだけ距離を置こうと厳しい声で告げた。魏無羨は特に気にも止めずにいつものようにべらべらと喋りだした。
「お前があんなに潔い高潔だとは流石だな!尊敬するよ。いくら俺が同罪だって言っても、普通の奴は見て見ぬふりするもんだ」
そう言いながらチャプチャプと泳ぎ出した。やっと離れていく魏無羨に藍忘機はほっと息を吐き瞑想に集中しようと目を閉じた。
ひとしきり泳ぎ回ったあと再び近寄ってくる。
「なあ、藍湛。さっき俺の言ったこと、ちゃんとわかってるか?」
「わからない」(ちかづくな)
「俺はお前を誉めてるんだ、お前みたいに有言実行な奴見たことない。だからお前と仲良くなりたいんだ」
藍忘機は彼を一瞥した。
「どういうつもりだ」(私を混乱させるな)
「藍湛、俺たち友達になろうよ」
(……友達とはどういうものだ)
「俺たちもうこんなに仲良くなったじゃないか」
(仲良くとはああいうことをすることなのか…?)
藍忘機は昨夜の魏無羨の吐息を思い出し鼓動が激しくなった。
「仲良くなどない!」
「でも、お前、そんなんじゃつまらないだろ?俺と友達になったら絶対いいこといっぱいあるぞ?」
(騙されない…)警戒する藍忘機を見て
「ああ、本当だって」魏無羨はぱしゃんと水面を叩きながら言った。
「…例えば?」藍忘機が興味を持ってくれたと思った魏無羨は得意そうに話始めた。
「例えば、新しい春宮図を手にいれたら真っ先にお前に見せるし…」
(また、恥じ知らずなことを……)
「見ない!」これ以上聞いてはいけない!早く彼から離れるのだ。いつもの私に戻らなければならない!
一切耳に入れたくない藍忘機をよそめに魏無羨は延々と喋り続ける。
「…それで、俺がお前を連れて蓮や菱の実を取りにいくとかさ。ほら、藍湛、来たくなった?」パチャパチャと寄ってきて覗き込む。
「行かない!」(そんな目で見るな)
「そんなにないないっばかり言ってると女の子に嫌われちゃうぞ」
「行かな……」(やめろ)
「あ~あ、そんなに俺のこと拒絶するなら、お前の服を持ってっちゃうぞ」ぷらぷらと腕をふって笑った。
「失せろ!」冷泉に藍忘機の怒号が響いた。
__つづく。

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