思い出のマンデリン

ある晴れた日曜日。

普段は漬け物屋さんの広い敷地には、

沢山の笑い声と笑顔があった。

ホットドッグのキッチンカー、

タコスのキッチンカー、

手作り雑貨やアクセサリーのお店。

お米の販売や、パンやスパイスの販売。

勿論、漬け物の販売。

そんな敷地の一画で、

私はコーヒーを淹れている。

昼下がり、

ご婦人がマンデリンをご注文。

聞けば、亡くなった旦那様が

生前に飲まれていたらしい。

二人でいつもの喫茶店に行くと、

旦那様は決まったように

マンデリンを注文していた。

ご婦人は飲んだ事はないマンデリン。


そんなマンデリンを
ご婦人はご注文くださいました。

コーヒーが飲みたかったわけではない。

マンデリンが飲みたかったんだ。

コーヒーが好きなのではない。

マンデリンが飲んでみたかったんだ。


亡くなって
どれほどの時間が過ぎたのかは
分からない…。

この時、ご婦人は
亡くなられたご主人の事を

あの喫茶店の時間を、
マンデリンを通して
思い出していたのだと思う。

思い出のマンデリン。


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