見出し画像

潜在意識まで守ってくれるらしい夫

朝、10時14分。

右の窓からは学校が再開されていないままの子供たちが外で楽しそうに遊んでいる声。いつも3、4人で朝っぱらからボールで遊ぶ大変素晴らしい子たち。向かいのマンションに住むおねえさん(私)はもう少し寝ててくれと思う日があるよ。朝7時に起こされる日もあるのよ。
一方、左の引き戸の向こう(リビングダイニング)ではリモートワーク中の夫が音声を繋いで会社の人と談笑をしているらしく。

まだ起きて数秒、寝ぼけたままの私に、両方の声がじわじわとしみこんできて、ようやく目が覚めた。羽毛布団を足ではらって、横になったまま体を伸ばす。

通話を終えたらしい夫が、「あ、起きたの?」と寝室に顔をのぞかせた。「起きた。なんで起こしてくれなかったの」、むくれにむくれた顔のまま、体を起こしもせず言う私(できたためしはないけれど8時には起きていたいと願う派)に「だって7時間は寝てほしいからね」と睡眠時間うるさめおじさんが笑う。あなただって3時に眠ったのは一緒じゃないか、自分は5時間しか寝てないくせによく言えたもんだよ。

「あと、引き戸。なんで中途半端に閉めてるの。最近思ってたけど」。相変わらず起きる気がない私は、さっき押しのけた羽毛布団をかき集めながら(やっぱちょっと寒かった)、最近起きたときに微妙に閉まっている引き戸を指さす。寝室にしか窓がないから、いつもはリビングダイニングと寝室を仕切る引き戸は閉めないで、ひとつづきの部屋として使っているのに。それは眠るときだって一緒だったのに。

「カホが寝てるのに俺が電気つけて仕事するから、眩しいってならないように」

確かに、寝ていても向こうの明かりが私の顔に差し込まないちょうどの位置まで引き戸が閉じられている。神業かと思うくらいちょうどいい閉じ具合。
「いや、爆睡してるからそんなこと思わないって。思ったことないもん」
「潜在意識(無意識)では思ってるよ、眩しいって」
「潜在意識」

笑った。潜在意識のことまで言われたら否定はできないわ。だって潜んじゃってるから。私の知らないとこで潜みつつ存在している意識だから。

呆れるくらいにやさしい人だと、心から思う。
「俺はカホの潜在意識まで守るからね」。ちょっといいこと言えたふうな顔をして、すっと仕事に戻る夫。

潜在意識まで守ってくれるのか。ヤバいな。彼の背中にですら返す言葉が見つからず、降参した私は、のそのそと体を起こし、立ち上がる。

5年付き合っている彼と入籍したのは去年の11月。彼と一緒にいると、いつの間にか春のぬるい空気のなかにいるような安らぎがある。
「君を守る」と言ってくれる男性は結構いそうだけど、潜在意識まで守ってくれようとする夫はそうそういないのではないだろうか。ていうか潜在意識て。なにそれ笑うわ。よくわかんないけど完全に愛じゃん。

だから私も、彼の潜在意識まで愛して(守って)みようと思う。彼みたいにできる範囲で、ちょっとだけ。あなたもやってみてはいかが、誰かの潜在意識、守ってみては。今ある愛に気付くかもよ。私もなに言ってんのかよく分かってないけど

もしよろしければサポートをお願いします。頂いたサポートはライターの夢を叶える資金にします。