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豆乳に油が浮かんでいない理由

一般的に知られているように、大豆からは大豆油が採られるように、大豆には脂質が含まれている。成分量としてはタンパク質の次に多い成分で、外国で生産されている大豆の主な用途の一つが、この油を取り出すためである。

で、大豆から作られる豆乳や豆腐、湯葉などの食品にももちろん、油分が多く含まれているわけだが、豆乳の表面で大豆油そのものが浮いているところを見たことがある人はいないと思う。なぜだろう??
前回まではタンパク質の話をしたので、今日は脂質のお話を少し書いていこうと思う。

大豆中で、油はどんな状態で貯蔵されているのか?

大豆の油は、大豆の細胞中では、オイルボディと呼ばれる細胞の器官に保存されている。豆乳を作るときに大豆を砕くと、タンパク質と同様、このオイルボディも組織が壊れて、脂質が水の中に溶け出す。

大豆・豆乳中での脂質の状態とは

豆乳を触ったときに、手にぎっとり油が付くことはなく、水洗いでほとんどきれいに洗い流すことができる。これはなんでだろう??
実は豆乳中では、タンパク質の粒子と脂質の粒子(油滴球)が液体中に均一に分散しているのだが、この脂質の粒子の周りにはタンパク質がくっついている。正確には、脂質の表面に一層のリン脂質が存在し、その上から、タンパク質が釘のように差し込まれる形で結合している(Huang, 1992)。

なので、豆乳中では、脂質成分はタンパク質に覆われているため、大豆油に触れた時のようなギトギト感がないということになる。

貯蔵されている脂質の脂肪酸組成は?

少し話がそれるが、脂質といえば、気になるのが「脂肪酸組成」。よく、「○○酸」と言われている、脂肪の性質を決める酸の脂肪酸成分である。
気になる大豆油の脂肪酸組成は下記(Privett et al., 1973)。

 └パルミチン酸:10~12%
 └ステアリン酸:2~5%
 └オレイン酸:20~25%
 └リノール酸:50~57%
 └リノレン酸:5~9%

組成を見てわかる通り、大豆油の脂肪酸のうち、半分以上はリノール酸。これは不飽和脂肪酸(C=Cの二重結合がある)なので、酸素と結合しやすい、つまり酸化しやすい脂肪酸となっている。
普通に考えたら、大豆を1年も2年も貯蔵しておいたら、脂肪酸が酸化してかなり劣化してしまうと思うが、上で述べたように脂質はタンパク質に覆われているため、酸化に対して非常に安定しているというわけだ。
(もちろん、抽出した後の大豆油はめちゃくちゃ酸化しやすいので、酸化防止剤などで酸化しにくいように調整されているようだ)

まとめ

豆乳や豆腐には、100gあたり約2.0gの脂質が含まれているが、表面に油が浮いたりすることはない。
これは、豆乳中で油の粒子の周りにタンパク質が集まっていて、それが水の中で均一に分散しているからということがわかる。本当によくできているなあと思う。
(35週目終わり)

参考文献
Huang, A.H.C., Annu. Rev. Plant physiol. Plant Mol. Biol., 43, 177-200, 1992
Privett, O.S. et al., J. Am. Oil Chem. Soc., 50, 516-520, 1973


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