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「できない、嫌」はやらない。振り返ると彩りある道ができていた(江角悠子さんインタビュー)

自分の人生は案外、思いもしなかったものの積み重ねでできているのかもしれない。
でもそれは何かを選びとったというよりも、何かを選ばなかったことにあるのではないか。

自分はどうしたいのか、その本心に気づくことは簡単なようで実は容易なことではないと思います。
編集/ライターの江角悠子さんは、迷いながらもできることや、ちょっといいなと思ったことを、たくさん積み重ねてきました。

そんな中で見つけた「自分のことをもっと知りたい」という思い。
自分のことを知ると、生きることが楽になったという。

江角さんの”自分のことがわからないから、自分を知る旅に出る”生き方とは。

<Profile>
江角 悠子
島根出身。寺社仏閣、古いもの好きだったことから京都に憧れ京都の大学へ進学、現在も京都在住。出版社、広告代理店など4回の転職を経て、2006年からフリーライターとして活動。さまざまなwebメディアや人気雑誌の「anan」や「婦人画報」などで多数執筆。京都への造詣が深く、京都にまつわる連載も人気。これまでに1500人へのインタビュー経験あり。仲間との共著『京都、朝あるき』やブックライティングを担当した「亡くなった人と話しませんか」なども出版。大学で非常勤講師として編集技術を教え、またライターを育てる「京都ライター塾」を主宰。


ちょっとした「いいな」と「いやだ」を大切にする

-江角さんのキャリアは、書くことから派生して広がりがあってすてきです。
どんなことをされてきたのでしょうか。

江角さん:出版社、広告代理店など4回の転職を経て、2006年からフリーライターとして活動しています。さまざま様々なwebメディアや雑誌での執筆、本の出版、時に書くのではなく、ガイドという立場で声で魅力を伝えたり。また2018年から大学で非常勤講師として編集技術を教えたり、ライターを育てる「京都ライター塾」を主宰しています。このように幅広く書くことに携わっています。

-さまざまなことをされていてすごいです。とてもタフで行動力がある印象なのですが、目標を定めて行動するのが得意なのでしょうか。

江角さん:いいえ、全然得意ではありません。転職ばかりして1つの会社に長くとどまれない、ダメな人だと思っていました。大学を卒業した後は、事務職員として働いていたのですが、子どもの頃夢見た出版社への夢があきらめきれず、情報誌を作る出版社へ就職しました。
その出版社ではレイアウトを考えたり、挿絵を選んだり。原稿を書くのと同時に、デザインの仕事もしていたので、そのうちデザインも楽しいなと思うようになり、次はデザイナーとして広告代理店に転職をしました。
その頃はちょうど、出版社で1年半テープ起こしと記事作成をやって慣れてきたこともあって、新しい世界が見たくなったんだと思います。隣の芝生が青いみたいに、ちょっといいなって。

-ちょっといいなで行動に移せるラフさがいいですね。

江角さん:いいなという気持ちだけでは動けなかったように思います。嫌という感情があったから、動くことができたんだと思います。実は出版社が結構ハードワークでした。

-それは大変でしたね。ですがキャリアがどんどん繋がっていっている気がします。

江角さん:今になって振り返ってみると結果的に繋がっているなとは思いますが、当時は今の仕事に活かされるとは思ってもみなかったです。私は一体何がしたいんだろうと、ずっと悩んでいました。

ライターになってからも、おなじでした。縁あって大学の非常勤講師の依頼がありましたが、最初はその依頼を断ろうと思っていました。自分にできるとも思っていませんでしたし、私なんて……と思って恐れ多かったからです。

-でも実際依頼を受けたんですよね。依頼を受けたときどう感じましたか。

江角さん:最初は頂くお金で判断しようとしたんですけど、それで失敗や大変な思いもしてきたから、お金で判断するのはやめました。依頼を受けたとき、やりたい、でも怖い、そんな感じでした。やりたいという気持ちが少しでもあるのなら、それを優先してあげたいと思ったんです。

-怖い…という感情、分かる気がします。迷った時の判断はどうされていますか。

江角:そもそもできるかできないかだと思います。働いていた出版社が大阪だったのですが、仕事量も多くて大変で。京都から満員電車に乗って出勤することがしんどくなってしまい、最終的には電車に乗れなくなりました。だから転職をせざるをえないみたいな感じでした。できないことをいくら頑張ってもできないので、できないことはやらないようにしています。

カウンセリングに行ったきっかけは息子さんがほっぺたを触ったから

-江角さんが出版されたZINE「文章を書いて、生きていきたい」やメルマガなどで綴られる言葉から、とても自分と丁寧に向き合ってこられたのだなと感じているのですが、16年ぐらい前の当時もそうでしたか?

江角さん:自分と向き合うなんて、全然できていなかったです。就職活動をするときに自己分析をすると思うのですが、私はまったくしなかったんです。自分に向き合うことから逃げていたのかもしれません。だからその場その場で生きてきました。
自分と向き合えるようになったのはほんの3、4年前ぐらいからの40歳を過ぎてからです。

-今の江角さんからは想像がつかないです。自分と向き合うきっかけになったことはありますか。

江角さん:カウンセリングに行くようになったんです。そのきっかけは、息子がほっぺたを触るようになったからです。

-それはどういうことでしょうか。

江角さん:これは愛情表現だと思うのですが、息子が10歳になった時くらいに私のほっぺたを触るようになって、でも触られるとなんとも言いようのない怒りの感情が毎回湧いてきていました。でもなぜだかわからない、息子も可哀そうだし、自分だけでは手に負えない気がして。それでカウンセリングに行くようになったんです。

-カウンセリングに行くきっかけは息子さんだったんですね。

江角さん:カウンセリングの先生に、自分の子どもの頃のことをたくさん質問されました。今まで自分と対話したことがなかったので、いろいろと質問してもらって、なぜ自分はそう思ったのか、なぜそうしたのか、初めて向き合うことになりました。
質問されて初めて考えることも多く、私は全然自分のことを知らないということに気づいて。もっと自分のことを知りたいなと思いました。

自分のことを知りたいから質問し続ける

-質問されてもうまく答えが出なかったりすることはないのですか。

江角さん:本心から思っているのか、理性で考えているのか、全然わからないことは今でもあります。人のことならよく分かっても、自分自身のことが一番わからないと思っているので、自分のことをわかってあげたいなと、常に自分に質問をするようにしています。

-自分を気にかけてあげるだけでも違いそうですね。

江角さん:今までは「自分の声」を聴いてあげられていなかったから、聴くことを意識するだけでも変わったように思います。

-気持ちの変化があったことで、書くことにも変化はあったのでしょうか?

江角さん:書くことがすごく変わりました。自分を知ることで気づいたことが面白くて、それを伝えたいと思って、メルマガで発信するようになりました。また仕事のスタンスにおいても、気づいたことがあって。商業ライターとして第3者としての立ち位置で書くことが多かったけれども、誰かの言ったことを書くのではない、自分の奥底から湧き出てくるものが書きたくなったんです。

書くことは、生きること

江角さん:話すことが苦手だったので、自分の感情を外に出せなかったんです。だから子どもの頃から言えなかった気持ちをノートに書いて、消化していました。自分の思ったままを言うと、わがままだとか、怒られたりしていると、そのうち本音が出せなくなってしまうと思うんです。でも、だからといってそれを押し殺してしまうと、自分が辛くなってしまう。なので、日記を書いて自分の本音を吐き出していたんだと思います。
日記が唯一自分の気持ちを素直に出せる場所でした。
それができていなかったらここまで生きてこれなかったかもしれません。

書くことで、やっと呼吸ができるみたいな、そんな感覚がありました。
だから私にとって書くことは、生きることなんです。
ライターにならなくても書くことができるようになると、みんなもっと楽に生きられるようになるんじゃないかなと思っています。

-書いて、自分を少しでも知って、そんな風に生きられたらいいですよね。

江角さん:自分を知ることは癒されることだと思っています。
2021年にチャネリング講座を受けたんです。チャネリングというのは、私の捉えかたとしては、簡単にいうと自分の中の自分の声を聴き、繋がること。まずは自分のことを知りたいという気持ちから始めましたが、自分のことを知ると生きるのが楽になることに気づいてから、いろんな人にそれを体験してもらいたいと思って、他者のインナーチャイルド(自分の中にある内なる子ども、感情、魂)のメッセージを届けることも始めました。
メールでのやり取りや対面でのセッションなどやり方はさまざまですが、まずは相手の方からご自身のインナーチャイルドに聴きたいことを教えてもらい、そのメッセージを受け取って、相手の方にお伝えしています。
そうすると、勇気をもらったとか、パワーをもらったといった言葉をいただくんです。
自分の心のうちにあるメッセージを届けることで繋がり癒される、とても素敵なことだと思います。

親友に接するみたいに自分にも接する

-自分を知っていく中で何か気づくことはありましたか?

江角さん:起きていないことに対して不安に思っている自分がいることに気づきました。
まだ起きていないことを想像して不安になったり、そこから自分を攻めてしまったり。瞑想をやっているのですが、瞑想をするときは何も考えずに、ただひたすら1から10まで数字を数えて、また1に戻って10まで数えてを繰り返します。
でも、あの仕事どうしようかとか、仕事ができていなくて怒られたらどうしよう、こんなこと言ったら怒られるかな、みたいに雑念が入って20まで数えてしまったり。
まだ見ぬ未来の世界に対して自ら不安を生み出していたのですが、これって本当かなってふと立ち止まってみたんです。
それで実際にイメージした悪いことが本当に起こるかやってみたんです。

-どうなりましたか?

江角さん:全然怒られなかったです!笑
そこからはイメージした悪いことが本当に起こるのか、まずはやってみようと思って、実験みたいですよね。そうするともやもやが減っていったんです。
やったらどうなるか知りたいみたいな好奇心みたいなものも出てきたりして。

-これも江角さんらしいですね。まずやってみようって。
その他、自分を知る過程で難しいと感じることはありましたか?

江角さん:最初は自分を大事にすることと、わがままの違いを理解するのが難しかったです。ですが、自分を大事な親友みたいに接することを意識すると、その違いがわかるようになってきました。例えば、寝坊して遅刻してきた友達にだったら、たまに寝坊することもあるよねって優しく言葉をかけてあげられると思うんですけど、自分にだったら、ほらまた遅刻してだめだな、とか厳しく言ってしまうと思うんです。
親友に言わないことを自分にも言うのはやめようって思うと、自分の中で腑に落ちた気がしています。

-親友に接するみたいにってすごくいいですね!

江角さん:親友に接するようにとか、親友にできないことは自分にもしないというように、ちょっと捉え方を変えるだけで楽になることってありますね。


自分らしいがわからないからいろいろやってみる

-自分らしくあることは人生のメインテーマみたいなものだと思うのですが、江角さんはどのように捉えていますか?

江角さん:自分らしい、が全然わからないんですよね!笑

-江角さんでもですか!! 

江角さん:ありのままの自分でいたいと誰しもが思うと思うのですが、自分らしいの答えはまだ見つかっていません。最近も自分らしさがわからなくなったんです。

-どんな時にわからなくなったのですか?

江角さん:世間では順調にライターとして活躍している江角さんというイメージを持たれているけれども、実際はたくさん失敗してきたんですよね。果たして本当の私はどっちなんだろうって。

デザイナーやったけど違ったり、勇気を出して大学の非常勤講師の依頼を受けてみたり。
一方でできないことをわかることも大切だし、断ることも勇気がいるけど時には必要なことなんです。
やるからこそ見えてくるものがあると思っています。
だからありのままの私を知るために、いろいろやってきたし、まだ出会えていない私がいるかもしれないと思って、これからもいろいろやっていくんだと思います。

-すてきです!やっていくことで見えてくるということですね!

江角さん:自分を知ることで見えてくるものや、進むべき方向性が見えてくることもあるので、自分を知ることはやはり大切です。ですが、自分を知ることに対して難しく考えずに、まずはちょっとした自分の感覚に素直になってやってみる。やることで気づける自分がいると思います。それを続けてきたら自分でも思いもよらないところに道ができていました。
そんな人生楽しいなと思います!


取材・文:はしもとかほ

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