書きたいネタ3 サイコパス×サイコパス

〈主人公〉
 女は良心を持たずに生まれついた。後天的に『良心とは何か』『どういう行動を良心的と言うか』を知ることはできたが、自分が生きるために必要なものとは思えなかった。
 彼女にとって良心とは、『社会で普遍的に適応するために必要なもの』であった。ならば適応しなくて良いと思うのならば、それを使う必要はない。ただただ周りと揉めたり警察に目をつけられるのが億劫だからという理由で、今日も彼女は『良心道徳』の皮をかぶる。

 例えばしつこく売春を持ちかけられたら、“その気”じゃないときは断るのが当たり前だろう。それでも強引にされたら? 強引に誘われるのが面倒になってしまったら?
 彼女は殺す。なんの躊躇いもなく。邪魔なものは消してしまうに限る。彼女は焦らない。罪悪感を抱きはしない。命を奪うことに愉悦を感じはしないが、だからと言って苦しみもない。その辺の蚊を潰すのとなんら変わらない。だって道徳の皮は、誰にも見られてない限りはかぶる必要のないものだから。殺された本人はどうしたかって? 死人に口なんてないでしょう。

「あなたは自分に害を与えようとする害虫を潰すことに何かしらの感情を抱いたりなんかするの? 変なことを言うのね」

 ほら、今この辺りには丁度通り魔がいたはずだ。大体身長180cmの大男。だから突き刺すのは腰より少し上のあたりで正面から。ナイフも包丁も格安のものを適当に使い捨てている男で助かった。その辺りは情報収集も怠らない。万が一その男が捕まった時、ひとつぐらい否認している事件があったところで警察は信じない。そんな策略をを何も感じずに行う女である。
 まぁ、『面倒だ』ぐらいは感じているかもしなれいけれど。警察に捕まるのと比べれば、可愛いものだった。


〈敵対者〉
 あるところに一人の男がいる。自堕落な男だ。親の遺した金銭で生活し、働きもせずに『趣味』に打ち込んでいる。ゴミやら虫やらが家に溢れ、清潔に保たれているのは自室のみである。

 男は幼少から、『奪う』ことに興味があった。行列を作るアリからスミレのタネを奪ってみたり、メダカの稚魚についている栄養袋をちぎったり。花の茎から花弁を奪った。トカゲから尻尾を奪った。(最初は、子供なら誰でもするようなことをする)それは少しずつ大きくなった。クラスメイトの私物を無理やり奪ったり、こっそり盗んだり。学校や親に何度も叱られて、やめざるを得なくなってしまったけれど。

 また虫たちの持ち物を奪うというちっぽけな作業を繰り返しているうちに、男はふと気がついた。頭にかかっていたもやが晴れるかのように、唐突に悟った。命を奪うこと……すなわち殺すことも、また大いなる『奪う』行為に他ならないのだと。男は歓喜した。それは天からの掲示だった。
 最初はやはり虫だった。蚊を潰す。小蝿を潰す。今までなんてことないように行っていたことが、それが『奪う』行為だと知った瞬間に、とてつもない愉悦を与えるものに変わった。初めは虫だけに留めていた。小蝿から始まり、蜘蛛、幼虫、蝶、カブトムシと、限りなく範囲は広がっていく。次第に爬虫類や魚類を殺し始め、犬や猫に手を伸ばすまでそう時間はかからなかった。彼の家の庭には、多量の屍が土の下で眠ることになった。

 暫くしたある時、男の元へとある「悲劇」が降りかかる。まだまだ元気だった両親が、事故で死んでしまうのだ。決して勘違いするなかれ、男の悲劇は「親が死んだこと」ではない。男に最も深い絶望を与えたものは、親から『奪った』者が自分ではなかったことだ。男は自らに降りかかった悲劇を憂いだ。しかし同時に、人を殺せば周りからも『奪う』ことができることに気がついた。事故は己から両親を『奪った』のだ。男は大きな鎌を研ぐ。『ロンドン橋落ちた』を口ずさみながら、夜な夜なそれを振り回して。

「London bridge is broken down, broken down, broken down……」

 まぁ、落ちるのは首だけれど。


〈対立原因〉
 女にとって、巷を騒がせている「London bridge Man」なんてどうでも良い存在だった。テリトリーも違う、行動範囲も違う、贔屓にしてる情報屋も違う。そして快楽殺人者はクラッキングなんてしないのが一般的なのだから、主にしてる職種も全く違う。まさに他人、関係のないもの。無差別なのだから、目の前に行かない限り狙われることも一切ない。自分に関係さえしないのなら、快楽殺人者だろうが無差別猟奇殺人犯だろうがなんとも思わないのがこの女である。

 それが『関係ない存在』ではなくなってしまう情報が、情報屋からもたらされるまでは。

「最近噂の『London bridge Man』がいただろ? あれの素性を洗ったんだが、面白いことが分かってね」
「もう分かったの? さっすがマスター、仕事が早いねえ。誰からの依頼?」
「それは企業秘密に決まってるだろう。ひとつ忠告しておいてやる。あれを親類まで洗うと、子供時代のお前が浮かぶぞ」

 それは女にとってよろしくない話だった。警察は無能だが馬鹿ではない。ましてや行動が派手すぎるロンドンブリッジマンは、早急な逮捕のために政府直下の非公認組織が動き出す案件だろう。あれが動くときは僅かにでも関わりがあるものは際限なく洗われる。手段を選ばずに常に穿った目で素性を洗えば、突如姿をくらまして誘拐事件として処理された少女が生きていることを見つけるのも、不可能ではないだろう。よほど詳しく調べないと証拠なんて出やしないが、それをするのが奴らである。

「その男の情報、私も買う。いくら? ……助かるよ」

 かくして警察に追われていることも意に介さず快楽的猟奇殺人を続ける男と、捜査線のすれすれを掠めながら男を素性を明かせないように消してしまおうとする女、どんなな手段を使ってでも男を捕らえようとする政府直属非公認組織の三つ巴が始まる。そんな話が書きたい。まともな人間はいやしない。


 書き終わってから気づいたけど、女は「人を殺すことも害虫を潰すのと同じようにしか感じない」性格で、男は「虫を殺すことにすら愉悦を感じる」性格。結構対極的に出来上がったなって思う。お互い自分本意なことはそっくりなのに、ここまで感性はちがう。女から見れば男の感覚は異常で、男から見ればやっぱり女の感覚も異常で。でも一般的感覚を持って現代社会に違和感を抱かず普遍的に適合できている多数派の人間から見れば、どちらも同じぐらい得体が知れなくて異常でおぞましい排除されるべき存在。こういうの好き。


 非公認組織側の正義漢と女に翻弄される一般人の視点をそれぞれ入れることで、女の行動が際立つかも知れない。

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