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らるごの旅 湧水町 編む人編

むしむしする生暖かい空気が身体をすっぽり包み込み、玄関ドアを一歩でただけでギラギラ太陽の一撃にさらされるような6月の最終日。
それでも車で1時間弱の鹿児島県湧水町に出かけたのは、以前から一度作品を見たいと思っていた、「編む人」に会いたかったからだ。

美術作家 平川渚さん。
平川さんは様々な土地に滞在し、場所から読み取った素材をもとに、主に糸をかぎ針で編んで固有の空間にかたちを立ち上げるインスタレーション作品を制作している。

2021年のプロジェクト「手編みの物語をあつめる」プロジェクトは、新作の材料となる「手編みのあみもの」と「それにまつわるエピソード」を湧水町の人々から集め、それをほどいて毛糸に戻し、さらにひとつの大きな作品へと編み直すものだったそうだ。

今年の12月に霧島アートの森で開催する個展で発表する作品制作のため、ほどいた糸を使っての平川さんの作品制作が、現在、湧水町栗野図書館で行われていると今朝目覚めてすぐに知り、急遽予定を変更。車窓に広がる緑の田んぼや遠くの山なみを眺めながら、彼女が集めた物語に思いをはせながら、のんびり車を走らせる。

図書館の奥の部屋をたずねると、クルリとした澄んだ目の女性が何やら編んでいる。軽くあいさつして展示のパネルを見ていると、気さくに話しかけてくださる。

くりの図書館で制作中の平川さん

赤、青、緑、きれいな模様が編んであるもの、かわいい恐竜が編まれているもの。デザインもサイズも実に様々なものが集められていた。
「どれもきれい!素敵ですね。」

一つ一つの編み物の写真には、これまた一つ一つ味わい深いエピソードを綴った紙がはられていた。
小さなお子さんに編んだもの。
お孫さんに編んだもの。
付き合っていた彼(現在の夫)に編んでいたけど、未完成のまま何十年もタンスの中に眠っていたもの。
昔付き合っていた彼女からのクリスマスプレゼント。

くりの図書館にて  集まった編み物とそのエピソード、その前にはほどかれた毛糸玉

平川さんは涼しい夏の朝の湖面みたいな表情で、こう語る。
「集まったみなさん、まだ椅子に座らないうちから、このセーターにはこんな思い出があってね。と、どの方も溢れるようにお話しされるんですよ。」

そうして集まった作品を、平川さんが美しいかぎ針で編んだもので繋いだ立体の作品の写真があった。
一つ一つの編まれた時が、大きな時間の木になって、目の前に立っているような、そんな感覚を覚えた。

そのプロジェクトでは、寄贈された編み物をほどくワークショップも開かれた。小さな子供さんの参加もあったそうだ。
みんなが心をこめて編んだものを、また別の人がほどいていき、それを平川さんが新しい作品へと編んでいく。

人の手で編まれたもの。
それにまつわる物語。
それをほどいて、
また編んで、
新しい作品、そして物語をつくる。

「県内を小さな車でまわって、人の話を聴く活動を始めるところなんです。」と私が伝えると
「それは、おもしろそうですね。あ、文章にまとめるとか、よさそうですね。」と何度も言われて、なんだか応援されているようで嬉しかったです。

平川さん、素敵な活動をひもとく時間を、どうもありがとうございました。

12月の霧島アートの森でひらかれる個展で、どんな時間たちに出会えるのか、まだまだ暑い夏の今から、わくわくしている私です。



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