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大金持ちの学校ならこのまま使えるのでしょう…「学校図書館図書廃棄規準」

 全国学校図書館協議会が作成した「学校図書館メディア基準」という学校図書館蔵書冊数の目安があります。

 これも「廃棄規準」のように一人歩きするらしく、基準冊数に達しないから古い本を捨てさせてもらえないという司書の嘆きを聞いたものです。最近は「廃棄規準」が有名になったおかげで(?)本を捨てやすくなったようですが、この基準は今でも現役です。

 学級数に応じて蔵書の最低基準冊数が提示されています。
「蔵書の最低基準冊数」の計算式は、学級数に応じて変わります。

最低基準の学級数 1~6級の場合
小学校 15000冊   中学校 20000冊  高等学校 30000冊

 これ以上の学級数の最低基準冊数は「+700✕学級数を超えた数」など計算式が変わり、もっと冊数が増えます。

「学校図書館メディア基準」より

 最低基準の学級数、小学校なら1学年1クラス以下、中学校で1学年2クラス以下…私の勤務高校は学級数はもっとありますが、予算が少ないので最低基準すら既に無理…。

 これにプラスして巷で噂の「学校図書館図書廃棄規準」。

 さて、どれだけ予算があったら、この両者を満たすのか。
 毎年の年間予算が数百万円あれば何とかなるのか?どんな大金持ちの図書館?司書も複数いるんでしょうね?と理想と現実の間で嘆く日々です。  


 もちろん2つの基準は目安として大事です。特に予算獲得する際の説明資料等に最適です。

 でもこれらに振り回されると「古い本ばかりで魅力半減の図書館」になるか、逆に「10年以上前に受け入れた本を捨てたら本棚がスカスカになった」という新聞記事のような、本末転倒なことになるわけです。(極端…)

 司書がいたらここで本領発揮なのですが、残念なことに司書がいない学校もあるとか。

 ではとりあえず「規準に明記されていない本」のどれを図書館に取っておけばいいのか?
 

 以下は、私の経験を踏まえた独断と偏見です。しかも予算のない(古い本を買い替えるくらいなら別の新しい本を買う)学校バージョンかもしれません。


◯今人気のある本やよく使われる本は、捨てない。

 特に以下はボロボロでない限り、小学校〜高校まで当てはまります。
 司書なら当たり前のことと思っていたのですが、例の新聞記事では人気の本すら捨てようとしていたとあり、びっくりしました(児童が気を利かせて戻した➡ひと安心)。

①小説・読み物・絵本

 児童文学には普遍的なものがあります。
『モモ』(エンデ)は1976年刊行、『ハリー・ポッター1巻 賢者の石』は1997年発売です。
 どちらも様々な形で再販されていますが、利用状況が買い替えるほどでないならそのままで充分だと思います。

 逆に言うと気軽に捨てられないのが小説・読み物かもしれません。いつ誰が「あの時読んだ本をもう一度読みたい」などと言ってくるかわかりませんので。

 絵本も長く読み継がれているものが多いです。『ぼくを探しに』『あらしのよるに』『ミッケ』『ウォーリーを探せ』…古くから愛されている絵本たちはいまだに現役です。

②図鑑

 雲の形とか昆虫、建物など。同じものを扱っていても出版社によって内容は少しずつ違うので、新しいバージョンが無いならあまり捨てません。

③平和学習関係

 昔の本になるほど、経験者の肉声があふれる内容のことも。『ちいちゃんのかげおくり』は今でも教科書に載っているようです。
 もちろん、新しい本の方がキレイで手に取りやすいかもしれませんが。

④哲学、宗教、数学、園芸、芸術(絵画・書道・クラシック音楽)など、大きく内容が変わらないもの


 こんなところでしょうか。



 以下は高校バージョン。

◯生徒の読書・学習レベルに合わせて、どの本を捨てるか(もちろんどの本を買うかも)は変わってきます。

 特定の科目を重点的に学ぶ専攻科がある学校なら、古い内容でも「その分野の歴史」として扱うかもしれません。

 だから一概に「これを捨てれば」という方程式は、私にはありません。ただ、今も流通していて利用頻度が少ない本は、古くても買い替えずに保管します。

 なお、世界史や日本史の暗記対象になるような著名人が書いた本は利用される可能性があるので、どの学校でも私は捨てないようにしています。またゲームの元ネタによく使われる「神話」や『聖書』などは生徒が手に取るので、このジャンルは切らしません。

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◯日焼けで本を劣化させないのも大事

 図書館で悩ましいのが本の日焼けです。
 特に背表紙と、本の上部分の「天」と呼ばれるところは目立ちます。

 本は紫外線に弱く、背表紙の赤い文字は消え、紙も茶色く変色します。紫外線対策をしない図書館の本は古びて見えます。

 ーーー日焼けしたら買い換えればいい?
 残念ながらそんなお金持ちの学校ばかりではありません。
 そして本によっては絶版ですぐ手に入らなくなります。
   

 
 さて、同じ出版社の本でも劣化具合が違います。古い本がすべて日焼けするわけではありません。

 例えば岩波新書は古い順から「赤版、青版、黄版、新赤版」ですが、黄版のとある本は新赤版より古いのに紙質が良いのか、天も中身も未だに白いままです。
 その黄版でも経年劣化したものも当然あり、様々です。


 以前、司書の先輩から「岩波新書はその界のベテランが書いているものが多いから、なるべく捨てないように」と教わりました。青版には湯川秀樹、高浜虚子、井伏鱒二など著名人が書いたものがあります。

 青版なのに今も流通に乗っている本もあります。宮崎駿さんが以前おすすめしていたからと『栽培植物と農耕の起源』(1966年発行)を探しに来た生徒がいました。こちらは2024年現在、電子版で販売されているようです。
 

 今では岩波新書もある程度年月が経ったら内容によって除籍対象です。
 でも黄版で内容が古く、流通もしていないけれど、紙が白くてきれいなものは捨てるのに心が痛みます。
 きっと「この本が長く読み継がれるように」と祈りをこめて出版社が良い紙を使ったのではないか、そんな風に思ってしまうのです。

 


 そうかと思うと、同じ棚にあっても「これ新しいはずなのに?」と思う、数年で紙が日焼けする本を販売する出版社もあります(どことは書きませんが、またここか〜とよく思います。数十年経ったそこの本は紅茶で煮染めたようです)。

 一般的に中性紙は長持ち、酸性紙は劣化しやすいと聞きますので、この出版社は本はすぐリサイクルするもの、という認識なのかもしれません。

 10年経たずに天(上の部分)が日焼けした本が棚にあると全体が古びて見えます。その隣にある本の天が白々としているのが30年前の本だったりすると、さて、これはどちらを書庫にしまうべきなのか?と考えてしまうことすらあります。

 どの本を捨てるか、私は1冊ずつ確認しながら行います。捨てるつもりだったのにそのジャンルの本がそれしかなく、古いことを伝えた上で探しに来た人に貸したこともあります(新しい本が出版されていないとか高くて買えないとか様々な理由があり、その本を捨てるのをいったんやめました)。

 除籍も司書の腕の見せ所です。後から「あの本必要だったのに」と思われないように、悩みながら行っています。