「AI化と”トンネル・デザイン”」
「AI化と”トンネル・デザイン”」
AI化の進展がめざましい時代になりつつありますが、ふと、今から20年前に発刊された「なぜITは社会を変えないのか」という本の記述を思い出しました。
◆「トンネル・デザイン」
この本では、ITが万能薬であるかのような当時の風潮に対し、過度のIT化を「トンネル・デザイン」として警鐘を鳴らしています。
「トンネル・デザイン」とは、出発点からトンネルを掘って、最短距離で目標地に進むことを重視するあまり、その過程において何も学べない上に、変化に対応できなくなってしまう現象を例えたものです。
すなわち、情報への一点集中により、その周辺に無数に存在する漠然としたもの、つまり、置かれた状況、背景、歴史、共通の認識、社会的資源など、ひとつ残らず置き去りにしてしまう危険性があるということです。
確かに、インターネットが日常生活にまで浸透してきて、何か分からないことがあっても、簡単にGoogle等で調べることができる非常に便利な世の中になってきました。
特に、2022年からの生成AIの進展により、文章や画像、音楽も、プロンプト一つで生成することできるようになり、個人としてのアイデンティティも危うくされつつあります。
◆「便利さの裏で失われた大切なもの」
昔は、分からないことがあると、百科事典を調べまくったり、図書館や本屋を巡ったりして、また、文章を書く時も、辞書をひきまくって、適切な語句を探したり、非常に苦労しました。
でも、振り返ってみると、そのように苦労して得た知識というのは、その周辺情報も含め、幅広い理解を得られたように思いますし、その記憶は、脳にしっかり定着したように思います。
トンネルと言えば、信州の上高地に、安房峠という峠があります。
以前はヘアピンカーブ続きの幅狭い道を、何台もの観光バスが通り、非常に運転しにくいところでしたが、先日行ったら、トンネルができており、安全快適に峠を越えられるようになっていました。
このトンネルのおかげで、移動時間は大幅に短縮され、事故も減っただろうと思いますが、ヘアピンカーブを曲がるたびに垣間見られた穂高の秀麗さや、木々の緑、季節の花を愛でる心等、失われたものも多いように思いました。
一瞬で「解答」に辿り着けることの「便利さ」と「危うさ」。
それらを認識して、文明の利器を活用しつつも、知らず知らずに「トンネル・デザイン」に陥っていないか、見直していきたいものです。
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