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【雑感想】ジャンヌ・デュ・バリー、キャストアウェイ、ベンジャミン・バトン、ブラックアダム、十二人の怒れる男


ジャンヌ・デュ・バリー 国王最期の愛人

 フランス国王ルイ15世の愛人、ジャンヌ・デュ・バリー。彼女が如何にして教養ある娼婦となり王の愛人として見初められ、どのような宮廷の日々を過ごしたのか。国王最期の愛人の話であり、後に革命によって没落、あるいは処刑される王侯貴族たちの最期の華やかな時代。

 観たのはもうひと月前なのだが感想を書きそびれていたので今更書く。観る前はもっと愛人という立場を利用して華やかに奔放に振る舞う女性の話なのかなー、面白いのかなぁーとなんとなく思っていた。ただとりあえずセットに金がかかってそうだったのでそこだけでも観る価値がありそうと思って観に行ったのだが、もちろんそういう奔放な面もないわけではないし宮廷からすると破天荒な主張や服装をしていた人物のようだが、それらを起こす土台がしっかりと説明され、歴史的なバックボーンを感じる骨太な映画だった。面白かった。ナポレオンとセットにして観るとよりオススメである。どちらが先でもいい。
 私はちょうどナポレオンを少し前に観ていたのもあって、こいつらがナポレオンの冒頭で処刑されるんやなぁ……と少し儚さを感じていたのもあったり、こんな宮廷独自のルールだけに躍起になってたらそら民衆から反感くらいますわなぁと思ったりで私の中で付加価値があったことは否めないが、それを抜きにしても宮廷の華やかさと陰湿さ。貴族の流儀を大切にする精神とその滑稽さ。民衆から憎悪を浴びた彼ら彼女らがどのように生きて何を考えていたのであろうという生活の情景が非常に興味深く大変良かった。それらを平民上がりであるジャンヌ越しに見ることで現代から見ても共感できる目線が作られており物語の作りとして上手い。それでも彼女自身もまた「もはや平民にあらず」と処刑されてしまうのが歴史ではあるのだが。

キャストアウェイ

 運送会社に勤める主人公、忙しい日々を送りながらも愛する女性と婚約を誓い幸せな人生を歩んでいた。しかし乗っていた飛行機が墜落してしまい一人無人島に漂着する。共に流れ着いた荷物に助けられ、バレーボールを友人に見立て、絶望に抗いながら4年の月日を生き延びる。ある日、トタン壁が流れ着いたことで、これを帆にして船を作れば、4年の間で調べた遠くに見える船の航行ルートまで辿り着けるかもしれない。婚約者と再会する希望を胸に大海へと乗り出すのであった。

 最後が切なすぎて辛い。いやまぁそりゃ攻められませんけど……。でも実際子供もそこそこ成長してたからわりと早めではある。行方不明になって1年くらいかな?まぁそれでも攻めるのは違うよなぁ。主人公はちゃんと振り切ったわけだし。ラストは冒頭でわざわざ振ったくらいだし、工場の女性と知り合うってことになるのか、あえてご都合主義にはならないってのが人生だと示したのか、どちらで捉えても面白いだろう。
 実際この映画の魅力は無人島生活部分ではあると思う。ヤシの木の音に怯え、火を起こし、スケートシューズで斧を作り、バレーボールのウィルソンと真剣に喧嘩するトム・ハンクスは最高だった。人は社会性動物であるから会話なしで一人生きるのは中々に辛いものがある。もちろん孤独への適性が極端に高い人もいるだろうけどね。
 普通の人生がある、事件があり元の生活とは離れた生活を長時間経て、元の生活に戻ると変わり果てた現実が待っている。これだけ見ると浦島太郎的な雰囲気がある。SFとしてもよくある展開だ。面白く、劇的であり優れた展開だと思うが、そこに込められるメッセージ性は多様である。良い映画だった。

ベンジャミンバトン

 生まれた赤子はまるで老人のようだった。実の親からは捨てられ、老人ホームの黒人看護師に拾われた彼は、幸い周囲が老人だらけなおかげでギャップに苦しめられることは無く生きていく。しかし物心がつき始めくると、老人ホームの周囲や訪問する子供たちと自分の違いに疑問が生じ始め、そして成長するごとに体が若返っていくのを実感する。普通の人とはまったく違う人生を歩む彼の人生はいかなる道程と結末を見せるのか。

 老人として生まれて若返っていくという設定だけ有名な印象があって、それ以外の機微をまったく知らず観たことがなかったのでちょうどネトフリで公開が終りそうだったのでちゃんと観てみた。全然設定一本じゃなくて面白かった。
 特に好きだったのは漁船が戦争に駆り出され、死の間際に船長が言った台詞である。
      "はらわたが煮えくり返る"
      "運命の女神を呪いたい"
      "だが お迎えが来たら――"
      "行くしかない"
良い。お迎えが来たら行くしかない。人は生きているならばいずれ死ぬ。死に選択肢などないのだ。死から遠ざかるように生きる主人公でさえそれはいずれ平等に訪れるのだ。それを早々に主人公に提示したシーンである。
 実の父親と和解し、一緒に朝日を観に行くシーンとその後の葬式で僕の母親は貴方だけだと言うシーンも良かった。普通に設定抜きにして良いシーンが多かったし、なおかつ恋人とのすれ違いとやり取りは設定を抜きにしては語れないように作られており、大変うまい。それぞれに意味がある。
 というか最初から日記帳という形で物語が進行するのも、そういう映画だったんだね!?と驚いた。たしかに突飛な設定の人物を描くときに、その人物そのものの視点を描くより個々のエピソードとして描く方が物語として染みこみやすい。語らずに済むシーンが圧倒的に増える。とても面白い。
 おばあちゃんが最初すごい後悔してる風だったので、辛い展開が続いたら辛いなぁ……と思って観ていたが思いのほか(もちろん人生が重なり合う時間の少なさに大いに悲哀を感じたが)あの世というものがあれば笑顔で再会できそうな内容だったので、少し安心した。二人が信じた永遠はきっとあの時そこにあったのだろう。

ブラックアダム

 かつて支配された街があった。略奪され圧政を敷かれた国で、一人の英雄が魔術師により授かった力を使い街を救った。そして現代、その国は再び支配を受けていた。貴重な資源が算出するその地域はギャングにとって格好の資金源だった。国を救うにはコストが見合わぬ世界もまた見て見ぬフリを続けた。それに抗う一人の母親により英雄は復活した。彼の名はテス・アダム。かつてこの国を救った英雄とされる人物だ。敵ならば殺せ、徹底的に追い詰めて、叩き潰せ。その英雄の圧倒的な力は世界が看過することはできず、やがて彼を封印するためにヒーローチームを派遣するのだった。

 なんか金のかかったスカっとするアクションが観てぇなぁ!と思って観たのだが、マジで期待通りで面白かった。DCは正直バットマン系列とシャザム以外はほとんど観たことなかったのだが、他のも観てみようと思わされた。最初にブラックアダムが登場してヘリから戦車から歩兵部隊から壊滅させるシーンはバックでかかるインド音楽(?)がノリノリでちょっとこういう合わせ方は初めてで爆笑したし、やってくるヒーローチームはかませっぽい雰囲気かと思ったら4人ともちゃんと格好良くて(一人はボケ役ではあるが良い奴)良いなぁ~~~!!!となりっぱなしだったし(ドクターまじ好き)、実はテス・アダムが昔話で語られる英雄本人ではなかったという仕掛けも、王冠に刻まれた言葉の意味が逆であり、敵はアダムの手により殺されるのが目的だったってのことで復活を果たすのも、未来予知をああいう形で裏切ってくれるのも、ひとつひとつはわかりやすい仕掛けなんだけど丁寧で必要な場所に必要なものがあり、めちゃくちゃ良いじゃんってなってた。普通にオススメ作品です。シャザムとの繋がりが気になるけど、これはどこか違う作品で観れるのかな。魔術師関連ってDCのあるある設定なのかな?あまり詳しくない。そんで最後にテス・アダムって名前は古臭いからのタイトルコールが冒頭からやってた少年との会話でしっかりオチつけててお約束展開盛りだくさんでありながら全然新作感を感じる良い映画だった。評判の良いワンダーウーマンとかアクアマンとかフラッシュとかも観ようと思う。

十二人の怒れる男

 スラム育ちの黒人の少年が父親殺しとして疑いをかけられた裁判の、陪審員として集められた十二人の男達。有罪か無罪か、全員の意見が一致すれば判決は確定する。検察は証拠を並べ立て、弁護人は何も反論しようとしない。有罪で決まるかと思われていたが、最後に陪審員達が集められた部屋で決をとると、一人だけが少年の無罪を主張するのであった。

 めーーっちゃくちゃ面白かった。今ちょうどアマプラで観れるようになったからなのかXで色んな人がオススメ作品に挙げていたので、ほんなら観てみるかと観た。本当に面白かった。私は字幕派ではあるのだがアマプラ会員向けが吹替しかなかったので吹替で観たのだが声優陣もベテラン揃いで非常に良かった。なんか部分的に英語になっている箇所はあったのだが、逆にそのおかげで、私が気になってた元の俳優の声が少し聞けたので字幕好きの心も満たされた笑
 ほとんど一つの部屋のなかで、十二人の男達による話し合いのみという映画なのだが、もう山あり谷ありで1時間半ずっとダレる箇所がなく、おじいちゃんの次に無罪に転じる人が出たシーン、ついに眼鏡が転じるシーン、最後の号泣、と会話劇のみでこんなにハラハラさせられるってそりゃもちろん世の中にはあるにはあるだろうけどこんな作品もあるんだな!と目から鱗が落ちるような気分だった。
 というか会議というものを経験したことがある人は登場人物たちに共感の嵐が凄かったと思う。わかる、感情論でお前の方がおかしいと言ってくる人の面倒さ、まじでわかる。孤高の勇気を称えられ、論理の提示で味方を増やし、偏見がやり込められる痛快さも良いし、頑なに思えた眼鏡が徹底して納得できるだけの材料を探し一番議論を正しく行っていた人だってことがわかるのも良い、会議への理想と、あるあると、あぁ私も偏見を持ち感情を振りかざしてしまっていたと気づかされるあの感じ。気持ち良さが詰まっている。
 あと最近観た落下の解剖学で人類の普遍的な物語として愛や友情と同じくらい罪というものもあるよなと思っていたところだったので、その題材として言い方は悪いがストレートに面白さが伝わる良い作品だった。人一人の人生を、裁判の結果を鵜呑みにして何の議論もなく奪っていいのかという葛藤。まず話し合いましょうという提示。答えを出すことが目的であり、話し合うことが目的としてしまうならば手段と目的が入れ替わっているように思えるが、時には話し合うことそのものこそが、参加者の意識と後年への記録として大事なこともある。世の中は0と1だけではない。10人が1と言っても、何故1と言っているのかも違う。1957年の作品でありながら現代に通じる多様性を感じる作品であった。素晴らしい、普遍の面白さである。

観たいものも読みたいものも尽きないのでサポートいただければとても助かります。