見出し画像

李方子作の井戸茶碗に陶淵明の詩から銘を付けた……お茶室のみんなが幸せになった

 前回の茶道のお稽古の時、
「私、李方子の井戸茶碗を持ってます」
 と迂闊にも先生に話してしまった。すると先生はすかさず、
「教室に持ってらっしゃい。私が真贋を確かめてあげるわ。それに、ご自分のM Yお茶碗でお稽古をすると、上達が早いのよ」
 と諭された。
 そこで本日のお稽古に、李方子の井戸茶碗を教室に持ち込んだ。
 まず、講師の方が、新しいお茶碗のおろし方を教えてくれた。そして、お点前の準備をするのだが、
「新しいお茶碗は、まず薄茶からの方がいいでしょう」
 という先生のアドバイスで、初めてのMYお茶碗では、薄茶のお点前をすることになった。
 一服目のお茶をお客が飲んで、新しいお茶碗なので、そこでお客がお茶碗の拝見を行なった。先生がお客役の姉弟子に、
「ご亭主に、お茶碗について質問してあげて!」
「作は?」
「最後の李王朝の御妃で日本の皇室から嫁がれた李方子様の作でございます」
「素晴らしいお茶碗をありがとうございます」
 と、それでお客の質問が終わってしまいそうなので私が、
「すみませんが、銘を聞いてくれませんか?」
 と、お客に催促した。すると先生が、
「李方子さんが付けられた銘があるの?」
 とういう先生の質問をスルーして。
「銘は、東籬(とうり)のもと、にございます。意味は中国の文人、陶淵明の、飲酒、という詩の後編、
 菊を采る東籬の下(もと) 悠然として南山を見る
 から取りました、東籬のもと、にございます。意味は、東籬の向こうには泰山があります。そのことを踏まえて、東籬は権力を意味しています。その下(もと)ということですので、すでに権力の座から退いていることを、暗に意味しているという銘でございます。まさに、李方子様の境遇を表した銘だと思います」
 と私が説明した。すると先生は再び、
「その御銘は、李さんがお付けになられたのですか?」
 と即座に聞かれた。私は答えた。
「いいえ。私が一週間かけて考えたご銘にございます」
「うーん、言い得て妙。素晴らしい」
 そして、お客は、ほとんどお稽古ではあり得ないのだが、薄茶のお代わりをした。そして次の問答のシーンへと場面は移った。お客が問答を始めた。
 柳の蒔絵の棗の質問を終えて、お茶杓の質問に移った。
「お茶杓の作は?」
「鵬雲斎大宗匠にございます」
「御銘などございましたら」
「中国の杜甫の詩、
江碧(こうみどり)にして 鳥ますます白く
山青くして 花燃(も)えんと欲す
 から取りました、江碧山青(こうへきさんせい)、にございます。五月の川は周辺の緑を写し、山は青々とそびえている、という雰囲気でございます」
 するとお客は、
「お棗の蒔絵は、緑の柳。まさにお茶杓とぴったりの取り合わせでございますね」
 さらに先生が続けて。
「カゲロウさん、お道具の組み合わせ、よく考えられましたね。いいですよ」
「エヘッ、ハッ、はい!」
「エヘッ、ですか。そうでしょう、やっぱり」
「いいえ、私が考えて組み合わせたものでございます」
 すると、そのやりとりを見ていた周囲の生徒たちも、一斉に爆笑となってしまった。先生も一緒になって、おお笑いしていた。
 こうして李方子様の井戸茶碗は、茶道教室のお茶室のみな様に暖かく迎え入れられたのでした。
 李方子さん、あなたのお茶碗の力で、私はみんなと幸せなお時間を過ごさせていただきました。ありがとうございます……。
(※ 上記の写真は、私が落札した時のYahooの写真です)


創作活動が円滑になるように、取材費をサポートしていただければ、幸いです。