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ネタとオチと感動のさざ波の中で、夢見心地の日々

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友人たちの、ただ生きて行く様が、それだけで、私に生きる喜びと感動を与えてくれていることに気づいてもらうための、ショート&ショート。
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記事一覧

帚木(ははきぎ)の帖、光源氏と男友達三人の女性体験談より

 帝の妹君腹の頭中将(とうのちゅうじょう)とは従兄弟同士で、特に仲が良かった。彼も光源氏に負けず劣らず美男子である。光源氏が正妻の葵の上の元にあまり帰らないのと同じように、頭中将も正妻のいる右大臣の邸宅にはあまり帰りたがらない。そんな二人が時間を持て余して、いずれからともなく話し始めた。 「これはと思える女で欠点のない女なんていないものだ、と最近わかりました」  と、目の前の光源氏宛のいくつもの手紙を眺めながら頭中将は語り始めた。いつしか二人の間で女性談義が始まっていた。  

源氏物語の箒木(ははきぎ)の帖、女性品評会のこと……

 光源氏と頭中将の仲のいい二人が女性談義をしていたところへ、左馬頭と藤式部丞が仲間に加わった。 「成り上がりの家の女性は、元から高貴な家柄ではないので、世間の人も違った目で見るものです。また、元は高貴な家でも世を渡る手段が少なく、時勢に流され世間の評判も落ち、気位が高くとも、経済力が足りず、都合の悪いことも出てくるもので、どちらも中流とすべきでしょう。受領と言って地方の国主の中に、他人の国を治めながらも、中流の地位を占め、その中にもさらに段階があり、その中からそこそこの者が出

イブの銀座は幸せな顔が、花盛り

 待ち合わせの時間に遅れることなく、娘夫婦はやって来た。食事は寿司屋を予定していたが、予約しなくても30分ほどで席に案内されるだろうと考えていたのが甘かった。店の従業員には、案内するのに1時間ほどかかると言われた。仕方なく、当初予定していた寿司屋をあきらめ、他を当ることにした。しかし、流石にクリスマスイブの夜。どこの店の前にも、順番待ちの列ができている。仕方なく、並ばなくてもすぐに案内してくれそうな店を見つけて入った。メニューをみて驚いた。想定していた金額の3分の2で収まる額

ある女性とのマッチングの後の私の返信

返信、ありがとうございます。小説がお好きだとの事ですが。私の仕事はマスコミでカメラマンや記者、それに役員を黒塗りの車で送り迎えする事です。その中の文芸担当の女性記者に、私が書いている小説について、 「その小説には女性は登場しますか?」 と聞かれたことがあります。その時、「ハッ」としました。そういえば「恋バナ」がない、と。それで急遽、安土桃山時代にあった京の都の廓の、綺麗な「太夫」を登場させ、小説に彩りを添えたことがあります。 周囲の人の何気無い一言が私の創作を大きく飛躍させて

「典論」の一文に、狼狽える

「文章は経国の大業にして、不朽の盛事なり」(典論)  という文章に出くわしてしまった。 「出会った」と言うよりも、やはり「出くわしてしまった」の方が、この一文により困惑している気持ちが表されていて、しっくりと来る。  この「典論」(てんろん)という文学論は、かの三国志の偉大な武将である曹操の息子であり、魏の初代皇帝である文帝こと曹丕が、書き残した文学論である。  最初に挙げた一文の意味は、いたって素直である。読んで字の如し。 「文章は国にとって重要な事業であり、永久に朽ちるこ

売れない小説家の先で、待ちかまえている景色

 夜の数寄屋橋交差点近く。  ジーンズにトレンチコートを着て店の表まで人が溢れて並んでいる寿司屋の前に、私は立った。自動ドアは開かない。ドア枠の手元の高さにある縦長の四角いボタンを押してみたが、開かない。ドアの向こうにいた30歳前後の小綺麗な身なりをした中国人男性が、笑顔でドアを手で開けてくれた。私もそれに合わせて、ドアに手を添えて開けた。  ドアの内側に立つと中国人男性は笑顔を向けて来たので私は、 「Sorry」  と無表情で一言添えて中国人男性に礼を言い、リサの待つ方へと

世界の二大知性が戦争について、書簡を交わした事実

 第二次世界大戦前夜のこと。国際連盟の依頼を受けたアルバート・アインシュタインが、ジグムント・フロイトへ書簡を送った。  一九三一年七月三〇日 ポツダム近郊の町から、書簡が送られた。  フロイト様  あなたに手紙を差し上げ、現代の文明の大切な問題について議論できることを大変嬉しく思います。国際連盟(パリの知的協力国際委員会)から提案があり、誰でも好きな方を選び、今の文明で最も大切な問いと思える事柄について意見を交換できることになりました。このようなまたとない機会に恵まれ、嬉

ディスコもクラブも同義語。どちらも楽しい!

 三連休のなか日、悪友に誘われて銀座のディスコのシニアのイベントに行って来た。入場料は男性2000円、女性1000円。非常にリーズナブルな金額。しかし、ディスコのHPには、男性一人の入場はできないともあったので私は、差し障りのない女性の友達を誘って参加した。午後7時の開場早々、フロアーはいっぱいになった。音楽は80年代、90年代の曲がメインである。  私はバブル全盛期の芝浦の「ジュリアナ東京」を生で体験した世代である。ボディーコンシャスのワンピースに身を包み、お立ち台で扇子を

恋は「ゆっくりやるんだね」と言われたが…

「しばらくはイジらないで、そっとしとくんだな」  と同僚に言われたが、一瞬、何の話をしているのかと思った。すぐに今朝の私の行動に対する同僚からのアドバイスだと気付いた。  となると今朝、私がとった行動から話を始めないといけない。  最近、新しい事務の女性が営業所に配属になった。とりあえず名前だけは紹介されたが、それ以上、興味は湧かなかった。ある朝、出勤時間ギリギリで会社に着いた。その時、彼女は私よりも遅く出勤してきた。私は照れ隠しのつもりで彼女のプライベートの状況を全く把握し

ナンパが死語になりつつある現実を分析してみる……

 最近巷で聞いた話なのだが……。  知人に、私が話しかけた。 「最近の若い男女にナンパしたこととかされたことはあるか? と聞いたら、男女ともに無いですと答えが返ってきたんだけど。じゃあ、どうやってパートナーを探すのかって聞いたら、マッチング・アプリで探すと答えが返ってきた。しかも、ほとんどの男女が、そうしているようだ」 「私も変な話を大学生の男女から聞いたことがある。仲間の前で異性に興味があるような声の掛け方をすると仲間から、あなたってそういう人だったのね、と侮辱されるらしい

お悩み解決の生成AIと、トットとチャットする……

 私の困った性分で、幸せな日々を過ごしていると全くと言って良いほど文章が書けなくなる。一方、大きなトラブルに巻き込まれたり、どうやって切り抜ければ良いのか、まったく見当が付かなくなり鬱病になりそうなくらいに追い込まれると、無性に文章が書きたくなる。何とも困った性分だ。  良い小説を書きたいと思ったら、ずっと何らかのトラブルの渦中にいないと、一本の小説を仕上げることができないことになる。小説の筆が進むことはありがたいことなのだが、わたしの精神が持ち堪えられそうにない。日々沈み切

豆腐の角に頭をブツけて……

「65歳を過ぎて、何をトチ狂ってんだ!」  と勤め先の所長には罵倒された。 「人の恋路を邪魔する奴は、豆腐の角に頭をブツけて死んじまえ!」  と、お返しした。 「どうせ騙されて、むしり取られるのが関の山」   と、最初は否定的だった同年代が多い同僚たちは、今では静観してくれている。  出入り先の会社の中年の男性社員の中には、 「この年になると、20代の恋愛のハラハラドキドキはもう味わえないのかと思うと、寂しくなるね」  と、本音をポロリと漏らす。20代前半の独身女性からは、

チョコレートケーキはしっとり、人はしっかりね

 最近の銀座や六本木のミッドタウンあたりで、シニアのカップルをよく見かける。大概、違和感を感じる手のつなぎ方をしている。多分、マッチングアプリで知り合ったカップルの初デートか2、3回目のデートなのだろう。私たちも、その中のひと組だった。  この先のプランを実行に移すための前哨戦として彼女に質問した。 「今日は、ゆっくりできるの?」  彼女は一瞬の沈黙の後で答えた。 「娘が家にいる」 「そうか。ラブホテルに入ったことある、リサ?」 「ない」  二人の間に気まずい雰囲気が瞬間流れ

在原業平の辞世の句、カッコいい!

「ついに行く 道とはかねて 聞きしかど 昨日今日とは 思はざりしを」  人は必ず死ぬと知ってはいたが、昨日今日という間近で自分がそうなるとは思わなかった  身分も高貴で、人生そのものが栄華を極めた色男。プレーボーイの誉高い「伊勢物語」の主人公とも言われる業平が死を直前にして、さらりとしたこんな句を読むなんて、「カッコいい!」。  未練タラタラでなく、かと言って「人生なんて」と高飛車に出るでもなく、さらりとした句を読むところは、「全てをやり尽くした」という思いと、「もうちょ