【2】いい旅チャレンジ20000km

 小学3年生だった1980(昭和55)年9月、祖母から、9歳の誕生日のプレゼントとしてボードゲームを買ってもらった。エポック社の「いい旅チャレンジ20000km」というゲームだ。

 当時、タカラの「日本特急旅行ゲーム」が、友だちの間で大流行していた。時刻表を見ながら、手持ちの特急券を使って、「味の旅」「自然の旅」といったテーマごとの目的地をまわるゲームだ。リアルな特急券や、時刻表にずらりと並ぶヘッドマークに心を踊らせた。

 僕も、そうした汽車旅気分を味わえるゲームがほしい。そうして買ってもらえたのが「いい旅チャレンジ20000km」ゲームだった。どういう経緯だったかは覚えていないが、外箱に描かれた寝台特急「はやぶさ」に強く惹かれた。

 「いい旅チャレンジ20000km」は、その年の3月から国鉄が始めた増収キャンペーンだった。国鉄の各路線に乗車して、始発駅と終着駅で撮影した「証明写真」を事務局に送ると、国鉄が「踏破」を認定してくれるというもので、最終的には全線踏破、つまり国鉄全線完全乗車を目指すというキャンペーンだった。国鉄が、鉄道趣味を公式に認定するイベントを始めたと話題になる一方、趣味の世界に商売が入り込んでいたと賛否両論を起こしていた。

 ボードゲームは、現実の「いい旅チャレンジ20000km」を忠実にボードゲーム化したものだ。目的地はあるものの、最終的にはボード上の全路線をコマで通過する「全線踏破」が目的だった。初めて通過する路線では、証明写真を撮るために始発駅と終着駅で停まらなくてはならないなど、リアルなルールが面白かったが、ややストイック過ぎるところがあり、子供向けボードゲームとしての面白さは「日本特急旅行ゲーム」ほどではなかった。

 その外箱に、実際の「いい旅チャレンジ20000km」キャンペーンについての説明が書かれていた。自分と、さほど歳の変わらない男の子が、東京駅と鹿児島駅で、駅名標をバックに「証明写真」を撮っている。キャンペーンへの参加方法も書いてあった。

 これだ、と思った。自分がやりたいのは、国鉄全線踏破チャレンジだ。ブルートレインの旅は、1回乗ったら終わってしまうが、国鉄全線チャレンジはずっと続く大きな夢だ。この箱に写っている少年のように、僕も全国の国鉄に乗って、証明写真を撮りたい。これに参加しよう!

 小学3年生の、「国鉄全線踏破」への夢はぐんぐん広がっていった。


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