百花繚乱の中から一輪の花を見つけるということ

花は誰かを見つけようとしている。

美しい花を咲かせて、馨しい匂いを漂わせて、たおやかに、凛として佇むことで、誰かを探そうとしている。

蝶も来るだろう。蜂もやってくるだろう。虫たちはその色と匂いに惹きつけられて、やってくるだろう。

ただ、虫たちは、その花一輪だけを求めてやっては来ない。

他の花にも興味を持って、他の花にも訪れて、花に戯れ気まぐれに蜜を吸おうとする。

花は物言わず、そんな虫たちを眺めている。

隣の花と何が違うのだろう?と思うのだろうか。

隣の花は隣の花、自分は自分と思うのだろうか。

それとも何も思わないのだろうか。

虫たちに混じって、男たちがやってくる。女たちもやってくる。

花咲く季節にやってくる。

荒らされる花たち。

物言わぬをこれ幸いに、美しい花から手折られていく。
甘い蜜を蓄えた花から先に盗まれていく。

ぞんざいに、乱暴な手つきで、花たちが毟り取られていく。

男たちは、それのどこが悪いんだと嘯きながら、げらげら笑いながら、憤慨しながら、狼藉の限りを尽くしていく。

女たちはそんな男を遠巻きに眺めながら、馬鹿にした目つきでくすくす笑いながら嘲り、指を刺している。

虫たちは嘆く。自分たちのせいだと。

男たちは苛立つ。なんで花がいなくなったのだと。

女たちは安堵する。せいせいしたと。

花の声を誰も聞かない世界。

荒地。

不毛な土地となっていく久しく。

かつての賑わいは蜃気楼。

何度も冬が来て。

人が絶えた後に。

花が咲く。

ただ一輪の花が。

花守の骸の上に。


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