会う縁と会わない縁

全て縁とは思わないが、なんとなく思うことがある。

会う人、会わない人、世の中はその二種類だ。

一生会わずに終わる人がいる。

その一方で、会う人もいる。

不思議だなあと思う。

不思議でもなんでもない。

おっと、今日は出てくるのが早いね、伯父さん。

時には早い時もある。

姿見えないけど、また隠れてるの?

またとはなんだまたとは。

またでしょ?どこにいるの?

ここだ、ここ。

僕は立ち上がって声のする方に行った。

ウォークインクロゼットに伯父さんがいた。

何してるの?

良い服を持ってるな。

伯父さんが言ったんでしょ?良い服を買いなさいって。

そうだ。良い服を着ると気分が良い。

教えを守ってるだけだよ。

よしよし。

さっき、不思議でもなんでもないって言ってだけど。

そのことか。

そのことだよ。というか、伯父さんの言葉だよ。

会う人、会わない人がいるということか?

そうだね。

縁というらしいな。

そうだね。

縁とはなんだ?

運命みたいなものかな。会うも会わないも、別れるも別れないも、人がどうこうできないことがあるみたいな。

そう思っているのか?

思ってるというか、時々、不思議だなあと思う時はあるよ。

どんな時だ?

生まれも育ちも生活圏も何もかも違うのに、出逢う時とかかな。

生まれも育ちも生活圏も何もかも違うと出逢わないのか?

普通はそうじゃないかな。

普通というのはよくわからんが、出逢わないのか?

言い切れないけど、確率は低いと思うよ。

何故だ?

接点というか、接触する機会が少ないんじゃないかな。行動する範囲が重なっていないとか。

たとえば、ここにいるお前とシベリアにいる誰か、みたいなものか?

シベリアはともかく、まあ、そうだね。

当たり前だろう、そんなことは。

そうだけど、出逢う人たちもいるから不思議だなあ、と。

それも当たり前だろう。

当たり前なの?

当たり前のことだ。それぞれ、生活圏の範囲を広げて重なる接点ができた、それだけのことだ。単なる運動の帰結だ。

そうかもしれないけど、出逢う人出逢わずに終わる人の違いがあるのが不思議だなあ、と。

それも同じことだ。不思議でもなんでもない。お互いかどちらかが、運動、この場合は行動と言った方が良いだろうが、行動していないから、そうなっただけだ。

つまり、運動があったから、もしくはなかったから、ということ?

そういうことだ。量子や素粒子を見てみろ。あんなにちっちゃくて吹けば飛ぶような存在なのに、運動しているから、出逢うはずもないのに出逢って、出逢ってくっついていたはずなのに別れている。実にダイナミックだ。

いきなり素粒子の話を持ち出されても。

同じことだ。全ては繋がっておる。

極端なんだよね、伯父さん。

では聞くが、お前は行動したからなんとかちゃんと出逢ったのではないのか?

なんとかちゃん?

名前は忘れた。なんとかちゃんはなんとかちゃんだ。お前が今まで出逢ってさよならされた女たちのことだ。

いきなりグサって抉るね。

心地良いだろう?

心地良くないよ。

そうか?だが、事実だろう。お前の運動無くして、なんとかちゃんと出逢っていたと言えるか?

半分はそうだと思うよ。

なんだ、その半分というのは。

自分で理解できる範囲のことだよ。比喩的な言い方だけど。

そうか。なるほど。つまりお前は、理解できるところだけ言及しておるのだな?

そうだね。

つまらん。もっと想像の羽を広げなさい。

そうすると荒唐無稽になっちゃうよ?

それで良い。荒唐無稽というのは客観ではなく主観だ。お前が理路整然としているのなら荒唐無稽ではなくなる。

また屁理屈だなあ。

屁理屈とはなんだ屁理屈とは。

伯父さんの言うことはわかるよ。

よろしい。ならば運動しなさい。

今はいいよ。

つまらん男だな、お前は。それでもわしの甥か?

甥だよ。

運動しなさい。

はいはい。

はいは一回だと何回言えば。

はい。

よろしい。その調子で縁とやらを壊しなさい。

僕は頷いた。

本当に縁とやらがあるのなら、お前は既に出逢っておる。

そうなの?

多分な。

多分なのかあ。

がっかりするな、笑っていなさい。笑う門には福来るというぞ。

伯父さんの口から福音が聞けるとは。

面白いだろう?良かったな。ではさらばだ。

伯父さんは消えた。

梔子の花がテーブルの上に置いてあった。

初夏の香りがした。

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