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ザルツブルク大聖堂のオルガン(鍵盤楽器音楽の歴史、第75回)

ザルツブルク大聖堂の大オルガンは、1703年にヨゼフ・エゲダハによって建造されたもので、つまりゲオルク・ムッファトの頃には存在していませんでした。

それ以前からあるザルツブルク大聖堂のオルガンは、トランセプトの四つ角にサラウンドスピーカーのごとく小オルガンを配置したもので、これは現在も再現されています。ただこれは流石にちょっと特殊な例ですね。

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Salzburger dom 1668-1687.

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https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Pipe_organs_Crossing_-_Salzburg_Cathedral_01.jpg

1703年に新設された大オルガンは、その後の度重なる改修によって内容は全く原型を留めていませんが、外観は18世紀当時とほぼ同じです。ただし、このデザインは当時としてもかなり前衛的なもので、オーストリアのオルガンの典型とはとてもいえません。

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https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Gro%C3%9Fe_Orgel_im_Salzburger_Dom.JPG

建造当時のディスポジションは、外見よりはずっと保守的で、この地域のオルガンの特徴を示しています。ただ、ペダルに32'があるのは、この規模のオルガンとしては異例です。

それを除けば、これはオーストリア、ハンガリー、ボヘミアなどの所謂ハプスブルク領のオルガン様式です。この地域のオルガンは北ドイツのものとはかなり様相を異にし、またいくつか独特の特徴を備えています。

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Rafael Heaston, Organs in Germany and Austria, 1973.

このオルガンにはリードストップは全く無く。ミューテーションも Quint 2 2/3' しかありませんが、代わりに多様な8'のストップが目立ちます。

Viola と Salizional は狭いスケールのパイプによる倍音の多い弦楽器的な音色のストップです 。これは17世紀後半のハプスブルク領のオルガンに特徴的なストップですが、後の19世紀にオーケストラを模倣するようなロマンティック・オルガンが台頭すると、このようなストリング・ストップが広く普及します。

ポジティフは弱い音のストップばかりで、北ドイツのオルガンのようにハウプトヴェルクと互角に張り合えるものではありません。この地域のポジティフは基本的には伴奏用であり、あくまでハウプトヴェルクがメインです。

ハウプトヴェルクにある Horn というのは、3度系を含むミクスチュアで、オーストリアに中世より存在するホルンヴェルクと呼ばれる騒々しい音を立てるミクスチュアのみのオルガンに由来するものです。

ハプスブルク領のオルガンでは、ミクスチュアに3度系のパイプが含まれることが多く、かなり刺激的な音色となっています。これはオルガン全体を1/4コンマ・ミーントーンで調律してこそ本領を発揮するもので、そのためこの地域のオルガンには遅くまでミーントーンの調律が残りました。

ザルツブルク大聖堂の大オルガンは、19世紀の改修によってケースは単なる飾りと化し、第二次世界大戦時には爆撃によって深刻な被害を受けました。現在の大オルガンは1988年に再構築されたもので、3段鍵盤+ペダル、58ストップの折衷的なオルガンとなっています。

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Gerhard Zukriegel, Salzburg: Die grosse Domorgel, 1994.


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