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続クーナウの鍵盤ソナタ、新鮮な果実(鍵盤楽器音楽の歴史、第86回)

クーナウの3冊めのクラヴィーア曲集は、1696年に出版された《新鮮なクラヴィーアの果実 Frische Clavier Früchte》です(1700年再版)。

しかしこれは当時の感覚からいっても、どうにもぎこちなく垢抜けない題名だと思いますよ。

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https://imslp.org/wiki/Special:ReverseLookup/493329

表紙に描かれている鍵盤楽器はクラヴィコードよりはむしろヴァージナルに見えます。

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Virginal by Vincentius de Taeggiis.

https://collection.maas.museum/object/47098

先の《新クラヴィーア練習》は付録のような形で1曲のソナタを収録していましたが、続くこの曲集はソナタがメインとなり、7曲のソナタを収録します。

これは実際新鮮な試みと言えるでしょう、次世代のJ.S.バッハの作品でもクラヴィーアのためのソナタは少なく、ソナタがドイツのクラヴィーア曲で一般的になるのはバッハの息子たちの世代からとなります。

《果実》収録のソナタは概ねイタリア風の室内楽に範をとったもののようですが、内容は様々で、これといって定まった形式というものはありません。強いていえば緩急の交代する4~5の楽節が連なった曲というぐらいのものでしょうか。転調する楽節もあり、そこは組曲と異なるところです。

この統一性のなさを考えると、これらのソナタのモデルはコレッリではなく、もう少し古いジョヴァンニ・レグレンツィ(1626-1690)あたりの作品を参考にしているのではないかと思われます。

〈ソナタ 第3番〉ヘ長調 は5つの節からなり、第2と第4楽節は Aria と題されています。舞踏的な節と歌謡的な節の対比を示しているのでしょうか。

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第4楽節のアリアはニ短調、リリカルな旋律が印象的です。

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続く最後の第5楽節では pianoforte の指示があります。これはこの曲集全体でしばしば見られます。

もちろんまだクリストフォリによるピアノの発明以前のこと、チェンバロならば二段鍵盤の楽器が必要になりますが、例によって4オクターヴに収まる音域を考えれば、やはりクラヴィコードが想定されているように思われます。

クラヴィコードは長い歴史を誇り、強弱をつけられることが大きな特徴であるのにも関わらず、それを活用する指示のある作品がこの頃になるまで見られないのは不思議なことです。

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〈ソナタ 第6番〉変ロ長調 は、またしてもチャコーナで始まります。

こちらのチャコーナは、チャコーナらしいチャコーナです。B♭-A-G-D-E♭-F-G-F というオスティナートバスが見られ、I-VI-V という和声進行が曲を形作っています。

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チャコーナの後にいくつか楽節が続きますが、舞曲ではありません。そして最後にダ・カーポの指示があり、なんと再びチャコーナが繰り返されます。

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