第11回 YCC解除の可能性について

今月1日に日銀から『債券市場サーベイ(11月調査)』が発表された。これは主な機関投資家アンケートであるが、相変わらずJGB村は温い。先行きの金利見通しはポジショントーク全開。10年債の見通しは来年9月末まで0.25%、そして2年債に至っては2024年まで0.00%。向こう1・2年では金融政策に大きな変化はないと思ってる。

10年間何もできなかった総裁

私は上記のアンケートとは全く違う立場を取る。来年3月までに何らかの金融政策の変更があると思っている。その根拠は以下の5点だ。

【1】黒田総裁が退任
黒田総裁は2013年3月の就任。来年3月に退任することが決まっているが、そうするとこの10年間「何もできなかった総裁」という汚名を着せられ退任する。流石にこれはないだろう。退任するにあたって仮に何もできなかった総裁となれば、個人の資質だけでなく日銀の運営方法への信頼または経済学のいくつかの定説を日本が覆してみせたことを世に広めることになる。マイナス金利導入、ベースマネーの増加、長期金利の固定誘導。これらの施策が全くデフレ改善に役に立たなかったと白旗を上げることになる。無論、金融政策だけで世の中をひっくり返そうとしてる反対側で消費税を2回上げたのは金融・財政政策がマッチしていないという情状酌量はあるにしても、教科書的な金融政策を超えた異次元策が有効だったかどうか検証が必要だろう。黒田総裁が何もせずに辞めると言うのはその成果が10年経ってもなかったと宣言するに等しい。

【2】インフレ率の上昇
日銀の政策は当初、物価目標2.0%を視野に入れていたはず。ところが今や賃金が上がらないとダメとか。何を言ってるのか。貰いインフレであろうがコストプッシュであろうがそれは今達成できている。下記グラフは季節調整済みのCPIの源数値である。仮に今から物価が上がらないとしてもコアCPIはベースメント効果もあり対前年比で2.0%をクリアーし、それが来年3月まで丸1年続く(表の黄色網掛け)。

CPI源数値

更に企業物価指数は前年比9.1%なのでこれが価格転嫁されて消費者物価は上昇する蓋然性は高い。因みに米国では価格転嫁が進み企業物価と消費者物価の差は0.3%まで縮まってるが我が国ではまだ5.4%近くとその差は大きい。来年4月に電力料金が上がるのも確定しておりインフレはまだ続く。これでも緩和策を続ける意味はどこにあるのか?低成長経済を支えていくと言うが、IMFによれば2023年は日本はG7の中でもトップクラスの成長率が見込まれているというのに。

PPIとCPIの差の日米比較

【3】異常な金融政策
振り返るべくもなく政策金利をマイナスまで深掘りし、ベースマネーを積み上げるために国債のみならず株式まで買い上げることは異常と言っていい。それが2年限定のショック療法ならいざ知らず10年もやるべきものではない。中々物価が上がらないところへコロナを契機にインフレがやってきた。ここしかやめるタイミングはない。原油高や資源価格上昇によるこの海外からの貰いインフレ(コストプッシュ)では辞めるインセンティブに乏しいと難癖が始まってるが、コストプッシュであろうがインフレに対して中銀が目を瞑るということはあってはならないし、実際コロナを契機に世の中にバラまいたマネーは10万円の給付金始め枚挙に事欠かない。これを国内インフレの原因になってないと言い張るのか?最近では賃金上昇を伴わないでは困ると仰せだが、下記グラフを見ればそんなことはない。しかもアメリカのように9%のインフレの中で5%しか賃金が上がらず相対的に購買力が負けてるわけではなく、日本では3%のインフレで1%の賃金増だから、この差がマイルドなうちにこそ金融政策を変更するチャンスである。そうしないとしないと後々痛みを伴う。

毎月勤労統計

【4】YCC解除のメリット=再投資利回りの向上
この表は11/18時点での日銀が保有する国債の年限別残高。3年以下で35%、5年以下で55%と結構中短期に寄っている。金利が上がって評価損が云々の馬〇は置いておいて金利が上がれば早いうちにその高い利回りで再投資が可能なことを示している。しかもである。例えば今、日銀が保有している3年債とは如何なるものか?2年前に買った5年債、3年前に買った6年債、4年前に買った7年債、5年前に買った8年債・・・全てマイナス利回りの債券である。これが償還になりプラスの利回りで再投資できることで、現在0.2%と言われてる日銀ポートの利回りは飛躍的に改善する。YCC解除を宣言し、償還になる債券の9割を再投資しながら残高を減らしていけばよい。マーケットインパクトを与えない出口戦略である。この日銀ポートの債券利回り向上は当期利益が嵩上げされることによって当預への付利(つまり利上げ)の余裕を創り出すことにもなる。正常化への道が見えてきている。

【5】民間銀行のとっても金利上昇はプラス
下のグラフは民間銀行が保有する国債と総資産に占めるそのウェイトである。アベノミクス以降、ダダ下がりでもう国債保有比率は6.2%しかない。例え一時的なYCC解除ショックで金利が高騰しても十分耐えられる。しかも、これだけ国債比率が低いと金利が上がったならば債券投資のまたとないチャンスでもある。そうすれば当預の残高も減る。日銀にとっては次の一手がやりやすくなる。

民間銀行の国債保有残高

<まとめ>
ベースマネーを増やしてそれがマネーストック増へとつながっていくという日銀の当初の目論見は正直破綻している。2016年からは量的緩和の量から金利水準へのターゲットを変えた(それがYCC)。しかし期待インフレの醸成に繋がっていないだの、賃金が恒常的に上がり需要不足が解消しマイルドなインフレがやってくるなどハードルを上げて絵空事に拘っていてはいつまで経っても異常な超低金利政策からは脱却できない。しかし有難いことに外からインフレはやってきた。目標の2.0%もカタチだけではあるが達成できた。コロナ過で数々の給付金をバラまいた財政政策と超緩和的な金融政策の効果がインフレ目標を達成したと言ってしまえばいい。何も利上げをする必要はない。YCCの解除だけで円安は止まるだろう。それだけのインパクトはある。

本日は以上です。

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