第三話 「少年が好きなのであって、ショタコンではない。」

※本作品は、ホロライブおよびボーカロイド楽曲・動画の二次創作です。
※登場人物に関する解釈違いはご容赦願えると幸いです。

https://www.youtube.com/watch?v=Rg5r1k-pZGU&list=RDRg5r1k-pZGU

元動画・楽曲様たち

☆ー☆ー☆ー☆ー☆ー☆ー☆ 

 星街すいせいは、昼下がりのコーヒーショップ、店外に設けられた喫茶スペースで、淹れたてのセイロンに舌鼓を打っていた。

「むっ、私のレーダーが反応している! 少年の気配!!」

 しかし、ティーカップを置き、やにわに立ち上がると、目をすがめながらストリートに視線を走らせる。

「あそこで少年が泣いている!」

 見れば、100mほど離れたところで、少年がうずくまって泣きべそをかいていた。ハーフパンツから覗かせた膝小僧からは血が滲み出し、どうやら転んでしまったようだ。

「少年が泣いているなんて! いやでも、少年の涙も、それはそれで甘露なんですけども!」

 言いながら、すいせいを駆け出した。トレンディスーツを着ているとは思えないほどの機敏さで接近する。

「Hey, sweet boy!(やあ、少年!)」
「ひゃ、ひゃい!」

 猫みたいにびっくりして背筋を伸ばした「彼女」の顔を間近で見て、すいせいは首をかしげながら、

「Wha...you're a girl?(キミ、女の子?)」

 服装はいかにも少年然としているが、雰囲気は中性的で、声に至っては少女のようである。てっきり好みの少年と思って手を差し伸べたすいせいは、思わず鼻白む。

「い、いえ! ボ、ボクは、男です!」

 突然声を掛けられた天音かなたは、辛うじて聞き取れた「girl」という単語に反応して何度も首を振る。自分が女だと知られてしまっては、もう二度と日本の土地を踏めなくなるかもしれない。

 そんな疑念が思わず脳裏をよぎってしまうほどに、かなたの目の前に現れた星街すいせいという女の恰好は、奇抜であった。

 青を基調としたトレンディスーツに、同色でまとめられたハイクラウンハットは、まるで漫画の中から飛び出してきたようにも、あるいは、マスカレイドの参加者のようにも思える。

 しかし、奇抜でありながら、それを完璧に着こなしてしまっている彼女に、かなたはしばし目を奪われていた。

「……日本語、だよね? キミ、日本人?」
「は、はい! えと、日本語、お上手なんですね」

 ぽかんと口を開けていたら、不意に耳なじみのある言葉が聞こえてきて、かなたは正気を取り戻す。

「で、そんな日本人のキミが、どうしてこんなところで泣きべそかいてるの? この辺りは観光地でもないし、ホテルも少ないし」
「その……道案内をお願いしてた人がいたんですけど、一瞬目を離した隙にいなくなっちゃてて……」
「それは大変! 大丈夫、お財布とかは盗られてない?」

 かなたは、そらに置き去りにされてから、公園を離れてひとりふらふらと歩き回っていた。というのも、スマートフォンのバッテリーもいつの間にか切れてしまい、道案内を完全にそらに任せてしまっていたために、おおまかな自分の現在地すらも分かっていなかったのだ。

 挙句、舗装されていない道に足を取られて転んでしまい、痛みと不安からたまらず泣き出してしまったのであった。

 相手が日本語を話せるという安心感からか、かなたが委細事情を説明すると、しばらく頷いていたすいせいは、不意に不敵な笑みを浮かべた。

「だったら、ウチに来る? おいしい紅茶を出してあげるから。それから、すりむいた膝の消毒もしないとね」

 そしてがっちりとかなたを手を掴む。
 そこではたとかなたは気付く。
 もしやこれって……。

「大丈夫大丈夫、ヘンなことはしないから!」
「いや、でも、ボク、ひとりで帰れます! 大丈夫です!」

 抵抗しようと身じろぎしてみるが、すいせいの握力は、その細みの腕から発せられるとは思えないほどに強い。

「あの、えっと、あの……!」
「うーん、でも、うちに持って帰ったらトワ様怒るだろうし……」

 既にすいせいは聞く耳を持たない。

「あっ、そうだ。ここの近くなら――」

 そしてかなたは、ずるずると引きずられるように、すいせいにお持ち帰りされたのであった。……

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