第二話 メリトクラシーよりも飯と暮らし

※本作品は、ホロライブおよびボーカロイド楽曲・動画の二次創作です。
※登場人物に関する解釈違いはご容赦願えると幸いです。

元動画・楽曲様たち

☆ー☆ー☆ー☆ー☆ー☆ー☆ 

「あそこのコーンドッグが美味しくってね。それから、あっちの――」

 そらに手を引かれて進んでいくマンハッタンの街並みは、空を突く摩天楼とはうってかわって、平たい屋根の連なる景色であった。

 人通りは多くも、猥雑というふうではなく、建物も人も垢抜けていて、ところどころに見つかる飲食店のたびに、そらは指さし指さし、オススメのグルメを教えてくれる。

 かなたとしてももちろん興味はあったが、それよりも目に付いたのは、道行く人々の服装であった。

「あの、そらさん。あの人が着ているお洋服って……」

 かなたが視線を向けた女性で「三人目」。ブロンズの髪を一本結んで、ボーイフレンドと思しき男性と仲睦まじく手を繋ぐ彼女の服装は、青を基調とした快活な意匠。
 普段着として身に付けるにはすこし派手ではなかろうかというほどのそのデザインは、しかし、一人目の女性とも、二人目の女性とも同じものだったのだ。

「んーっとね、なんていうか、流行り?」
「それってもしかして――」

 と、食ってかかるようにそらに詰め寄ろうとして、

「へぶっ!」

 足をもつれさせ、前につんのめったまま、かなたは見事にすっ転んだ。
 その拍子に、リュックサックの縛り紐が緩み、散らばる中身。財布、パスポート、ポーチ、それから、

「スケッチブック?」

 そらの足元にまろびでてきたのは、どこにでも売っているようなスケッチブック。しかし、ところどころ水に濡れた跡や、シミや汚れ、挙句には火をつけたような痕もある。

 それを拾い上げて、いけないことと分かりつつも、そらはページに手をかけた。
 そこに描かれていたものとは、

「――――」

 一枚、二枚とめくったところで、そらはスケッチブックを閉じた。そしてかぶりを振り、視線を足元へと戻す。

「はい、これ」

 顔面をしたたかに打ち付けてもんどり打つかなたに、スケッチブックを手渡すと、ひったくるようにそれを掴み取り、財布よりも、パスポートよりも早く、リュックサックの底へとしまいこんだのだった。

「あ、あ、ありがとう、ございます……」

 中を見られたのではないだろうか、そんなふうな、不安げな目がそらを突き刺す。しかしそらは、そんなかなたの視線を涼しげにかわすと、

「歩き疲れちゃったね。あそこの公園で一休みしよっか」

 こんどは、かなたの手を握らず、先導して歩き出す。ようやくリュックサックを背負い直したかなたは、慌ててその背中を追いかけた。

 そらとかなたが訪れた公園は、ふたりが出会ったそれよりも随分小さな、それこそ、日本でも十分目にすることができる程度のものだった。

 犬の散歩をする男性、ジョギングをする女性、走り回る子供たちを後目にベンチに腰掛けると、かなたは細く長いため息を漏らした。

「あの、案内してくれてありがとうございます。そらさんのおかげですごく楽しかったです。ボク、いままで海外旅行なんてしたことなくって、……そもそも、あんまり家も出ないんですけど……でも、さいごにどうしてもアメリカに来たくって。勇気を出して来た甲斐がありました! それで、ここまで案内してもらっておいて厚かましいお願いとは思うんですけど、そらさんにちょっと聞きたいことがあるんですけど――」

 そらへの感謝と感激を述べて、そしていよいよ本題に踏み込もうと、隣りに座っているはずのそらへ振り向こうとして、

「って、あれ? そらさん?」

 そこには誰もいなかった。そんなはずはない。つい、数十秒前まで、彼女はここにいたはず。一緒にベンチに座ったはずだ。

「そらさん!? そらさーーーん!?」

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