【二次創作小説】Fate/Dead Line 第一話 夏森の聖杯戦争[1]



 藤堂 雅和が目を覚ますと、そこは見慣れない列車の中だった。まるで大正時代にタイムスリップしたかのようなレトロな木造列車。
 外は夜で暗いはずなのに、なぜか地面が輝いている。
「ケンジ! この人、目を覚ましたよ!」
 金髪の子どもが大きい声を出してケンジを呼ぶ。
「そんなに大きい声を出さなくても、ケンジは来るよ。ジョバンニ」
 藤堂を目を覚まして非常に喜んでいる金髪の子ども──ジョバンニを諌める青髪の少年。
「何言ってるんだよう、カムパネルラ。大事なことはキチンと言わないと」
「そうだね……」
 思うところがあったのか、青髪の少年──カムパネルラは、ジョバンニに申し訳なさそうに目を伏せた。
 そんな二人の会話を聞いていたのか、水色の髪の少年が、眉間に皺を寄せてやってきた。
「おい、お前たち。ここからは大人の会話だ。どこかへ行け」
「そういうアンデルセンも子どもじゃない? そう思うよね、カムパネルラ?」
「俺はそういう口答えが嫌いなんだ。賢治とこいつは話をしなければならんのだ。何も知らない子どもたちが聞いていい話にはならんだろうさ。後で俺の書いた話でも読み聞かせてやるから、向こうに行ってくれ」
 二人は、少し残念そうな顔をしてこの場を立ち去った。
「さて、賢治。人払いは済ませたぞ」
 アンデルセンの合図で、路地で垣間見たコートの青年が現れる。
 女の槍武者と対峙していたあの青年だ。
「やあ」
 笑顔で青年は藤堂に屈んで語りかける。
「ど、どうも」
「ここ、どこかわかるかな?」
「列車の中です」
「うん、概ね合っているね。今日は何月何日?」
「二〇一九年九月二十二日……です」
 朧げな記憶を引き出して、藤堂は青年に伝える。
「うん、大丈夫そうだね」
 非常に安堵した青年は、列車の席に前に屈んで座った。
「さて、まずは僕のことを話さないとね。僕の名前は宮沢 賢治だ。普段はライダーさんって呼んで欲しいな。そしてキミがいるここは『銀河鉄道』だ」
「宮沢 賢治……?! あの、有名な……?」
「有名……なのかなぁ? 僕の作品、そんなに読まれてるのかなぁ?」
「ええ、まあ。かなり有名ですよ」
 ライダーは無邪気に笑い、頬を赤らめた。
 ──宮沢 賢治。大正時代に活躍した童話作家であり、教師である。彼の著名な作品はいくつも存在し、日本人であれば『銀河鉄道の夜』、『雨ニモ負ケズ』などの作品は一度は目を通すであろうほど有名な人物だ。
 驚く藤堂を見て、ライダーは笑った。
「そ、そうかい? そう思ってもらえると僕としても嬉しいんだが……。そしてこっちにいるのが、かのアンデルセン先生だ」
「アンデルセン……?」
 聞き覚えのあるようで、ない名前。その様子を見て気に入らなかったのか、アンデルセンは眉間にシワを寄せながら口を開けた。
「イマイチ反応が悪いな。俺の作品はそこまで浸透していないのか? やっぱこいつは野放しにしておくべきだったんじゃないのか?」
「やめてくださいね。先生」
 アンデルセンの皮肉に一生懸命制止をかけるライダー。
「差し支えなければ、キミの名前を教えて欲しいな」
「藤堂 雅和です。高校生です」
「藤堂くんね……」
 舌で転がすようにライダーは名前を呟いた。
「宮沢──じゃなかった。ライダーさんとアンデルセンさんがいるということは、オレは死んだんですか?」
 目の前に歴史人物がいる、見覚えのない列車に乗っている、自分は刺されて意識を失っている、この条件に当てはまる状況は一つしかない。
 ──自分が死んでいることだった。
 その藤堂の言葉を聞いて、ライダーは豆鉄砲を喰らった鳩なような顔をした後、頬を緩めて
「いや、キミは死んでないよ。僕らが助けたんだ。正直危なかった。僕もしがない教師だったから、止血することくらいしかできなかったけど、まさかここまで持ち直すとは思わなかったよ」
「俺のおかげでもあるからな。感謝してネタをくれ」
「じゃあ、どうしてオレは?」
 何もかもが理解不能だ。
 目の前に歴史人物がいるわけがないし、何もかもが説明不可能なのだ。
 困惑する藤堂に、ライダーは険しい表情で口を開く。
「キミは聖杯戦争に巻き込まれたんだ」
「聖杯戦争?」
 そうだ、とライダーは肯定した。
「七人の魔術師とそれに従う使い魔──サーヴァントが互いに覇を競い合う事実上殺し合いだ」
「殺し合い……」
「最後の一組になった魔術師とサーヴァントはあらゆる願いが叶えられる願望器──即ち聖杯が与えられる」
「そんな夢物語のような話が……」
「信じられないかもしれないが、これは現実なんだよ」

 ライダーによると、聖杯戦争とはつまりは魔術儀式らしい。
 本来は聖杯の完成を以て、不可能とされてきた『魔法の成就』を目的にとある日本の地方都市──冬木で行われた儀式が基になって行われているものだという。
 冬木の聖杯戦争は十数年前まで都合五回開催されていたのだが、夏森の聖杯戦争はこれで二回目であるという。
 また、魔術師が召喚するサーヴァントはあらゆる時代、あらゆる国の英雄が選ばれるという。
 それには『役割/器クラス』が存在し、『剣士セイバー』、『弓兵アーチャー』、『槍兵ランサー』、『騎兵ライダー』、『暗殺者アサシン』、『魔術師キャスター』、『狂戦士バーサーカー』の英雄の逸話に合わせて七つのクラスに振り分けられて召喚される。
 そして、目の前にいるライダーと呼ばれる人物は、『騎兵ライダー』のクラスで召喚された宮沢 賢治ということになる。
 そして、ランサーのサーヴァントに背中を刺された後、藤堂 雅和は意識を失う直前に、セイバーのサーヴァントを偶然召喚し、マスターになったという。
「──ということだ。何か質問はあるかな?」
「オレが……マスター?」
「そうだ、『剣士セイバー』のサーヴァントを呼んだマスターだ」
 放心状態になった藤堂にライダーは追い打ちをかけるように話を続ける。
「僕は前回の聖杯戦争にも参加していたんだ。その時に藤堂という名前の男を見たような気がする」
「前回の聖杯戦争はどんなことがあったんですか」
「みんな知っている人だったよ。三島先生の幸運判定が含まれた熾烈な猛攻、鴎外先生の一般市民をも巻き込んだ大規模精神洗脳、夢野先生の地獄再現、僕がまともに会話できたのは、アサシンとして召喚されていた太宰 治先生くらいだった。あと、芥川先生も召喚されていたけれども、彼の書いた羅生門と、彼の書き下ろした地獄変などの不気味な作風の逸話も相まって、まともに会話できる状態ではなかった」
 やけに日本人の文豪で固まっている。過去に何か、文豪を甦らせる──みたいな儀式でもあったのだろうか?
「特に、芥川先生の宝具『地獄変じごくへん』は危うくこの夏森の街を焦土へ変えかけた。もう二度と芥川先生をバーサーカーとして呼んではいけない。あれはコミュニケーションも図れないほどの創作欲を前面に押し出された獰猛な側面を強調されている厄介な──」
「あの……」
 ライダーの独り言に、藤堂は待ったをかけた。
 本来は創作を行なっていたさがなのか、ライダーは一度語り出したら止まらないようだ。
「おっとすまないね。では、次はセイバーを交えて話をしよう」



 ──あの頭痛はなんだったのだろう。
 刺したはずの青年が召喚した謎のサーヴァント。人間の言葉すら発しないこの世に在ったのかどうかすら怪しい近未来な容姿をした少女。
 アレは『剣士セイバー』だ。それは間違いない。それ以上にあの頭痛には人間──否、全人類に対する計り知れないほどの憎悪が秘められていた。
 ランサーのサーヴァント──あの頭痛は彼女にとっては毒でしかなかった。
 思考を何かに塗りつぶされそうな気がした。
 思い悩んで階段に座るランサーの背後から、初老の老人がやってきて、ランサーの隣に座った。
「どうしたのだ。信繁よ」
「父上──いや、キャスター。ここでは某の真の名を伏せておいてお話しください」
「四○○年来の親子の会話ではないか。真名で呼び合うことも許せ。マスターに叱られてしまうかもしれんが、この真田 昌幸が責を取ろう」
「父上──」
「どうしたのだ。偵察から帰投してからお前は随分と眉間に皺を寄せているのが気になってな。一応、ライダーのサーヴァントが子どものようであったとお前は報告していたが──それ以外にも何か見たのではないかね?」
「……」
 それは父親の勘なのか、戦国を生きた者の勘なのか。ランサーにとっては知る由もなかったが、キャスターの言うことは的を射ていた。
「実は──」

「ほう、セイバーのサーヴァントの宝具を受けた、と?」
「はい。アレはもう人類に対する憎悪でした。私も徳川に与するモノを鏖殺するアヴェンジャーの適性を持っています。あのままセイバーの宝具を受けると本来の目的を見失いそうな気がして。やむを得ず撤退したのです」
 ランサー──真田 信繁はキャスターのサーヴァントとして召喚された真田 昌幸に申し訳なさそうに目を伏せて語った。
「撤退したことが情けなかったと、お前は言いたいのかね」
「……はい」
 キャスターは、思案する。そして、ランサーの肩を叩いて立ち上がった。
「それが、当時のお前にとって最善の選択だったのならば、そこまで自責することはないのではないか。人生──我らにとってはもうそれは過去のものだが、人生とは失敗がつきものだ。危険だと感じたら逃げるのも、勝つための手法の一つだ。真田はそうやって生きてきたではないか」
「ですが……!」
 あの時──徳川を討ちきれなかった無念。目の前に徳川 家康が居たというのに、目の前で力尽きてしまったあの出来事を忘れるわけにはいかない。
「お前の言いたい気持ちもわかる。だが、我が娘──信繁よ。もしあそこで家康を討てば、死ぬのは信之(=信繁の兄)と儂ぞ」
 キャスターは、そうして踵を返して
「信繁。お前は自分の信念に生きればよい。そうでなくてはお前は生きていけぬ。己が信念のために生きるのは決して悪いことではない。努々ゆめゆめ、忘れるでないぞ」
 階段を登って、立ち去っていった。
「兄上……、私に力をください……」

To be continued...


○CLASS:RIDER

マスター:???
真  名:宮沢 賢治
性  別:男性
身長体重:174cm・71kg
属  性:秩序・善

筋力:B     魔力:B
耐久:C     幸運:B
敏捷:B     宝具:A

[クラス別スキル]

対魔力 B:魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。

騎乗 A:幻獣・神獣ランクを除く全ての獣、乗り物を自在に操れる。
 
単独行動 C:マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。ランクCならば、マスターを失ってから一日間現界可能。
 
道具作成 E:魔術的な道具を作成する技能。本来はライダーの持つスキルでないため、ランクは大幅にダウンしている。

[固有スキル]
 
付属英雄 C:過去に実在した英霊を一体、付属として召喚することができる。Cランクだと幻霊レベルであり、完全にその英霊の能力を使用することができない。

永訣の朝 A:詳細不明

風野又三郎 A+:周囲に風を巻き起こして、攻撃の軌道をそらせるスキル。完全に幸運に依存するスキルであり、幸運判定に失敗すると、このスキルは無効化されてしまう。


[宝具]

『銀河鉄道の夜(ぎんがてつどうのよる)』
ランク:EX    種別:???
レンジ:??    最大捕捉:??

 宮沢 賢治の持つ第一宝具。銀河鉄道に人を乗せることもでき、最終的には原作通り『暗闇』へと誘うことも可能。轢死もできないことはないが、彼の性格上犠牲を出すのはあまり好ましくないため移動手段とマスターの保護目的でのみ使用している。どことどこを結ぶ線なのかは定まっていないため、使い終わったら異空の穴の中に銀河鉄道が入る形で退場する。銀河鉄道の中身は木造で、外は青く塗装されている。此度の聖杯戦争では、上述の付属英雄スキルの影響で乗客としてアンデルセンの幻影が乗車していた。

・『貴方のための物語(メルヒェン・マイネス・レーベンス)
ランク:D     種別:対人宝具
レンジ:??    最大捕捉:??

 宮沢 賢治の第三宝具。ハンス・クリスチャン・アンデルセンから借りた宝具。その真価はこの本を白紙に戻して彼に執筆して貰うことで、対象を1人の主役として育てることにあり、脱稿することが出来れば「その人間の究極の姿」へと成長させることも可能である(ピクシブより)。
 銀河鉄道に乗っていたアンデルセンの幻影から宝具を借用する形で使用することができる。通常の使い方とは異なるようだが、彼なりのアンデルセンのリスペクトがよく伝わる宝具である。

 ※ライダーはその他三つ宝具を持ち込んでいるが全て詳細不明。


  あとがき

 どうも、カガリです。
 今日はネタがないので早めに終わらせます。前回の聖杯戦争に呼ばれたサーヴァントは、三島 由紀夫、森 鴎外、夢野 久作、宮沢 賢治、太宰 治、芥川 龍之介の六人に、プラス一名です。
 
 ここまでセイバーとバーサーカー以外のサーヴァントは登場しましたが、真名看破しましたでしょうか? 真名予想等あれば、是非是非コメントやTwitterにリプ等送っていただけると幸いです。
 そして、もしもこの作品は面白いと思ったら、たとえアカウントを持っていなくても『いいね!』はできますので、何卒、アクションいただけると私めっちゃ嬉しみます。
 では、次の作品でお会いしましょう。

 かがり

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