個人事業で取得した旅館業許可を、株式会社などの法人に承継できるか

最近、旅館業を個人経営している方で、旅館業許可を子に承継できないかといったご相談を頂くケースが増えてきました。高度経済成長期を支えてきた経営者もご高齢となり、事業承継を検討せざるを得ない時代に突入したことを実感します。

その際、株式会社などの法人を設立して、その法人で許可を継続させて営業したいというご要望もあります。(いわゆる「法人成り」)

では、個人から法人に旅館業許可を承継させるには、どうすればよいでしょうか。


そもそも、人間は、法律上「自然人(しぜんじん)」と呼ばれます。他方、株式会社や合同会社など法律で認められた人は「法人」と呼ばれ、自然人とは別の存在として扱われます。(営業上の自然人は法人との対比で「個人」と呼ばれることが一般的です。)

仮に、Xさんが株式会社Aの代表取締役であり、100%株主でもあったとしましょう。「自分の会社で自分一人しかいなければ、法人も個人も同じようなものだろう」と思われる方もいるかもしれません。しかし、Xさんと株式会社Aとは法律上、別人格としてみなされるため、同一ではありません。

つまり、Xさんが個人事業主としてある建物で旅館業許可を取得していたとしても、それはXさんに与えられた許可であり、株式会社Aの許可ではありません。

したがって、Xさんではなく株式会社Aとして営業する場合など、法人成りでは改めて新規で旅館業許可を取り直す必要があります。


他方、このような法人成りとは異なり、許可を取得した個人が死亡し、相続人への「相続」による承継の承認申請をすることで、旅館業許可を承継させることは認められています。(反対に、生前贈与的に相続発生前に承継させることはできません。)

この場合、承認申請の期限が定められており、被相続人(亡くなった方)の死亡から60日以内に承認申請書を提出しなければならないとされていますが、実際にはそのルールを知らずに60日を経過してしまい許可が失効となってしまうケースもあると思われます。

このような承継手続の失念や失効は、あらかじめ法人で許可を取得しておくことで回避することが可能です。なぜなら、法人(ここでは株式会社とします)は株主や代表取締役が亡くなっても、基本的に法人そのものは存続し、許可も存続するからです。


ところで、法人成りでも新規で許可を取り直せば良いのではないかと思われるかもしれません。手間はかかるかもしれないが、手続をすればよいのでは、ということですね。

しかし、法改正による厳格化や、建物の構造が現行法規に適合しない・違反建築物になっているなどにより、許可取得のハードルが高くなってしまったり、是正工事に多額の費用がかかるために、法人成りでの新規許可取得を断念するケースも考えられるところです。

将来の事業承継も考慮に入れた上で、早めに行政書士・建築士等の専門家に相談して対策を講じておくことをおすすめします。節税なども考慮に入れると、税理士への相談も必須でしょう。


※事業承継に伴う許認可の承継は近年の行政手続上の課題となっており、昨今、その対策としての法令の改正が多く見られるようになりました。

しかし、旅館業法については、旅館業法施行規則の改正(令和2年12月15日施行)で「事業譲渡」の際の許可申請の添付書類の一部省略、相続による承認申請の添付書類の戸籍謄本に代わる法定相続情報一覧図の添付を認めたものの、抜本的な改正には至っていません。

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