行政書士の入管手続き業務と通訳者の考察①

 今回、外国人の入管手続きを取り扱う行政書士が通訳者を介して業務を行う場合について、私が思ったこと、通訳時の注意点を考察してみます。

 以下、主に行政書士向けの内容となります。

外国語ができることは必須?

 「行政書士が外国人の在留資格に関する手続き(入管手続き)を業務として取り扱うにあたり、外国語ができることは必須ではない」という話を、ウェブサイトなどで見聞きします。

 論者によってその意味合いは異なるでしょうが、上記の意見の理由としてはおそらく以下の2点かと思われます。

1)外国人といえども、日本に暮らそう・暮らしている外国人は、ある程度の日本語を話せるから

2)日本語を話せないとしても、例えば日本人の配偶者や友人など、身近な通訳者がいるから


 これらのようなケースは、確かに実務では珍しくないので、「行政書士が外国人の在留資格に関する手続きを業務として取り扱うにあたり、外国語ができることは必須ではない」という意見は、これら2点の事案を取り扱う限りにおいて正しそうです。

外国語ができることが”売り”になる

 とはいえ、特定の外国語が堪能であれば、逐一通訳者を介さずとも依頼者とのスムーズなやりとりが可能となります。言語を知ることで、その国の文化に触れる機会も増え、依頼者のより高い信頼を得られるでしょう。
 実際、行政書士の中には、「〇〇語対応」を謳うところは少なくなく、行政書士自身がその言語を話せる場合もあれば、通訳者をスタッフとして置いているところも見られます。
 依頼者からすれば、そうした外国語でのやりとりができる事務所は相談・依頼のハードルが低くなるでしょうし、受任できる案件の幅も広がります。

 したがって、外国語ができる場合には、入管業務を取り扱う行政書士にとっては有力な営業ツールにもなり、業務遂行上の強力なスキルにもなると言えるでしょう。

通訳を介したコミュニケーションの問題点

 しかし、行政書士が通訳者を介して外国人の在留資格に関する手続きを代行する場合、面談、調査、資料収集、書類作成、提出、その後のアフターフォローまでのプロセスの中で、正確な事実確認が必要な場面や、正確な法制度の説明が必要な場面など、本来は高度な通訳能力が求められるはずです。
 在留資格は外国人が日本で適法に在留し、就労・生活等をする上で、命の次に大事とも言えるものですから、万一、説明に間違いや事実に齟齬があり、その結果、在留資格の取り消しや、オーバーステイ等をしてしまえば、その外国人自身(ときにはその家族も)の人生を大きく変え、時には取り返しのつかない事態を招くこともあるかもしれません。

 行政書士側から伝えた内容(例えば、「これをすると不法就労になる場合がある」、「この手続きはこの日までに必ず行うように」といった助言や案内、報酬の額や支払い方法など)が、正確に本人に伝わっていないと、後にトラブルになる可能性があります。
 また、ヒアリングの際には本人の過去の犯罪歴や退去強制も含めた出入国歴、家族関係といったセンシティブな情報を確認する必要があります。
 これらは申請に必要な情報である一方、本人のプライバシーに関わる情報でもあることから、本人と通訳者との関係を踏まえてヒアリングの際には注意しておくべきでしょう。通訳者が、そうした情報に何らかの形で関与していたり、本人にとってその通訳者には伝えたくない情報であることも考えられるところです。


 続きはまた次回。

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